聖夜に手作りケーキ作ってみた
文字数 1,977文字
「オメガピース」兵士棟706号室。
今日がクリスマスイブだというので、アリスは部屋の中ではしゃぎまくっていた。
そこに、ドアの開く音が聞こえ、トライブが帰ってきた。
※トライブはGoogle Homeではありません。
そう言うと、トライブが自治区の食料品店の袋をテーブルに置き、中から卵やら薄力粉やらグラニュー糖やら、大半がそのまま食べられない食材を次々と出す。
アリスは、トライブの目を見て震えた。
アリスは、用意された食材を手に持って、部屋の中のキッチンに立った。
アリスにとってケーキは、遠い昔に姉ジルに手取り足取りしてもらって作った以来だった。
アリスは、クッキングヒーターの上にレシピの紙を置き、まずはボウルに卵とグラニュー糖を入れる。
卵がそのままボウルの外に出てしまうかのように、アリスは力いっぱいかき混ぜて、その中を泡立てた。
その文字を見た途端、アリスは真っ先にクッキングヒーターのスイッチを押した。
その時、アリスが作る様子を後ろから見ていたトライブが、慌ててキッチンに近づいた。
そう言うと、アリスは熱湯をボウルに入れ、その上から小麦粉をまぶした。
そして、ケーキの生地ができると、それを型に入れる。
そこで、アリスの手が止まった。
アリスの作っているケーキが、ほとんど作ったことがない割にはきれいにできていることに、トライブは気が付いた。
オーブンで温めるうちに、生地の香ばしい匂いが、部屋中にしみこんでいく。
その時、706号室のドアから、何回かノックする音が聞こえた。
ゆったりと叩くその音から、アリスはその向こうに誰がいるか、すぐに分かった。
そこからの10分間は、本当に長かった。
アッシュはケーキそっちのけで、人とうまく生きていく方法は、などとトライブから聞いているようで、アリスはケーキが出来上がらなければ全く接触できそうになかった。
そして、クッキングタイマーが30分を告げた。
アリスは、アッシュの目を見ながら、手袋をしてオーブンから型を取り出す。
だが、半分くらい取り出したとき、アリスは手を型から滑らせたような感触がしたのだった。
滑って、床に真っ逆さまに落ちていった生地を、アリスは呆然と立ち尽くしたまま見た。
そしてその生地に向かって、どこからともなく蟻の群れが飛び出してくるのが見えた。
もちろん、蟻は夏にアリスがお菓子の粉を落としながら帰ってきたとき、一緒に連れてきたものの生き残りだった。
その間も、蟻たちに無情に食い散らかされていく生地。
もはや、とても愛の告白どころではなくなってしまった。