17 嘘つきアリス お説教の時間

文字数 2,675文字

お菓子のお城から響いた不思議な声は、アリスとモンキにラフレシアに襲われた事件をありのままに伝えた。


その声が一段落すると、アリスは深いため息をついた。

剣士にとって、高いところは一番の苦手なはずです……。

まさか上から襲われていたなんて思わなかったです。

そう。


言われてみれば、今までお菓子を食べられたときは風が吹いていたような気がするんだ。

そこで怖くなって……、柱とかに隠れているうちに食べられちゃってたんだよ。

そうなんですね……。


でも、ようやく敵がどこから攻めてくるか分かりました。

たぶん、今度はソフィアさんにお城の屋根にスタンバってもらったほうがいいかも知れませんね。

アリスは、軽々しくそう答える。


すると、その声の口調が突然変わり、聞き覚えのありすぎる声へと変わった。

アリス、私が屋根に立ったら床が抜けるわ。


ただでさえお菓子なんだから。

あ……、いるとは思いませんでした。
パティスリー、テレパシーで言葉を送ったり拾ったりできるみたいだから、すぐそばにいたらアリスの声は筒抜けなのよ。

ふぁ~い……。


というか、パティスリーってなんですか?

お菓子屋さんのことですか?

お菓子のお城の妖精。

ケーキの形をしてる。

わあああん!


行きたいーーっ!


ソフィアさんがものすごく羨ましく思えます!

アリスの声が、突然裏返った。

実物を見ていないとはいえ、頭の中にケーキの姿を思い浮かべたアリスは、震え上がるしかなかった。

そういうわけ。


で、お姉ちゃん。

そうは言ってるけど、もしかしてその竜巻に出会ってない?

空から聞こえる不思議な声がパティスリーに戻った瞬間、その声が突然ゆっくりになった。

アリスには恐怖すら感じる。

え、えっとーー。


出会ってません。

たぶん、私たちを避けて通ったと思います。

出会ったっつーの。

モンキ、ここは正直に言ったらお菓子のお城から怒られちゃいます。

ちゃんと隠し通さないと、ずっとお菓子抜きの生活が続いちゃいますよ。

まぁな……。

オイラだって、お菓子抜きにされたくないし。


でも、そこはさ……。

聞こえてるよー。

パティスリーの声で、アリスとモンキは我に返った。

特にアリスはヒソヒソ話で言ったつもりなのに、それすら声を拾われていたのだった。

バ、バレちゃいましたか……!


せ、正確に言うと……、どうすることもできませんでした。

そうなんだ……。


やっぱり、お姉ちゃんは弱かったんだね。

いや、あれを止めるのはまず無理だろ。

突然、モンキが口を挟んだ。

アリスがモンキを見ると、その目は真剣だった。

モ……、モンキ……?

まず、あの段階で竜巻がラフレシアだと思わなかった。


アリスは、目と口がついていたと言ってるから、もしかしたらラフレシアだったかもしれない。

それでも、その竜巻がお菓子のお城に向かっているとは思えなかったし、あの段階でそれを確かめるのはまず不可能。


オイラはそう思うんだけどさ。

そう言われてみれば、そうだね。


私だって、竜巻に乗ってくるなんて知らなかったし、お姉ちゃんたちに伝えることもできなかった。

そこは謝るよ。


でも……。

でも……?
突然言葉を止めたパティスリーに、アリスは首をかしげた。

お花のお城の方向から出てきたんだったら、その竜巻を銃とか魔術とか使って止めてほしかったな……。


こっちにいるお姉ちゃんから、どれくらいのものを使えるか聞いてるよ。

もしかして、ソフィアさん、言っちゃったんですか?

私の……、ダメな力のことを。

そりゃ、言うわよ。

パティスリーが、このお城のトップなんだし。

しゅん……。


あんなところで、ギャグっぽく倒れなきゃよかった。

ギャグで倒れるなんて、それはない。

お姉ちゃんをそんなつもりで送り出したわけじゃないのに。


というわけで、お菓子のお城がピンチでも、お姉ちゃんたちは本当にラフレシアを倒すまで帰ってこなくていいよ。


まぁ、罰ゲームみたいなもんだね。

えーーっ!?

踏みしめている大地が、突然震え上がる。

そのような感触が、アリスを襲った。

アリスの目の前に見える景色が、ぐるぐる回ろうとしている。


目まぐるしく変わる景色に気を取られているうちに、いつの間にかパティスリーの声が聞こえなくなってしまった。

アリス。


せめて、パティスリーの前ではギャグ飛ばすのはよすべきだった……。

完全に怒らせちゃったじゃん……。

深いため息とともに、モンキがやや低い声でアリスに告げた。

アリスは、しどろもどろになってモンキの声に答える。

あれは……、ショックを受けていそうだったから、少しでもパティスリーを元気にしたいと思ったんです。


勿論、ソフィアさんが屋根にスタンバるなんてできるわけないです。

それはそうとしても、そこは言っちゃいけなかったな。


あと、竜巻を止められなかったことを正直に答えなきゃだったな。

オイラが何も言わなかったら、アリスは嘘つきのままだったじゃん。

私……、嘘をつきたくて言ってるわけじゃないのに、いつもそう言われるんです……。


冗談が通じないっていうか……。

冗談は通じないよ。

サルの世界だって、言った言葉が全てなんだから。


後から冗談でした、と言っても、極端に仲良くなきゃ信用なんてガタ落ちさ。

ホント、そうです……。


でも、ずっと一緒にいるソードマスターとかも……、嘘はやめなさいって言ってくるんです。

私が冗談ばかり言うの、慣れているはずなのに。

それは違うと思うよ。


そっちだって、アリスがそんな人間だと分かっていても、そうなって欲しくないから何度もそう言ってるはずだ。


逆に、アリスがそう言われなくなった時、その人は本当にアリスを見捨てたってことなんだよ。

モンキ……。

アリスは、モンキの言葉に、それ以上言葉を返せなくなった。

ほとんど無意識に会話を続けていること、そしてそこに冗談を入れる余裕もないことを、ようやく気付くだけだった。


そして、無言のまま10秒ほど時間が経った。

ふと、アリスの中で言葉が思い浮かんだ。

私って、お猿さん以下ですね……。きっと。

オイラ以下?


それは言っちゃいけない約束だ。

でも……、なんかモンキのほうがしっかりしていて……、私にいろいろなことを教えてくれる、ありがたい存在なのかもって思いました。


何より、パティスリーとの仲をブチ壊したのに……、モンキは私を見捨てていないんだし……。

いま、アリスにそう言ってあげられるのは、オイラしかいないからさ。


でも、そうアリスが気付いてくれてよかった。

まだまだ、アリスはオイラなんかよりもずっと賢いよ。

ありがとう……。

そう言って、アリスはモンキの顔を一度見て、お花のお城に向けて歩き出す。

モンキもその横を、同じスピードでついて行った。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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