10 お猿のかご屋だホイサッサ?
文字数 2,553文字
アリスは、お花のお城という言葉を言った時から少しずつ下を向き始めているモンキに、少し首を傾けながら声をかけた。
するとモンキは、二、三回首を横に振って、なんともないような表情をアリスに返す。
そう言うと、モンキはやや速足で歩きだした。
アリスと仲良さそうに歩いていても、モンキはサルである。
人間の速足とは勝手が違う。
現に、あの時モンキを追いかけたアリスは、追いつくのに意外と難儀して、しまいには猫を追いかけてしまったのだから。
アリスは、まさか脳内で、とある昔話を思い浮かべているのではないだろうか。
人とサルがいて、これで犬、キジまで仲間になったら、完全にそれっぽくなるぞ。
そう言うと、アリスはなぜかバッグに入っていた小さな裏紙に、シャーペンで
モンキとゆかいな仲間たち
と書き、落ちていた長い枯れ草にそれをくくりつけた。
モンキは、アリスの作った小さな旗を一度左右に動かした。
今にも折れてしまいそうな枯れ草が、何とか持ちこたえているような感じでしかなかった。
アリスも遠目で見て、小さくため息をついた。
アリスは、モンキの言葉を聞きながら、一度首を縦に振った。
目の前に見えている、モンキの指差した山から、ギリギリお花のお城が見えるということを聞いてしまったからだ。
闇雲に探していた、お花のお城のありかが、ここでようやく分かったような気がする。そうアリスは確信した。
そう言うと、モンキが再びアリスの前に出て、山の傾斜がなだらかなところで立ち止まって、そこから山に登り始めた。
だが、その道はとても人間が整備しているような道ではなく、傾斜が急な、草だらけのルートだった。
アリスは、一瞬耳を疑った。
たしかに、獣の背中に揺られて旅をする冒険者の存在は、ちらほら聞いている。
だが、人間とほぼ同じ進化を遂げてきたはずのサルは、人間よりも身長が低い。その背中に人を乗せようとすれば、間違いなくサルのほうが崩れてしまうに違いない。
だが、それでもモンキは、アリスを山の上まで乗せることをアリスに提案している。
これはきっと何かあるに違いない。
アリスがそう言うと、モンキはアリスに背中を差し出して、今にもこの上につかまって欲しいと言わんばかりのしぐさを見せた。
アリスは、そのしぐさに誘われるように、モンキの肩をしっかりつかみ、モンキが軽く動くと同時にその足を軽く持ち上げた。
次の瞬間、人間の目から見れば道なき道の先を、モンキは見つめた。
そして、動き出した。
アリスをその背に乗せたモンキは、一気に坂道を駆け上がっていく。
15歳にしては重いアリスを乗せているので、モンキにも負担がかかってきそうだが、それでも人間の歩くスピードよりも速く上がっていく。
アリスの目には、山に生えている大木と低く生い茂った草花とが、目まぐるしく入れ替わっていた。最初はスピードだけを感じていたアリスは、少しずつ目が回りそうになってきた。
全くスピードが変わらない。だが、山頂から差し込む開けた光は、全くその気配を感じない。
そして、アリスの体が突然震え上がった。
アリスは、そこまで言うと完全に意識がトイレに向いてしまった。
次の瞬間、突然モンキの足が何か重いものを踏みつけたようで、その背中でガタンという音がはっきりとアリスにも聞こえた。
その時、ついにアリスは耐えられなくなった。
ドテッ!
重い音とともに、アリスは山の中腹の土に投げ出された。
すぐにモンキが立ち止まって、ふるい落とされたアリスを見つめていた。