22 わるいラフレシアがやってきた!

文字数 2,554文字

アリスは、機械が止まったのを聴覚と、視覚と、それに触覚で三重に確かめた。

たしかに、機械は止まっていた。


ただ、どうして止まったのか、分からなかった。

私……、偶然に非常停止ボタンを押しちゃってた……?

こんな形で機械を止めてしまっては、アリスの危機だけは脱したとは言え、全く展開としては面白くなかった物語のように思えてならなかった。


その可能性だけはない。

そうアリスが思った瞬間、突然モンキの声が機械の外から聞こえてきた。

ア~~リ~~ス~~、こ、こ、怖いよおおおお!

モンキ!

それは、私が言わなきゃいけないセリフじゃない。


この外で、いったい何が起こってるの……?

奴が攻めてきたんだ……。


いま、オイラの前に、一歩、また一歩と近づいてきている……。

機械が止まったとは言え、相変わらず狭い機械の中に閉じ込められているアリスは、窓からわずかに見える光景だけを頼りに、モンキの身に起こっている危機を見ようとした。


しかし、その時アリスは、機械の中にまで吹き込んできそうな強い風を感じた。

この強い風……、もしかして竜巻?

次の瞬間、ドーンという破裂音がアリスの耳に響き、機械装置のドアが勢いよく外れた。

それと同時に、アリスの目に細かい土の粒や葉が、次々と飛び込んできた。

な、な、なにが起きてるの!


モンキ、答えて!

アリス、外に出るな!

ラフレシアが、お花の妖精を竜巻で消そうとしている!

ラ……、ラフレシア?


ラフレシアって……、お菓子のお城の敵対勢力のはずなのに、どうして……!

アリスは、慌てて機械装置の中に潜り込んだ。

相変わらず、耳を突くような突風があたり一面に吹き荒れている。

あれだけアリスを痛めつけたお花の妖精は、もう気配すらしなかった。


あとはここで、嵐が止むのを待つしかなかった。



おそらく、奇襲した段階で、ラフレシアがこの装置を止めたとしか思えない。

ただ、最大の疑問は、何故ラフレシアが「動物の植物化計画」を止めたのか、だった。


そもそも、アリスがお菓子のお城のパティスリーから言われたのは、ラフレシアを倒してくることだったはずだ。

そのラフレシアが、悪い勢力ではないかもしれないという、奇妙な展開になっていた。

どうして……。

アリスは、止まない風の中、再び機械装置の外に飛び出した。

今度は、顔を全部出して、誰が何をしているかまではっきりと読み取ることにした。


その時、アリスの目に飛び込んできたのは、植物のように見える動物だった。

いや、第一印象としてそれを言うしかないほどの、奇妙な生物だったのだ。

アリス、ラフレシアが後ろから来ちゃう!

引っ込んだほうがいい!

モンキは、竜巻が絶対に襲ってくることのない角に隠れて、様子を伺っていた。

一方のアリスは、モンキの声から遅れること3秒、ようやく後ろを振り返った。



鉄兜を被った草が、アリスの前に立っていた。

こ、こ、こんにちはー!

アリス。

悠長に「こんにちはー」とか言ってる余裕あるのか?

見つけましたぞ、戦力を。

せ……、戦力……?


私、戦力になんかなれないです。

アリスの目には、この鉄兜野郎が何と言っているのか分からなかった。


風が周りに吹き荒れている中、この時アリスとその生物の間にだけ、全く風が吹いていなかった。それでも、アリスの耳にはその意味が断片的にしか伝わってこなかった。

噂に聞けば、お前はお菓子を食べたいと、日々のたうち回っているようだ。

その積極的な、お菓子ハンターの魂が、我がラフレシアの戦力にふさわしい存在となるのだ。

あ、あのー……。


お菓子ハンターという言葉だけは分かるんですが……、私、こう見えてもオメガピースのダメ兵士です!


もし戦力になるんだったら、そこにいるお猿さんとか……、うちの女剣士を差し上げますが……、どうでしょう。

オイオイオイオイ!


展開が急転したと思ったら、オイラ用済みかよ!

オイラも……、アリスぐらいの戦力にしかなれねぇぜ。

アリスは、半分冗談のつもりで、ラフレシアを名乗るその生物に返した。

しかし、鉄兜に包まれたその生物は、音を立てるように首を横に振った。

もしかして、お前の言う女剣士というのは、さっきお菓子のお城にいた、あの女剣士か?

はい……。

そのつもりで言ったんですが、会ったんですか?

会ったどころか、この女剣士が無防備なおかげで、お菓子をいっぱい持ってくることができた。

アリスは、その言葉を聞いた瞬間、震えながらも、大きく口を開いた。

ソフィアがそんなにも弱い剣士に見えたということへのショック、そしてそれ以上に聞き捨てならない言葉を聞いてしまったからだ。

あのー……、もしかして、今ここに、お菓子があるんじゃないですか?

よく聞いてたな。

それでこそ、ラフレシアの求めるお菓子ハンターだ。


ただな、我々のほうにつかない限り、お菓子はやらないぞ。

アリスは、その生物の言葉を聞いた瞬間に困惑した。


ラフレシア方についてしまうということは、お菓子のお城永久出入り禁止になってしまう可能性だってある。

聞いている限り、ラフレシアが竜巻に乗ってお菓子のお城を襲い、その後パティスリーが報告したのは間違いないと言っていい。


アリスは、ここでモンキに顔を向けた。

モンキ、どうする……?


今ここにお菓子があるって言ってるけど、ここでラフレシアについちゃったら、お菓子のお城とはバイバイだね。

たぶん、そうなるんだろうな。


アリスのことだから、目の前に見えているお菓子のほうを取りそうだけど。

アリスとモンキがそう言ったとき、鉄兜を被った生物が何度か首を横に振り、やや低い声で告げた。

決して、お菓子のお城を出入り禁止にはさせない。

竜巻に乗って、上から入っていけばいい。


というより、お前を呼んだのは、竜巻で突撃するための戦力だ。

だ……、だったら喜んで参加します!

お菓子、食べたいんですもの!

そう言ってくれるとありがたいな。


紹介が遅くなったが、我はラフレシアの長、デビルラフレシア。

数百というラフレシアの個体をまとめ、軍団を作っている。

デ……、デビルって言うんですか。


こんな素敵なことができる軍団だったら、もっとフレンドリーに一つ目さんでいいと思うんです。

一つ目は、今後一切タブーとしよう。


さぁ、いざ行かん。

我々にとっての、真の楽園を見つけるために!

デビルラフレシアの強い声が、アリスの耳をしっかりと通り抜けた。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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