48 パティスリーをやっつけろ

文字数 2,568文字

パティスリー、覚悟ーーっ!

竜巻から解き放たれるように、アリス、モンキ、そしてデビルラフレシアがお菓子のお城のテラスに飛び込んだ。

そこから10メートルも離れていないところで、パティスリーが飛び跳ねている。


パティスリーの表情は、とてもケーキの妖精とは言えないほどに真っ赤で、目が吊り上がっていた。

お姉ちゃんたち、本気でマンドレイクを外そうとしているみたいだね。


いい?ここの城は、渡さないから!

そう言って、パティスリーは軽く体を前に傾けた。

頭に乗ったクランベリーやブルーベリーの間に、よく見るとオレンジ色の細いスジが見える。

アリスたちが、先程コロシアムで見たものと全く同じような色だった。

パティスリー、いま見えたぞ!

マンドレイクが頭に乗っているの!

剣を持つモンキが、まずパティスリーに飛びかかる。

だが、パティスリーはすぐに後ろを向き、高くジャンプした。


ちょうど階段20段くらいの高さを、軽く飛び上がってしまうほどのジャンプ力だ。

こ~こま~でお~いで、お~サル~さん♪
こっちだって、木登りは得意なんだからなっ!

モンキは、階段を目指さず、吹き抜けになっている城の柱の一つに飛びつき、慣れた手つきで素早く駆け上がろうとする。


だが、5メートルほどの高さまで上がったとき、モンキが思わず手を見た。

上りづらそうだね。


だって、この柱、ホイップクリームでコーティングしてるんだもん!

食べて欲しくないけど、食べられるよ。

くそー……、手からおいしいにおいが……。

その時、ついにモンキの足がクリームの滑らかさに耐えられなくなった。

手で柱を押さえようとするが、間に合わない。

うわああああ!

あ、サルが木から落ちた!

ことわざだけは中途半端に知っているのか、アリスよ。

いたたた……。


でも、なんかオイラにとって、柱が楽園のように思えた……。

モンキの舌は正直だった。

そう言うが早いか、素早く口の外に舌を見せたのだった。


もともとモンキは、お菓子のお城でお菓子を食べたいがために、今までアリスと冒険をしていた身だ。

お菓子のお城に入り、目の前に食べられるものがあるということは、ある意味そこがゴールだと言ってもよかった。



そしてそれは、アリスも同じだった。


床に落ちたモンキを見ながらも、アリスの舌もまた、動いたのだ。

モンキがそんなこと言うからあああ!


私だって食べたくなっちゃいました。

そう言うと、アリスはモンキの上った柱ではなく、パティスリーが飛び跳ねている階段の手すりを軽く掴んだ。


そして、その手すりに食用の金箔が貼られていることをその目で確かめて、アリスはパティスリーに呼び掛けた。

パティスリーさん!


私、もう我慢できません!

いただきまーす!

えーーっ!?


っていうか、食うなーっ!

あー、この手すりがチョコモナカぽくておいしいーっ!

お菓子のお城、最高です。

あーあ、予想通り食べ始めちゃったよ。

おい、アリス。

お菓子に負けて戦闘放棄か?

唯一武器を持たないデビルラフレシアが、お菓子を食べ出すという「粗相」を見せるアリスに向かい、ジャンプを始めた。


だが、アリスはデビルラフレシアの近づく音にすぐさま振り返り、こう言い放った。

パティスリーさんは、今この手すりに乗ってるんですよ。

バカな私の取った行動を前に、慌てて何もできないじゃないですか。


もしここで手すりが吹き抜け側に傾けば、パティスリーさんは真っ逆さまです。

そ、そんな簡単にいくのか?


てか、そんな声してたらパティスリーにも丸聞こえじゃないか!

聞こえてるよー。

パティスリーの声が上から聞こえ、アリスはようやく首を上に傾けた。

その時にはもう、アリスの食べている手すりの上には乗っておらず、赤いじゅうたんが敷かれたような階段に移っていた。

わーん、気付かれちゃったーっ!

アリス。


そんな作戦は簡単に失敗するって、誰もが分かっていたことじゃないのか。

失敗しても、食べられたら面白いじゃないですか。


モンキ、デビルラフレシアさん。こっちこっち。

えっ?

アリスは、階段の下に降りたところで中腰になりながら、手招きをした。

そして、モンキの両手とデビルラフレシアの足を階段の赤いじゅうたんの端に当てて、その真ん中にアリスが入る。

まさか、引っ張……
せーの!

アリスは、自分のタイミングで階段のじゅうたんを勢いよく引っ張った。

持ってみた感じは、赤いゼラチンだった。


アリスは、勝利を確信した。

わわわわわっ!?

パティスリーの乗ったゼラチンが、勢いよくアリスたちに引き寄せられる。

ジャンプをしようとしても、ゼラチンの床ではどうすることもできない。


そのままパティスリーは、転がるように階段を落ち、ゼラチンを引っ張るアリスの前に突きだされた。

あっ……!
つーかまーえたっ!

アリスは、両手で思い切りパティスリーのゼラチンを掴み、大きな口を開けてその頭の上に乗っかった全てにかじりついた。


数多くのものを食べ尽くしたその歯が、パティスリーの頭に宿ったマンドレイクをつまみ出し、すぐに床の上に捨てたのだった。



そして、静寂が訪れた。



お菓子のお城の主は、突然目を下に落とし、うなだれるような表情でアリスの前に出てきた。

アリスとモンキは、その目を見つめるように目線を下に向けた。

マンドレイクケーキにしたら最高においしそうだと言われたから……、こうしてマンドレイクを乗せちゃったんだ……。


そうしたら、すごく怒りぽくなって……。

そうだったんですか……。


マンドレイクに騙されたってわけなんですね。

やっぱり、ボスモンキーと同じくマンドレイクが原因だったのか……。


で、もう何もしないよな……。

オイラのことも、アリスのことも、許してくれるよ、な……。

そう言って、モンキはすぐさま、先程勢いよく引っ張ったゼラチンに手を伸ばした。


だが、パティスリーの力ではないとても激しい力が、そのゼラチンを強く踏んだ。

モンキとアリスは同時に、その力から目を徐々に遠ざけた。


そこにあったのは、パティスリーをこれまで以上に睨みつけるような、デビルラフレシアの鋭い目だった。

こっちはまだ許してないぞ。


お前がいなかったら、いや、お前が和菓子を徹底的に嫌わなければ、俺たちはこんな植物の姿になんかならなかった。

どう責任を取る、洋菓子よ。

ちょ……、ちょ……っ、デビルラフレシアさん?
アリスの動転したかのような声が、その場一面に響き渡った。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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