19 モンキはお花のお城が大嫌い

文字数 2,618文字

お花のお城の門で、モンキから突然の別れを告げられたアリスは、呆然と立ち尽くしたままモンキの表情を伺うだけだった。


その目の前で、モンキが一歩、また一歩と下がっていくが、決してアリスから目を背けるわけではなく、ただ恐怖の表情を浮かべたまま、行動を躊躇している様子だった。

モンキ……、どうしてここで怖がるの……?

今まで竜巻とか襲ってきても、全然平気だったじゃないですか。

いや……。


あの……。


オイラはちょっと……。

モンキが首を横に振るが、目線をアリスに戻したモンキの表情は、門の前に着いた時よりもさらに怯えていたのだった。

その理由も言えないほど、モンキが声を発することもできなかった。

言ったほうがいいと思います。

隠してたら、誰にも分からないと思います。


……それこそ、さっき私がパティスリーに隠していたのと一緒じゃないですか。

そうだけどさ……。


オイラ自身の問題を、言いたくない時だってあるんだ……。

モンキが、怯えた表情のまま、その首を少しずつ前に傾けていく。

アリスを見つめながらも、モンキの目の高さが低くなっていくのを、アリスは感じていた。

分かった……。


私ひとりでお花のお城に入ります。

でも、モンキはここで待っててください。

必ず、お菓子いっぱい見つけて、持って帰りますから。

アリス、目的が変わってないか?
ここまで一緒に来たんだから、帰りも元気に帰りましょ。私と一緒に。
あ……、あぁ……。

モンキの返事を待つと、アリスは何かを決心したかのように、大股でつたの門を潜り抜けた。


10歩、20歩と数えて、モンキと別れてから30歩。

アリスは後ろを振り返った。

モンキは、決して逃げたりはしなかった。

やっぱり、モンキが入りたくなかったのには、何か理由があったのかもしれない。

なら、私がやるしかない……。

アリスは、さらに足を速めて、半ば小走りで庭園を抜ける。

ここまでくる間に見かけたお花畑と同じく、ここでもまた、ほぼ緑色だけの景色が広がっていた。

お花のお城の中の敷地に入っても、花がなかったのだ。

ここ、本当にお花のお城なのかなぁ……。

お菓子のお城が食べられたように、ここもお花が食べられちゃっているような気がする……。

アリスは、そう思いながら、前に進むしかなかった。



そして、モンキからおよそ100歩ほど離れたぐらいだろうか。

アリスは右足に大きな石のようなものを感じた。

あ、やっちゃった……!

ドテッ……!



文字通り、そのような音が庭園に響き、アリスは地面に投げ出された。

アリスの膝が、すぐに激しい痛みを感じる。

派手にすっ転んで、どうやら体のところどころを強く打ってしまったようだ。

ぎゃああああ、痛いいいいい!

ここが、事実上「敵のアジト」になっているにも関わらず、アリスは周囲にはっきりと聞こえるような声でそう叫んだ。


すると、ここで背後から聞き覚えのある声が、アリスの耳に届いた。

アリス……!

だ、大丈夫か……!

え?


……まさか?

アリスは、強く打った右膝を片手で抑えながら、後ろを振り返った。

すると、モンキがつたの門を潜り抜けて、アリスに駆けてきた。

大丈夫か……!

モンキ、ありがとう……。


でも、入っちゃったね、中に……。

オイラ、アリスが心配でしょうがないよ……。

本当は嫌だけど、アリスを一人にさせておくなんてできないよ。

ありがとう……。

でも、無理はしなくていいよ……。

アリスは、膝を抑えていないほうの手で、モンキの耳に軽く触れ、そっと撫でた。

今まで怯えていたはずのモンキが、何事もなかったかのような表情に戻り、アリスを見つめていたのだった。


そして、数秒のブランクを置いて、モンキはアリスにこう告げたのだった。

オイラがお花のお城に入りたくなかったのは、単純な理由だよ。

言うのも恥ずかしいから、あの場所で言えなかったんだけどさ。

単純……な理由?

モンキの声は、それが決して単純とは言えないような雰囲気を見せていた。

それでもアリスは、モンキにそのことは言わないようにし、その次の言葉を待った。

そうだよ。


オイラ、一度くらい山から出ようと思って、遠くに見えるこの城に遊びに行ったことがあるんだ。

その時、サルだからって、お花の妖精たちに、いろいろ嫌なことをされてしまったんだよ……。

お菓子のお城にパティスリーという妖精がいるのだから、当然、お花のお城にも花の妖精がいてもおかしくない。

けれど、その妖精たちは、ノコノコとやってきた一匹のサルを「食い物」にしようとしたのだった。

例えば、どんなことをされたの?

それが、あまり覚えてないんだよ。


葉っぱか枝か分からないけど、突然しっぽを掴まれて機械の中に放り込まれたんだ。

その時、オイラの耳に聞こえたのは、動物の植物化計画、という言葉だったんだ。

動物も植物も分かるのに、その言葉を聞くだけでなんか恐ろしい響きがします。

やっぱり、そう思うだろ。


オイラ、植物にされるんだ。

そう思って、オイラは必死に機械の中から逃げようとした。

でも、機械の中で、これも葉っぱとかだと思うんだけど撫でられて、嫌な臭いの花粉を撒かれて……。

なんか、ものすごく恐ろしい機械じゃないですか。


でも、モンキは無事だったんですよね。

偶然、非常停止ボタンを見つけたからな……。


あれが見当たらなかったら、オイラは植物になってたよ。

まぁ、オイラの顔みたいな花が毎年咲くだけで、使い物にならないと思うけどさ。

そこまで言い切ったモンキは、小さくため息をついた。

アリスの目には、それでもモンキが肩で呼吸しているかのように、全身を大きく動かしているかのように見えた。

なんか、お花のお城の名前に似合わないような、すごく恐ろしい世界ですね……。


でも、こんなことをしているのだから、ラフレシアがきっといると思いますよ。

そうかな……。

見た目はすごく優しくて、とてもお菓子のお城を襲ってきそうな雰囲気の表情じゃなかったと思う。


それに、オイラがあの城に閉じ込められたとき、一言もラフレシアという言葉を耳にしていないんだよ。

じゃあ、もしかして……、モンキをいじめたのとラフレシアとは、全く別の存在なわけですか?
たぶん、そういうことなんだろう……。
モンキが、やや小さな声でそう言うと、アリスは一度うなずいてこう言った。

だったら、ものすごくいい仮説ができたと思うんです。

たぶん、モンキはあの機械に怯えなくていいかも知れません。

アリスは、はっきりとそう言った。

モンキがアリスの次の言葉を、じっと見つめながら待っていた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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