45 剣の女王、最強のサルに挑む!
文字数 2,679文字
空を切り裂くような鋭い音とともに、両者の剣がリングの上で交錯する。
サルの中で最強の剣使いと言っていいボスモンキーの、鋭く尖った剣。
「クィーン・オブ・ソード」トライブの力の証と言うべき剣、アルフェイオス。
交わった剣は、その力を全く緩めない。
二本の剣から溢れるパワーが、その様子をリングの下で見ているアリスたちにもじわじわと伝わってくる。
モンキは、そこで息を飲み込んだ。
一旦剣を引いたボスモンキーが、やや高さを下げたまま、剣をトライブの右手すれすれにまで突き出したのだ。
トライブの目は、ボスモンキーの攻めてくる方向を瞬時に見破り、すぐにアルフェイオスをボスモンキーの剣に叩きつけた。
再び鋭い音がリングに響き渡る。
だが、ぶつかった位置はトライブの側に寄っている。
アルフェイオスをえぐろうとするかのように、突き出した剣を引かないボスモンキーのほうが、形としてはやや有利だ。
その状況を打ち破るように、トライブはアルフェイオスを上に傾けた。
トライブは、上に傾けたアルフェイオスをボスモンキーの剣に向けて一気に振り下ろした。
だが、ボスモンキーはそこで軽く笑った。
振り下ろされたアルフェイオスの重心を、ボスモンキーの剣先が鋭く突いた。
アルフェイオスに剣先が食い込まずとも、簡単に持ち上げられる場所を突かれ、トライブはそれ以上身動きが取れなくなる。
ソフィアの目は、じっとリングを見つめている。
自らの少しだけ先を行く剣士が、同じやられ方をされるはずがないと。
だが、現実はそうではない方向に動き出す。
ボスモンキーの剣が、アルフェイオスを一気に上に押しのける。
トライブは、体まで持ち上げられることだけは耐えたものの、剣の重心を突かれて押し返すことができない。
そして、ボスモンキーがその剣を軽く引き、再び右の手首を目がけて突き出した。
アルフェイオスを戻そうとしたトライブの右腕に、ボスモンキーの剣が突き刺さる。
ギリギリで右手首直撃は回避できたものの、トライブの腕を覆うグローブにはっきりと割れ目ができたのが、アリスたちにもはっきりと見えた。
ダメージを受けた瞬間、トライブは痛みのあまり目を閉じる。
それが、致命的な隙となってしまった。
ボスモンキーが、その剣を次々とアルフェイオスに命中させる。
わずかな隙を見せたトライブは、相手のスピードについて行くのがやっとだ。
トライブは何とか防ぐものの、跳ね返すこともできないまま、すぐ次の攻撃を受けてしまう。
その勢いのまま、ボスモンキーがアルフェイオス目がけて、その剣を激しく振り上げた。
トライブは、ボスモンキーの溢れるばかりの力のままに、リングの端までよろけるように下がる。
かろうじて投げ飛ばされなかったアルフェイオスをボスモンキーに向けるものの、トライブは相手を見つめたまま、次の一歩を踏み出すことができない。
トライブが肩で呼吸をしているのが、アリスの目にもはっきりと見えてくる。
「クィーン・オブ・ソード」ですら、最強のサルを止めることはできないのか……。
ボスモンキーが、アリスに勢いよく振り向き、右腕をトライブに伸ばしながらその体を揺さぶった。
それでも、アリスはモンキをじっと見つめ、こう返した。
ソードマスターが本当に死にそうな時は、魔術をかけてます。
でも、今はその力を信じることが、ソードマスターにとって何よりの後押しになると思うんです。
こんなボロボロになっても……、それでも諦めを許さず戦って、強敵を打ち砕く。
それが、トライブ・ランスロットという、一人の女なんです。
アリスは、モンキにきっぱりと言った。
誰よりもトライブのバトルを後ろで見てきた身として、今はそうすることしかできないと、その意思を前面に出すかのように。
その言葉が終わると同時に、ソフィアがモンキにそっと語りかけた。
トライブがその本気を見せたとき、どれだけの力を見せつけるか。
何度もその力を受けてきたソフィアには、はっきりと分かっていた。
「剣の女王」は、それでも冷静だった。
トライブの足が、勢いよくボスモンキーに向かった。
アルフェイオスを斜め上に挙げ、再び下に振り下ろす。
同時に、ボスモンキーの剣先が、振り下ろされたアルフェイオスを再び突こうとした。
トライブの剣を振り下ろすパワーが、ボスモンキーの剣をもねじ伏せた。
やや下に傾けられた剣に目をやりながら、ボスモンキーは歯を食いしばるようにもがく。
そこに、トライブは再び剣を振り下ろし、ボスモンキーの剣の先を完全に下に向けた。
次の瞬間、ボスモンキーはやや後ろに下がり、再びトライブの右手首を突き刺そうとその剣を正面に向けた。
だが、わずかながらその手の力は弱まっていた。
そこに、トライブは三たびアルフェイオスを鋭く振り下ろした。
ボスモンキーの手首すれすれに、トライブの激しい一撃が命中した。
手の感覚を失った凶暴なサルから剣が離れ、リングへと落ちていく。
アルフェイオスの先を鋭く向けられた最強のサルは、リングの上に跪いた。
「クィーン・オブ・ソード」の全身から残像のように、その名に恥じぬパワーが溢れていた。