48 パティスリーをやっつけろ
文字数 2,568文字
竜巻から解き放たれるように、アリス、モンキ、そしてデビルラフレシアがお菓子のお城のテラスに飛び込んだ。
そこから10メートルも離れていないところで、パティスリーが飛び跳ねている。
パティスリーの表情は、とてもケーキの妖精とは言えないほどに真っ赤で、目が吊り上がっていた。
そう言って、パティスリーは軽く体を前に傾けた。
頭に乗ったクランベリーやブルーベリーの間に、よく見るとオレンジ色の細いスジが見える。
アリスたちが、先程コロシアムで見たものと全く同じような色だった。
剣を持つモンキが、まずパティスリーに飛びかかる。
だが、パティスリーはすぐに後ろを向き、高くジャンプした。
ちょうど階段20段くらいの高さを、軽く飛び上がってしまうほどのジャンプ力だ。
モンキは、階段を目指さず、吹き抜けになっている城の柱の一つに飛びつき、慣れた手つきで素早く駆け上がろうとする。
だが、5メートルほどの高さまで上がったとき、モンキが思わず手を見た。
その時、ついにモンキの足がクリームの滑らかさに耐えられなくなった。
手で柱を押さえようとするが、間に合わない。
モンキの舌は正直だった。
そう言うが早いか、素早く口の外に舌を見せたのだった。
もともとモンキは、お菓子のお城でお菓子を食べたいがために、今までアリスと冒険をしていた身だ。
お菓子のお城に入り、目の前に食べられるものがあるということは、ある意味そこがゴールだと言ってもよかった。
そしてそれは、アリスも同じだった。
床に落ちたモンキを見ながらも、アリスの舌もまた、動いたのだ。
そう言うと、アリスはモンキの上った柱ではなく、パティスリーが飛び跳ねている階段の手すりを軽く掴んだ。
そして、その手すりに食用の金箔が貼られていることをその目で確かめて、アリスはパティスリーに呼び掛けた。
唯一武器を持たないデビルラフレシアが、お菓子を食べ出すという「粗相」を見せるアリスに向かい、ジャンプを始めた。
だが、アリスはデビルラフレシアの近づく音にすぐさま振り返り、こう言い放った。
パティスリーの声が上から聞こえ、アリスはようやく首を上に傾けた。
その時にはもう、アリスの食べている手すりの上には乗っておらず、赤いじゅうたんが敷かれたような階段に移っていた。
アリスは、階段の下に降りたところで中腰になりながら、手招きをした。
そして、モンキの両手とデビルラフレシアの足を階段の赤いじゅうたんの端に当てて、その真ん中にアリスが入る。
アリスは、自分のタイミングで階段のじゅうたんを勢いよく引っ張った。
持ってみた感じは、赤いゼラチンだった。
アリスは、勝利を確信した。
パティスリーの乗ったゼラチンが、勢いよくアリスたちに引き寄せられる。
ジャンプをしようとしても、ゼラチンの床ではどうすることもできない。
そのままパティスリーは、転がるように階段を落ち、ゼラチンを引っ張るアリスの前に突きだされた。
アリスは、両手で思い切りパティスリーのゼラチンを掴み、大きな口を開けてその頭の上に乗っかった全てにかじりついた。
数多くのものを食べ尽くしたその歯が、パティスリーの頭に宿ったマンドレイクをつまみ出し、すぐに床の上に捨てたのだった。
そして、静寂が訪れた。
お菓子のお城の主は、突然目を下に落とし、うなだれるような表情でアリスの前に出てきた。
アリスとモンキは、その目を見つめるように目線を下に向けた。
そう言って、モンキはすぐさま、先程勢いよく引っ張ったゼラチンに手を伸ばした。
だが、パティスリーの力ではないとても激しい力が、そのゼラチンを強く踏んだ。
モンキとアリスは同時に、その力から目を徐々に遠ざけた。
そこにあったのは、パティスリーをこれまで以上に睨みつけるような、デビルラフレシアの鋭い目だった。