29 犠牲者=ソフィア
文字数 2,603文字
アリスは、その声を聞いて真っ青になった。
ものすごく聞き覚えのある、妖精のような声だった。
デビルラフレシアの葉から下を見た。
そこには、はっきりとお菓子のお城が映っていた。
アリスは、お花のお城の向かう道中でパティスリーの声を聞いたことを、ようやく思い出した。
あの距離でもパティスリーの声がはっきりと聞こえているということは、竜巻の高さでも聞こえてしまうということだった。
パティスリーに声がバレないよう、最初はヒソヒソ声で話だしたアリスだったが、徐々に声が大きくなり、一瞬だけデビルラフレシアの目が二人に向けられたように見えた。
それでも、デビルラフレシアは何も言わなかった。
その代わり、下から声が聞こえてきた。
慌ててるってことは、ラフレシアと一緒にいるの決定だね。
たぶん、お菓子を食べさせてあげる、で釣られたわけだよね。
アリスは、パティスリーに謝ることしかできなかった。
言い訳も何も、全てパティスリーが言ってくれたからだ。
その言葉を聞いて、パティスリーはさらに声を大きくする。
あのね、分かってると思うけど、ラフレシアは竜巻でお菓子を吸い上げちゃう、悪い奴らなんだ。
このお城からお菓子がなくなっちゃうんだよ。
そんな奴らに付いて行って、どうするつもり?
アリスとモンキは同時に声を合わせて、パティスリーに言った。
すると、パティスリーから深いため息がこぼれる。
お姉ちゃんらしいよ。
言っちゃ悪いけど、お姉ちゃんはバカ。
バカ中のバカ。
……本当に、バカだね。お姉ちゃん。
じゃあ、ラフレシアを倒すまで帰ってこなくていい、というのはなしにするよ。
その代わり、もしラフレシアと一緒にこの城を襲ったら、その時は、このお姉ちゃんをチョコレートの沼に沈めるよ。
息できなくなるんだろうなー。
私、とばっちり……?
アリス、私をどうしてくれるの。
パティスリーが、突然ソフィアの耳元に飛び跳ね、死刑宣告とも言える言葉を口にした。
ソフィアの悲鳴が、アリスの耳に聞こえてくる。
アリスが降参すれば、私死ななくて済むのに……。
アリス、ひどい……。
お菓子のために、どうして人の命を犠牲にできるわけ?
お菓子バカは、A級ブラックリストに入れるから、もう何やってもダメだよ。
まぁ、それに逆らって竜巻で降りて、このお姉ちゃんを見殺しにするしか道は残ってないみたいだから、いい加減諦めたら?
通信がプチンと切れるような音を、アリスは耳ではっきりと聞いた。
完全にお菓子のお城を怒らせてしまった。
アリスは、ついに下を向き、自分の言動を振り返った。
そこに、モンキが声を掛ける。
モンキのため息が、竜巻の中に消えていく。
アリスは、その場で呆然と立ち尽くした。
その沈黙を破るように、デビルラフレシアの目がアリスをじっと見つめ、告げた。
アリスは、思わずデビルラフレシアに聞き返した。
まさか筒抜けになっているとは思わなかった。
俺も、あの声を聞けるようになっているんだ。
それはそうとお菓子のお城が、楽しい空間ではなくなってるようだ。
むしろ、人が生死をさまよっているような、絶望に満ちた空間だ。
そんな場所を襲うことなど、いくらパティスリーが憎たらしいからといって、襲うことはできない。
アリスは、自ら招いた結果に対して何も言えなかった。
あまりにもバカをやったおかげで、ソフィアもモンキも、デビルラフレシアすらも傷つけてしまったのだから。
だが、デビルラフレシアの言葉はそれで終わらなかった。
じっとアリスを見つめたまま、低い声で言った。
少しずつ遠ざかっていくお菓子のお城を見ながら、アリスは小さくため息をついた。
何もかもが不安になって仕方がなかった。