16 空から襲ってきた強敵

文字数 2,593文字

お菓子のお城から届く悲痛そうな声に、アリスとモンキは何も言うことができず、黙った。


山の向こうにあるはずのお菓子のお城を、その目から確かめることができない。

それだからこそ、お菓子のお城が「やられた」と言った理由が、アリスには一つしか思いつかなかった。

ラフレシアがやってきたんだ……。


思ってもいないやり方で……。


あれじゃ、いくら堀を掘っても、全然ダメだよ……。

もしかして、風とか……竜巻とかですか……?

そう……。


いま、まさにお姉ちゃんが言った、そんな感じ……。

お菓子のお城から届く悲痛な声は、さらに激しさを増した。

時折、すすり泣く声さえ響く。


その中で、その声は事件の一部始終を語りだした。


     ~~~~~~~~


パティスリーと出会ってから、わずか10分たらず。

ソフィアはお菓子のお城の中でストリームエッジを構え、パティスリーに任務を確かめていたのだった。

パティスリー、私はどこを守っていればいいの?

そうだねー。


お姉ちゃんは、一番入ってきそうなところを守ってほしいな。

もしかして、正面玄関?

そうそう、正面玄関。

いろんなところに散らばっちゃうけど、正面玄関の前で立っていたら、ラフレシアがどっちの方向から来るか見れると思うよ。


だって、お花のお城はあっちの山の向こうだから、どう来ても正面玄関から見えると思うんだ。

パティスリーが飛び跳ねながら、正面玄関のドアへと向かった。

そしてドアの前で止まり、軽く息を吹きかけると、そのドアはゆっくりと開いた。

すごい、パティスリー、そんなことができちゃうんだ。

だって、ドアもお菓子でできてるんだもの。

お菓子だったら、私の声を聞いてくれるよ。

なるほどね……。


それにしても、この正面玄関に立つと、たしかにラフレシアが出てきそうな山をじっと見ることができるようね。


私、いいと言われるまでずっと、ここで守ってていいかも。

お姉ちゃん、頼む!

そう言うと、パティスリーはまた飛び跳ねて、城の中に戻っていった。

戻るときにはドアを閉めなかったので、ソフィアがふと後ろを振り返ると、パティスリーは食べられてしまった柱に向かって、何か息を吹きかけていた。

なるほど……。

食べられたところに、もう一度お菓子を甦えらせているのね……。


やっぱり、ここはオメガピースの中では考えられないくらいの、不思議な空間なのかもしれない。

ソフィアは、再び外を向いて立った。

堀の向こうにいたはずのアリスは、もう見えなくなっていた。

おそらく、ラフレシアを倒すというミッションのために、山の向こうに消えてしまったのだろう。


もちろん、アリスがモンキと出会って、一人と一匹で冒険を始めたことなど、ソフィアには知ることもできなかったが。



しばらくすると、ソフィアの全身に眠気が襲ってきた。

眠いわ……。


アリスがいなくても、神経使わなきゃいけない……。

ソフィアは、トライブからアリスの保護者役を頼まれたとき、間違いなく四六時中アリスのおねだりを聞かなければならないと、心の中で言い聞かせていた。


だが、いざそれが離れ離れになり、全くアリスの声を聞くことがなくなると、緊張の糸がもろくなってしまうのだった。

しかも、敵が分かっているとは言え、その敵がいつ現れるか分からないというのも、女剣士から緊張感を奪う要因にもなっていた。


たちまち、ソフィアは三度目のあくびを空に放った。


その時だった。

急に、風が強くなってきたような気がする……。

何の前触れもなく、ソフィアの正面から風が襲ってきた。

どこかで渦を巻いているような風だ。


ソフィアは、目を大きく開いて、その風がどこから流れてきたのかを見た。

その瞬間、山を大きく回って、竜巻がソフィアの視界に飛び込んできた。

こっちに来そう……!


パティスリー、突風が吹くかもしれない。

扉を閉めたほうがいいかも。

分かった……。


……って、えっ!

ソフィアの横まで飛び跳ねてきたパティスリーの表情が、まるで表面までブルーベリーでも塗ったかのように曇った。


じわじわと震え上がるパティスリーに、ソフィアは声を掛ける。

どうしたの、急に……。

あの竜巻の中に……、見えたんです!

ラフレシアの姿が……!

ラフレシア……?


もしかして、私たちが倒さなきゃいけない相手って、あの竜巻の中にいるの?

知らない。


でも、今までやってくるところを見たことないから、お姉ちゃんが言った通り、ラフレシアが竜巻に乗っているのかも!

ソフィアは、パティスリーの言葉が終わるか終わらないかのうちに、竜巻に向けて目を細めた。

たしかに、遠くからやってくる竜巻には、小さい目のようなものが輝いていた。それも、一つだけではなく、はっきりと見えるだけでも四つほどあった。

お姉ちゃん……、あの竜巻……、一気に上に覆いかぶりそう!
上から……?

ソフィアは、ここでようやくストリームエッジを空に向けた。


だが、竜巻は今にもチョコレートの沼を飛び越え、城を上から食い散らかそうとしていた。

肝心の「目」や「口」はソフィアの身長よりもはるかに高い位置にあり、ソフィアが攻撃しようにもできない場所だ。しかも、まともに竜巻に挑めば、風で足元がすくわれてしまう。

上を守っていたほうがよかったかも!

ソフィアは、パティスリーの顔を見て一度うなずき、急いで城の建物に入って、階段を駆け上がり、クッキーでできた塔へと急いだ。


だが、もはや手遅れだった。

ソフィアが階段を上がりかけた瞬間、ソフィアの頭上に、まるで球体のような顔をした植物が、風に揺られながら、こう言い放ったのだ。

お菓子は……、さらって行くぞ……!

やめなさい!

お菓子は、ここにとって大事な財産じゃない!

ソフィアは、階段を一段飛ばしで上がろうとした。

だが、その瞬間、突然襲ってきた突風が、ソフィアの右膝を勢いよく階段に叩きつけた。

その程度か。

城とお菓子を守る兵士とやらは!

……っ!

城へと入り込んだ竜巻は、天井を破壊した後、マシュマロでできた柱を上からガブリと食べてしまう。

しかも、ラフレシアはさっきから声を出している一匹だけではない。風に乗って、多くの「軍団」が城の中に入り込み、ソフィアの剣の届かないところで次々と装飾を食い散らかしていく。

やめて……、やめて!

ソフィアがそう叫んでも、ラフレシアの一行は言うことを聞かない。

やがて、柱まるまる一本分近くと、城の壁を全体の1割程度食い散らかして、再び竜巻に飛び乗り行ってしまったのだ。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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