16 空から襲ってきた強敵
文字数 2,593文字
お菓子のお城から届く悲痛そうな声に、アリスとモンキは何も言うことができず、黙った。
山の向こうにあるはずのお菓子のお城を、その目から確かめることができない。
それだからこそ、お菓子のお城が「やられた」と言った理由が、アリスには一つしか思いつかなかった。
ラフレシアがやってきたんだ……。
思ってもいないやり方で……。
あれじゃ、いくら堀を掘っても、全然ダメだよ……。
そう……。
いま、まさにお姉ちゃんが言った、そんな感じ……。
お菓子のお城から届く悲痛な声は、さらに激しさを増した。
時折、すすり泣く声さえ響く。
その中で、その声は事件の一部始終を語りだした。
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パティスリーと出会ってから、わずか10分たらず。
ソフィアはお菓子のお城の中でストリームエッジを構え、パティスリーに任務を確かめていたのだった。
そうそう、正面玄関。
いろんなところに散らばっちゃうけど、正面玄関の前で立っていたら、ラフレシアがどっちの方向から来るか見れると思うよ。
だって、お花のお城はあっちの山の向こうだから、どう来ても正面玄関から見えると思うんだ。
パティスリーが飛び跳ねながら、正面玄関のドアへと向かった。
そしてドアの前で止まり、軽く息を吹きかけると、そのドアはゆっくりと開いた。
そう言うと、パティスリーはまた飛び跳ねて、城の中に戻っていった。
戻るときにはドアを閉めなかったので、ソフィアがふと後ろを振り返ると、パティスリーは食べられてしまった柱に向かって、何か息を吹きかけていた。
ソフィアは、再び外を向いて立った。
堀の向こうにいたはずのアリスは、もう見えなくなっていた。
おそらく、ラフレシアを倒すというミッションのために、山の向こうに消えてしまったのだろう。
もちろん、アリスがモンキと出会って、一人と一匹で冒険を始めたことなど、ソフィアには知ることもできなかったが。
しばらくすると、ソフィアの全身に眠気が襲ってきた。
ソフィアは、トライブからアリスの保護者役を頼まれたとき、間違いなく四六時中アリスのおねだりを聞かなければならないと、心の中で言い聞かせていた。
だが、いざそれが離れ離れになり、全くアリスの声を聞くことがなくなると、緊張の糸がもろくなってしまうのだった。
しかも、敵が分かっているとは言え、その敵がいつ現れるか分からないというのも、女剣士から緊張感を奪う要因にもなっていた。
たちまち、ソフィアは三度目のあくびを空に放った。
その時だった。
何の前触れもなく、ソフィアの正面から風が襲ってきた。
どこかで渦を巻いているような風だ。
ソフィアは、目を大きく開いて、その風がどこから流れてきたのかを見た。
その瞬間、山を大きく回って、竜巻がソフィアの視界に飛び込んできた。
ソフィアの横まで飛び跳ねてきたパティスリーの表情が、まるで表面までブルーベリーでも塗ったかのように曇った。
じわじわと震え上がるパティスリーに、ソフィアは声を掛ける。
ソフィアは、パティスリーの言葉が終わるか終わらないかのうちに、竜巻に向けて目を細めた。
たしかに、遠くからやってくる竜巻には、小さい目のようなものが輝いていた。それも、一つだけではなく、はっきりと見えるだけでも四つほどあった。
ソフィアは、ここでようやくストリームエッジを空に向けた。
だが、竜巻は今にもチョコレートの沼を飛び越え、城を上から食い散らかそうとしていた。
肝心の「目」や「口」はソフィアの身長よりもはるかに高い位置にあり、ソフィアが攻撃しようにもできない場所だ。しかも、まともに竜巻に挑めば、風で足元がすくわれてしまう。
ソフィアは、パティスリーの顔を見て一度うなずき、急いで城の建物に入って、階段を駆け上がり、クッキーでできた塔へと急いだ。
だが、もはや手遅れだった。
ソフィアが階段を上がりかけた瞬間、ソフィアの頭上に、まるで球体のような顔をした植物が、風に揺られながら、こう言い放ったのだ。
ソフィアは、階段を一段飛ばしで上がろうとした。
だが、その瞬間、突然襲ってきた突風が、ソフィアの右膝を勢いよく階段に叩きつけた。
城へと入り込んだ竜巻は、天井を破壊した後、マシュマロでできた柱を上からガブリと食べてしまう。
しかも、ラフレシアはさっきから声を出している一匹だけではない。風に乗って、多くの「軍団」が城の中に入り込み、ソフィアの剣の届かないところで次々と装飾を食い散らかしていく。
ソフィアがそう叫んでも、ラフレシアの一行は言うことを聞かない。
やがて、柱まるまる一本分近くと、城の壁を全体の1割程度食い散らかして、再び竜巻に飛び乗り行ってしまったのだ。