26 ラフレシアは動物兼植物!?
文字数 2,535文字
ふぅ~、食った食ったー。
なぁ、アリス。次はどこに行こうとしてるんだろうな。
私も、よく分かってないんです……。
お菓子のお城ぽくないような気はするんですけど……。
デビルラフレシアに聞いてみましょう!
中継先のモンキさ~ん!
モンキは、アリスを横目で見ながらゆっくりとデビルラフレシアに近づいた。
特に決めていない。心の赴くままだ。
お菓子のお城に行くのだけは、まだ早いだろう。
モンキよ。逆に、思いつくところを教えて欲しい。
オイラにも分からないな……。
人間が集まるようなところには、食べ物がいっぱいありそうな気がするんだ。
小さな声で話していたつもりのモンキだったが、デビルラフレシアとの会話がアリスの耳に入り、アリスが動き出した。
だって、思いついちゃったんですもの。
人がいっぱい集まりそうな場所を。
そう言うと、アリスはデビルラフレシアの前まで行って、口をその体に近づけた。
そして、ヒソヒソ声で耳打ちした。
オイオイ、アリス。
なにデビルラフレシアにしか聞こえないようにしゃべってるんだよ。
分かるかっつーの!
とりあえず、オイラの耳には「かくかくー、しかじかー」としか聞こえなかったような気がする。
アリスの言った言葉を懸命に思い出そうとしたモンキだったが、露骨に聞こえたその言葉が頭から焼き付いて離れなかった。
モンキが考える仕草をしていると、アリスがゆっくりと口を開いた。
えっと……、「かくかくー、しかじかー」と言ったことは間違いないです。
それも、意図的です。
オイラ、ハメられたんか……。
それはそうと、本当の話、デビルラフレシアに何て言ったんだ。
おまつり広場……。
なんか、縁日でもやってるところにでも行くのか。
はい、私はそのつもりでデビルラフレシアに言いました。
えっと……、デビルラフレシア、おまつり広場行くってことでいいんですよね。
あぁ。
人間の営みは、人間であるアリスが最もよく分かっているはずだからな。
おまつり広場には、たくさんの食べ物があることを教えられた以上、行くしかない。
そう言うと、デビルラフレシアは他のラフレシアたちのほうを向き、大きな声で言った。
みな、聞け。
次は、西の島にある、おまつり広場というところに行くとしよう。
焼きそばの匂いが、遠くから流れてきてしょうがないからな。
嗅覚はいいからな。
伊達に、植物にされかけたわけじゃない。
アリスは、デビルラフレシアに相づちを打った。
だが、デビルラフレシアの言葉に、アリスは何度か首をかしげた。
お花のお城にいたはずのデビルラフレシアが、「植物にされかけた」と言ったのだから――。
そうこうしているうちに、アリスとモンキは、デビルラフレシアの葉の上に乗せられ、竜巻に巻き上げられる。
ある程度の高さまで辿り着くと、モンキがゆっくりと口を開いた。
アリス、今すごく悩んでいるように見えるんだけど、オイラの見間違いなんかなぁ。
気付きましたか……?
でも、ここじゃあまり言えない疑問です。
オイラにも、こっそり教えてくれよ。
言いづらい内容なのか?
デビルラフレシアの顔の話なので、この上に乗っていたら話しにくいんです。
一言で言えば……、デビルラフレシアは元々何だったんかな……という話です。
アリスは、モンキにだけ聞こえるように言ったつもりだったが、すぐにデビルラフレシアの葉が軽く揺れた。
アリスが軽く笑うと、デビルラフレシアはタイミングを見計らいながら、その目をアリスに向けた。
アリスよ、俺の正体が気になっているようだな。
違うか。
はい、気になってしょうがないんです。
デビルラフレシアさんが植物なのか、動物なのか……。
えっとー、こーんな大きい目をしていても、デビルラフレシアさんは植物だと思うんです。
だって、葉っぱが伸びるじゃないですか。
そう言って、アリスは中腰になって、デビルラフレシアの葉を撫でた。
アリスの予想した通り、その葉を触ると、そこにある繊維の感触がはっきりと分かった。
まぁ、この葉っぱを見ればそう思うのも無理はない。
だが、俺はもともと別の生物だった。
そもそも、俺たちはラフレシアですらなかった。
もしかして、最初はみんな動物だった……ってことですか?
さぁな。
それはじきに分かることだろう。
ただ、これだけは言っておく。
お花のお城でお前も体験した、「動物の植物化計画」が俺をこんな体にさせた。
「動物の植物化計画」で、そんな体になっちゃったわけですか……。
「動物の植物化計画」というくらいだから、頭から足まで全て植物にされるものだと、アリス思っていた。
だが、デビルラフレシアは下こそ葉っぱだが、とても植物に見えないような鉄兜を被っている。
植物とはほど遠い、むしろ人工的に作られた顔だった。
アリス。
「動物の植物化計画」とは、本当に恐ろしいものだ。
決して、パラダイスなんかじゃない。
あの時、俺が止めていなければ、アリスも鉄兜を被って、動物とも植物とも思われないような、エセ植物になったんだからな。
エセ植物って、生物の中で最も悲しい運命を背負っているような気がするな。
アリスは、そこまで言って、もう一度デビルラフレシアの目を見た。
「動物の植物化計画」を非難したその顔には、まだ何か隠していることがあった。
だが、デビルラフレシアのほうが話を変えた。
アリス。下を見ろ。
お前が一番行きたがっている、お菓子のお城だ。
一度は横から見たお菓子のお城が、まさに今、アリスの眼下に広がっていた。
アリスは、思わずデビルラフレシアの葉から飛び降りそうになる。
あ、お菓子の城です!
チョコレートの沼が見えます。
でも、降りないんですよね。
デビルラフレシアの目は落ち着きを取り戻し、これから向かおうとしているおまつり広場をじっと見ているように思えた。
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