10 お猿のかご屋だホイサッサ?

文字数 2,553文字

なんか、ちょっと悲しそうな顔をしていましたが、どうしたんですか?

アリスは、お花のお城という言葉を言った時から少しずつ下を向き始めているモンキに、少し首を傾けながら声をかけた。


するとモンキは、二、三回首を横に振って、なんともないような表情をアリスに返す。

いーや、何でもない。

ちょっと、昔のことを思い出しそうになっただけだ。

ホントなんですか……。

まぁ、アリスが思うように、あまり思い出したくない思い出、というのには間違いないんだけどさ。

なるほどね……。



あまり聞かないほうがいっか。

そう言うと、アリスはモンキの後ろについて、再び口を開いた。

モンキ、私、お花のお城の悪いモンスターを倒さなきゃいけないの。


だから、案内してほしいの。

場所を知っているモンキがいて、すごく嬉しいんだから!

分かった!

任せておけって!

そう言うと、モンキはやや速足で歩きだした。


アリスと仲良さそうに歩いていても、モンキはサルである。

人間の速足とは勝手が違う。

現に、あの時モンキを追いかけたアリスは、追いつくのに意外と難儀して、しまいには猫を追いかけてしまったのだから。

待ってモンキ。

私、ちょっと太ってるからあまり速くは走れません……。

考えてみれば、そうだな……。


もしかしたら、オイラが後ろから曲がるところを言いながら、アリスが前に立つというのもいいのかもしれない。

そのほうがいいかな……。


って、あれ?

どうした、アリス?
モンキがアリスの真横に立ち、アリスの言葉に食いついてくる。

旗とか幟とかないですか。

何も書いてない、真っ白な旗を幟にくっつけるんです!



で、旗を持って歩く感じです。

そのほうが、目立つからいいかも知れないな。


で、その旗には何と書くんだ?

日本一!

アリスは、まさか脳内で、とある昔話を思い浮かべているのではないだろうか。

人とサルがいて、これで犬、キジまで仲間になったら、完全にそれっぽくなるぞ。

却下。


せめて「モンキとゆかいな仲間たち」って旗にしたほうが、オイラも恥ずかしくなくていいよ。

分かりましたー。


モンキがそこまで言うなら書きますねー。

あくまでも、それ案なんだけどな……。
私、面倒くさいことは大嫌いなんです。

そう言うと、アリスはなぜかバッグに入っていた小さな裏紙に、シャーペンで


モンキとゆかいな仲間たち


と書き、落ちていた長い枯れ草にそれをくくりつけた。

はい、旗♪

見えねぇ……。


そもそも、字が小さすぎるような気がするし。

モンキは、アリスの作った小さな旗を一度左右に動かした。

今にも折れてしまいそうな枯れ草が、何とか持ちこたえているような感じでしかなかった。


アリスも遠目で見て、小さくため息をついた。

ダメですね……。


なんか、私たちでチーム名を作ろうとしたんですが……、お金もないし……。

お金はあるよ!


オイラのいる国に。

モンキのいる国に、あるんですか……。


それって、この近くですか?

この山の上に、オイラの国があるんだ。


お菓子のお城がよく見えるし、山の上からは運が良ければお花のお城だって見える。

アリスは、モンキの言葉を聞きながら、一度首を縦に振った。

目の前に見えている、モンキの指差した山から、ギリギリお花のお城が見えるということを聞いてしまったからだ。


闇雲に探していた、お花のお城のありかが、ここでようやく分かったような気がする。そうアリスは確信した。

じゃあ、ちょっと気になるんで行きましょう。サルの惑星へ。
同じ星だけどな。

そう言うと、モンキが再びアリスの前に出て、山の傾斜がなだらかなところで立ち止まって、そこから山に登り始めた。


だが、その道はとても人間が整備しているような道ではなく、傾斜が急な、草だらけのルートだった。

こ……、こんなところを登るんですか。

サルのオイラには簡単なんだけどな。


もしなんだったら、山の上まで乗せていってやろうか?

おんぶ……、ですか?

アリスは、一瞬耳を疑った。

たしかに、獣の背中に揺られて旅をする冒険者の存在は、ちらほら聞いている。


だが、人間とほぼ同じ進化を遂げてきたはずのサルは、人間よりも身長が低い。その背中に人を乗せようとすれば、間違いなくサルのほうが崩れてしまうに違いない。



だが、それでもモンキは、アリスを山の上まで乗せることをアリスに提案している。

これはきっと何かあるに違いない。

単純だよ。

オイラは重いものも運べし、しっかりつかまっていれば体重を支えることができるからさ。

そうなんですか。ありがとうございます。

アリスがそう言うと、モンキはアリスに背中を差し出して、今にもこの上につかまって欲しいと言わんばかりのしぐさを見せた。

アリスは、そのしぐさに誘われるように、モンキの肩をしっかりつかみ、モンキが軽く動くと同時にその足を軽く持ち上げた。



次の瞬間、人間の目から見れば道なき道の先を、モンキは見つめた。

そして、動き出した。

しっかりつかまっててくれよな!
はいっ!

アリスをその背に乗せたモンキは、一気に坂道を駆け上がっていく。


15歳にしては重いアリスを乗せているので、モンキにも負担がかかってきそうだが、それでも人間の歩くスピードよりも速く上がっていく。

すごいすごいすごいすごい!


なんか、モンキの背中で夢を見てるみたいです!

オイラ、こう見えて力あるぜ!
私でも、軽く乗せてくれるなんて……、すごいとしか言いようがありません!

アリスの目には、山に生えている大木と低く生い茂った草花とが、目まぐるしく入れ替わっていた。最初はスピードだけを感じていたアリスは、少しずつ目が回りそうになってきた。


全くスピードが変わらない。だが、山頂から差し込む開けた光は、全くその気配を感じない。

そして、アリスの体が突然震え上がった。

す、すいません……、トイレ!

ト、トイレ?


そんなもの、あるわけないって。

人間は、ほとんどこんな場所に立ち入らないんだからさ!

そうでした……。

アリスは、そこまで言うと完全に意識がトイレに向いてしまった。

次の瞬間、突然モンキの足が何か重いものを踏みつけたようで、その背中でガタンという音がはっきりとアリスにも聞こえた。


その時、ついにアリスは耐えられなくなった。

あっ……!

ドテッ!


重い音とともに、アリスは山の中腹の土に投げ出された。

すぐにモンキが立ち止まって、ふるい落とされたアリスを見つめていた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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