19 モンキはお花のお城が大嫌い
文字数 2,618文字
お花のお城の門で、モンキから突然の別れを告げられたアリスは、呆然と立ち尽くしたままモンキの表情を伺うだけだった。
その目の前で、モンキが一歩、また一歩と下がっていくが、決してアリスから目を背けるわけではなく、ただ恐怖の表情を浮かべたまま、行動を躊躇している様子だった。
モンキが首を横に振るが、目線をアリスに戻したモンキの表情は、門の前に着いた時よりもさらに怯えていたのだった。
その理由も言えないほど、モンキが声を発することもできなかった。
モンキが、怯えた表情のまま、その首を少しずつ前に傾けていく。
アリスを見つめながらも、モンキの目の高さが低くなっていくのを、アリスは感じていた。
モンキの返事を待つと、アリスは何かを決心したかのように、大股でつたの門を潜り抜けた。
10歩、20歩と数えて、モンキと別れてから30歩。
アリスは後ろを振り返った。
モンキは、決して逃げたりはしなかった。
アリスは、さらに足を速めて、半ば小走りで庭園を抜ける。
ここまでくる間に見かけたお花畑と同じく、ここでもまた、ほぼ緑色だけの景色が広がっていた。
お花のお城の中の敷地に入っても、花がなかったのだ。
アリスは、そう思いながら、前に進むしかなかった。
そして、モンキからおよそ100歩ほど離れたぐらいだろうか。
アリスは右足に大きな石のようなものを感じた。
ドテッ……!
文字通り、そのような音が庭園に響き、アリスは地面に投げ出された。
アリスの膝が、すぐに激しい痛みを感じる。
派手にすっ転んで、どうやら体のところどころを強く打ってしまったようだ。
ここが、事実上「敵のアジト」になっているにも関わらず、アリスは周囲にはっきりと聞こえるような声でそう叫んだ。
すると、ここで背後から聞き覚えのある声が、アリスの耳に届いた。
アリスは、強く打った右膝を片手で抑えながら、後ろを振り返った。
すると、モンキがつたの門を潜り抜けて、アリスに駆けてきた。
アリスは、膝を抑えていないほうの手で、モンキの耳に軽く触れ、そっと撫でた。
今まで怯えていたはずのモンキが、何事もなかったかのような表情に戻り、アリスを見つめていたのだった。
そして、数秒のブランクを置いて、モンキはアリスにこう告げたのだった。
モンキの声は、それが決して単純とは言えないような雰囲気を見せていた。
それでもアリスは、モンキにそのことは言わないようにし、その次の言葉を待った。
お菓子のお城にパティスリーという妖精がいるのだから、当然、お花のお城にも花の妖精がいてもおかしくない。
けれど、その妖精たちは、ノコノコとやってきた一匹のサルを「食い物」にしようとしたのだった。
そこまで言い切ったモンキは、小さくため息をついた。
アリスの目には、それでもモンキが肩で呼吸しているかのように、全身を大きく動かしているかのように見えた。
アリスは、はっきりとそう言った。
モンキがアリスの次の言葉を、じっと見つめながら待っていた。