45 剣の女王、最強のサルに挑む!

文字数 2,679文字

空を切り裂くような鋭い音とともに、両者の剣がリングの上で交錯する。


サルの中で最強の剣使いと言っていいボスモンキーの、鋭く尖った剣。

「クィーン・オブ・ソード」トライブの力の証と言うべき剣、アルフェイオス。


交わった剣は、その力を全く緩めない。

二本の剣から溢れるパワーが、その様子をリングの下で見ているアリスたちにもじわじわと伝わってくる。

さすがソードマスター。

ボスモンキーの力をも抑え込んでいるぜ!

モンキ、まだ勝負は始まったばかりよ。

次の一撃をどっちが仕掛けるか……、それでかなり展開が変わってくる。


少なくとも、トライブはタイミングを見計らっているはず。

そうなのか……。

まだまだ気が……!

モンキは、そこで息を飲み込んだ。


一旦剣を引いたボスモンキーが、やや高さを下げたまま、剣をトライブの右手すれすれにまで突き出したのだ。

剣士最大の急所、覚悟しろ!
くっ……!

トライブの目は、ボスモンキーの攻めてくる方向を瞬時に見破り、すぐにアルフェイオスをボスモンキーの剣に叩きつけた。

再び鋭い音がリングに響き渡る。


だが、ぶつかった位置はトライブの側に寄っている。

アルフェイオスをえぐろうとするかのように、突き出した剣を引かないボスモンキーのほうが、形としてはやや有利だ。


その状況を打ち破るように、トライブはアルフェイオスを上に傾けた。

トライブ、上から剣をぶつけて、相手の動きを止めるつもりね。
はあっ!

トライブは、上に傾けたアルフェイオスをボスモンキーの剣に向けて一気に振り下ろした。


だが、ボスモンキーはそこで軽く笑った。

ソフィアと同じだ……!
……っ!

振り下ろされたアルフェイオスの重心を、ボスモンキーの剣先が鋭く突いた。

アルフェイオスに剣先が食い込まずとも、簡単に持ち上げられる場所を突かれ、トライブはそれ以上身動きが取れなくなる。

トライブ……、私と同じ展開になってる。

どういうことですか、ソフィアさん……。

ボスモンキーの強い力で、剣ごと体が持ち上げられてしまう……。

そうならなきゃいいけど……。

ソフィアの目は、じっとリングを見つめている。

自らの少しだけ先を行く剣士が、同じやられ方をされるはずがないと。


だが、現実はそうではない方向に動き出す。

お前もここで、力尽く!

ボスモンキーの剣が、アルフェイオスを一気に上に押しのける。

トライブは、体まで持ち上げられることだけは耐えたものの、剣の重心を突かれて押し返すことができない。


そして、ボスモンキーがその剣を軽く引き、再び右の手首を目がけて突き出した。

だっ……!

アルフェイオスを戻そうとしたトライブの右腕に、ボスモンキーの剣が突き刺さる。

ギリギリで右手首直撃は回避できたものの、トライブの腕を覆うグローブにはっきりと割れ目ができたのが、アリスたちにもはっきりと見えた。



ダメージを受けた瞬間、トライブは痛みのあまり目を閉じる。

それが、致命的な隙となってしまった。

腕に力が入らなくなれば、こちらのものだ!
ソードマスター……!

ボスモンキーが、その剣を次々とアルフェイオスに命中させる。

わずかな隙を見せたトライブは、相手のスピードについて行くのがやっとだ。


トライブは何とか防ぐものの、跳ね返すこともできないまま、すぐ次の攻撃を受けてしまう。

その勢いのまま、ボスモンキーがアルフェイオス目がけて、その剣を激しく振り上げた。

だあああ……っ!

トライブは、ボスモンキーの溢れるばかりの力のままに、リングの端までよろけるように下がる。

かろうじて投げ飛ばされなかったアルフェイオスをボスモンキーに向けるものの、トライブは相手を見つめたまま、次の一歩を踏み出すことができない。


トライブが肩で呼吸をしているのが、アリスの目にもはっきりと見えてくる。


「クィーン・オブ・ソード」ですら、最強のサルを止めることはできないのか……。

アリス……。


トライブ、もうボロボロじゃん。

魔術をかけてやったほうがいいんじゃね?

ボスモンキーが、アリスに勢いよく振り向き、右腕をトライブに伸ばしながらその体を揺さぶった。


それでも、アリスはモンキをじっと見つめ、こう返した。

大丈夫です……。


たぶん、そんなことしたらソードマスターに怒られます。

死んじゃうよ……。


ボスモンキーを倒すの、オイラたちの使命じゃん。

オイラたちにできることは、それじゃないのか?

ソードマスターが本当に死にそうな時は、魔術をかけてます。

でも、今はその力を信じることが、ソードマスターにとって何よりの後押しになると思うんです。


こんなボロボロになっても……、それでも諦めを許さず戦って、強敵を打ち砕く。

それが、トライブ・ランスロットという、一人の女なんです。

アリスは、モンキにきっぱりと言った。

誰よりもトライブのバトルを後ろで見てきた身として、今はそうすることしかできないと、その意思を前面に出すかのように。


その言葉が終わると同時に、ソフィアがモンキにそっと語りかけた。

見て。

トライブのあの目は、本気だから。


「剣の女王」が、100%のパワーを解き放つ時よ。

トライブがその本気を見せたとき、どれだけの力を見せつけるか。

何度もその力を受けてきたソフィアには、はっきりと分かっていた。


「剣の女王」は、それでも冷静だった。

どうした……。もう終わりか……!


なら、お前の体を八つ裂きにするまでだ。

私は……、まだ戦うわ。

ソードマスターとして……、この世界の秩序を守る者として!

トライブの足が、勢いよくボスモンキーに向かった。

アルフェイオスを斜め上に挙げ、再び下に振り下ろす。


同時に、ボスモンキーの剣先が、振り下ろされたアルフェイオスを再び突こうとした。

はあああっ!
なっ……!

トライブの剣を振り下ろすパワーが、ボスモンキーの剣をもねじ伏せた。

やや下に傾けられた剣に目をやりながら、ボスモンキーは歯を食いしばるようにもがく。


そこに、トライブは再び剣を振り下ろし、ボスモンキーの剣の先を完全に下に向けた。

すげぇ……。


さっきとは全然パワーが違う……。

次の瞬間、ボスモンキーはやや後ろに下がり、再びトライブの右手首を突き刺そうとその剣を正面に向けた。

だが、わずかながらその手の力は弱まっていた。


そこに、トライブは三たびアルフェイオスを鋭く振り下ろした。

はあああああっ!

ボスモンキーの手首すれすれに、トライブの激しい一撃が命中した。

手の感覚を失った凶暴なサルから剣が離れ、リングへと落ちていく。


アルフェイオスの先を鋭く向けられた最強のサルは、リングの上に跪いた。

「クィーン・オブ・ソード」の全身から残像のように、その名に恥じぬパワーが溢れていた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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