17 嘘つきアリス お説教の時間
文字数 2,675文字
お菓子のお城から響いた不思議な声は、アリスとモンキにラフレシアに襲われた事件をありのままに伝えた。
その声が一段落すると、アリスは深いため息をついた。
そう。
言われてみれば、今までお菓子を食べられたときは風が吹いていたような気がするんだ。
そこで怖くなって……、柱とかに隠れているうちに食べられちゃってたんだよ。
アリスは、軽々しくそう答える。
すると、その声の口調が突然変わり、聞き覚えのありすぎる声へと変わった。
アリス、私が屋根に立ったら床が抜けるわ。
ただでさえお菓子なんだから。
お菓子のお城の妖精。
ケーキの形をしてる。
アリスの声が、突然裏返った。
実物を見ていないとはいえ、頭の中にケーキの姿を思い浮かべたアリスは、震え上がるしかなかった。
そういうわけ。
で、お姉ちゃん。
そうは言ってるけど、もしかしてその竜巻に出会ってない?
空から聞こえる不思議な声がパティスリーに戻った瞬間、その声が突然ゆっくりになった。
アリスには恐怖すら感じる。
パティスリーの声で、アリスとモンキは我に返った。
特にアリスはヒソヒソ話で言ったつもりなのに、それすら声を拾われていたのだった。
そうなんだ……。
やっぱり、お姉ちゃんは弱かったんだね。
突然、モンキが口を挟んだ。
アリスがモンキを見ると、その目は真剣だった。
まず、あの段階で竜巻がラフレシアだと思わなかった。
アリスは、目と口がついていたと言ってるから、もしかしたらラフレシアだったかもしれない。
それでも、その竜巻がお菓子のお城に向かっているとは思えなかったし、あの段階でそれを確かめるのはまず不可能。
オイラはそう思うんだけどさ。
そう言われてみれば、そうだね。
私だって、竜巻に乗ってくるなんて知らなかったし、お姉ちゃんたちに伝えることもできなかった。
そこは謝るよ。
でも……。
お花のお城の方向から出てきたんだったら、その竜巻を銃とか魔術とか使って止めてほしかったな……。
こっちにいるお姉ちゃんから、どれくらいのものを使えるか聞いてるよ。
そりゃ、言うわよ。
パティスリーが、このお城のトップなんだし。
ギャグで倒れるなんて、それはない。
お姉ちゃんをそんなつもりで送り出したわけじゃないのに。
というわけで、お菓子のお城がピンチでも、お姉ちゃんたちは本当にラフレシアを倒すまで帰ってこなくていいよ。
まぁ、罰ゲームみたいなもんだね。
踏みしめている大地が、突然震え上がる。
そのような感触が、アリスを襲った。
アリスの目の前に見える景色が、ぐるぐる回ろうとしている。
目まぐるしく変わる景色に気を取られているうちに、いつの間にかパティスリーの声が聞こえなくなってしまった。
深いため息とともに、モンキがやや低い声でアリスに告げた。
アリスは、しどろもどろになってモンキの声に答える。
それは違うと思うよ。
そっちだって、アリスがそんな人間だと分かっていても、そうなって欲しくないから何度もそう言ってるはずだ。
逆に、アリスがそう言われなくなった時、その人は本当にアリスを見捨てたってことなんだよ。
アリスは、モンキの言葉に、それ以上言葉を返せなくなった。
ほとんど無意識に会話を続けていること、そしてそこに冗談を入れる余裕もないことを、ようやく気付くだけだった。
そして、無言のまま10秒ほど時間が経った。
ふと、アリスの中で言葉が思い浮かんだ。
でも……、なんかモンキのほうがしっかりしていて……、私にいろいろなことを教えてくれる、ありがたい存在なのかもって思いました。
何より、パティスリーとの仲をブチ壊したのに……、モンキは私を見捨てていないんだし……。
そう言って、アリスはモンキの顔を一度見て、お花のお城に向けて歩き出す。
モンキもその横を、同じスピードでついて行った。