聖夜に手作りケーキ作ってみた

文字数 1,977文字

ジングルベ~ル

ジングルベ~ル

はらが~鳴る~♪

「オメガピース」兵士棟706号室。

今日がクリスマスイブだというので、アリスは部屋の中ではしゃぎまくっていた。


そこに、ドアの開く音が聞こえ、トライブが帰ってきた。

オッケー、ソードマスター!

ケーキ出して!

※トライブはGoogle Homeではありません。

このケーキは、自分へのごほうび。

アリスの分は買ってないわよ。


いつもお菓子たくさんあげてるんだから、たまにはケーキの一つぐらい作りなさい。

そう言うと、トライブが自治区の食料品店の袋をテーブルに置き、中から卵やら薄力粉やらグラニュー糖やら、大半がそのまま食べられない食材を次々と出す。


アリスは、トライブの目を見て震えた。

えーっ……。

お菓子作るのは、苦手ですぅ……。


ソードマスターも、私のダメダメグラタンとか食べたことあるじゃないですかー。

食べたことはあるけど、気持ちだけはこもっていたと思うわ。


さっき、アッシュにもアリスがケーキ作るって言ってきたから、こんな素晴らしい夜に自分の思いを打ち明けるチャンスじゃない。

ソードマスターにそこまで言われたんなら、頑張りまーす……。

アリスは、用意された食材を手に持って、部屋の中のキッチンに立った。

アリスにとってケーキは、遠い昔に姉ジルに手取り足取りしてもらって作った以来だった。

よかった。

ソードマスター、ちゃんとレシピまで持ってきてる……。

アリスは、クッキングヒーターの上にレシピの紙を置き、まずはボウルに卵とグラニュー糖を入れる。

卵がそのままボウルの外に出てしまうかのように、アリスは力いっぱいかき混ぜて、その中を泡立てた。

あー、なんか思い出してきたような気がする。

えっと……、次は少しあっためるんだっけ……。

その文字を見た途端、アリスは真っ先にクッキングヒーターのスイッチを押した。

その時、アリスが作る様子を後ろから見ていたトライブが、慌ててキッチンに近づいた。

レシピが燃えちゃうわよ。

しかも、ここは蛇口から出てくる熱湯で大丈夫なところじゃない。

あー、そうでした……。

そう言うと、アリスは熱湯をボウルに入れ、その上から小麦粉をまぶした。

そして、ケーキの生地ができると、それを型に入れる。


そこで、アリスの手が止まった。

ソードマスター、なんかこの型、小さくないですか?

アッシュサイズに作っているわよ。

アッシュ、そんなに甘いもの好きじゃないでしょ。

たしかに、そうですね……。


はい、生地できました。

あとは、あそこにあるオーブンで、30分くらい焼くんですよね。

アリスの作っているケーキが、ほとんど作ったことがない割にはきれいにできていることに、トライブは気が付いた。

オーブンで温めるうちに、生地の香ばしい匂いが、部屋中にしみこんでいく。

もし、上にライフルマスターがいたら、もしかしたらこの匂いで来ちゃうかも知れませんね。


アリス、いいケーキを作ってるな。とか言いながら。

というか、さっき私がアッシュの部屋に行ったんだから、いるに決まってるじゃない。

その時、706号室のドアから、何回かノックする音が聞こえた。

ゆったりと叩くその音から、アリスはその向こうに誰がいるか、すぐに分かった。

言っていたら、本当に来たみたいです。


ライフルマスターさん、いらっしゃ~い!

アリスがケーキを作れるなど思わなかったから、ものは試しでやって来た。

ありがとうございますー。


あと10分ぐらいしたら、こんがり焼けると思いますので、もうちょっと待ってて下さい。

そこからの10分間は、本当に長かった。

アッシュはケーキそっちのけで、人とうまく生きていく方法は、などとトライブから聞いているようで、アリスはケーキが出来上がらなければ全く接触できそうになかった。



そして、クッキングタイマーが30分を告げた。

ライフルマスター!できましたー!

あとはデコレーションするだけですー!

できたのか。

ぜひ見たいものだ。

アリスは、アッシュの目を見ながら、手袋をしてオーブンから型を取り出す。


だが、半分くらい取り出したとき、アリスは手を型から滑らせたような感触がしたのだった。

あっ……!
ベチョ!
……。
……。

わああああん!


生地、全部落としたあああああ!

滑って、床に真っ逆さまに落ちていった生地を、アリスは呆然と立ち尽くしたまま見た。


そしてその生地に向かって、どこからともなく蟻の群れが飛び出してくるのが見えた。

もちろん、蟻は夏にアリスがお菓子の粉を落としながら帰ってきたとき、一緒に連れてきたものの生き残りだった。

しょうがないわ。

もう食べられないし、部屋の中が蟻だらけになるから、殺虫剤かけてもいいわね。

アリス。

お前のケーキは、殺虫剤で処分されるレベルだったようだな……。

嫌だあああああ!

その間も、蟻たちに無情に食い散らかされていく生地。

もはや、とても愛の告白どころではなくなってしまった。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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