33 見よ、サルがゴミのようだ。

文字数 2,567文字

アリスたちが竜巻に乗ってお菓子のお城の上空を通過した時、そこから数百メートル離れたところにサルの大群がいるのが分かった。
ヤバいな……。ボスモンキーだ……。

ボスモンキー……?


なんか強そうな名前ですね。

いやぁ、オイラたちサルにはもともと名前なんかないけどさ、あれだけは別。

さっき言ってた、道具を持たせたらとんでもないことになるサルさ。


でも、それにしても色が違うような気がする。

モンキは、眼下に見えるサルの大群をじっと見ていた。

最初は光の反射と錯覚して、おでこに手を当てたものの、それでもモンキの曇った表情は変わらない。

もしかして、またどこか変わってしまったとかですか……。

あぁ、たぶんあんな色じゃない。

オイラと同じサルだぜ。あそこまで真っ黒けっけなわけあるかよ。

たしか、みんな黒いですね……。

恐ろしいくらいに。

アリスが小さな声でそうつぶやいたとき、デビルラフレシアが一度眼下に目をやって、それからこう言った。

おそらく、お花のお城で何かをされたんだろう。

俺も、お花のお城の機械に入れられたとき、かなり色が変わったからな。

お、お花のお城に行ったんですか……?

アリスとモンキは、デビルラフレシアの言葉に思わず顔を見合わせた。

オイラ、そんなの知らないよ。

だって、どう考えたってオイラが山を数日降りてる間に行ったとしか思えないのに。

たしかに、そうですよね。

あれだけの数のサルが山にいなくなったら、モンキなら気が付きますよね。

まぁな。


オイラも、お花のお城のほかにお菓子のお城があるって聞いて、最初はお菓子のお城と正反対に進んでしまった。

だから、アリスを乗せて戻るまで、数日空けていたというのもある。

アリスは、モンキの説明を聞いて小さくうなずいた。

だが、アリスにはそれでも分からないことがあった。

でも、お花のお城に行ったのは分かるとして、どうして変色するんですか。

モンキの仲間だったとしても、明らかにモンキと色が違うような気がします。

すると、デビルラフレシアがアリスに目を向けながら、やや低い声でこう言った。

動物の植物化計画というのは、完成すればかなり変色する。

たとえ失敗しても、たとえある程度のところまでいけば、元の色が相当変色する。


俺も、最初は透き通った緑と、あんこの紫だったが、その紫が完全に剥がれ落ちた。

おそらく、あそこにいるサルもそういうような感じなんだろう。

言われてみれば、オイラも……。


だいぶ脱色したとか、戻ってきて言われたような気がする。

私、さっき鏡で見たけど全然変わってなかったですよ。


たぶん、服を着ていたからでしょうか……。

アリス、そこは分からんな。

止めたのが早かったからかもしれないが。

デビルラフレシアがそう言ったとき、ついに竜巻がサルの大群に押し掛けた。

何匹ものサルが、左へ右へ逃げ惑うのが、上空のアリスからもはっきりと分かった。

竜巻って、お猿さんたちを巻き上げていくんですねー。

すごいです。

待った、アリス。

ラフレシアの力を借りちゃいけなかったんじゃなかったっけ。

バレなきゃ、何をやってもいいんですよ。

私だって、ソードマスターの見てないところでこっそりお菓子食べてますもの。

それとこれとは次元が違うような気がするが、気のせいだろうか。

まぁ、アリスらしいと言えばアリスらしいけど、問題はその後だ。

オイラは、できれば仲間を説得させたいんだ。

あ、そうでした……。

もともとモンキの仲間だったんですね。

この辺で凶暴なサルとか言ったら、オイラたちしかいないんだぜ。

ここはオイラが説得しないといけないんだ。


デビルラフレシア。

群れに突進するのはやめて、遠くから回り込んでオイラが食い止める。

分かった。

デビルラフレシアがうなずくと、竜巻は一旦サルの大群から外れ、サルを追い越すように先回りした。

サルたちの手にも口にも、明らかにお菓子があったように見えた。

私たちがお菓子のお城に入れないのに、なんかちょっと許せなくなりました。

ちょっとうらやましいというのはあるけど、今の説明を聞いてものすごく悲しくなってきたよ。


お花のお城で植物化計画を実行されたラフレシアが、こうして楽園を襲っていくと考えると、なんかものすごく嫌な予感しかしないんだ。

えっ……?


嫌な予感って……。

その時、アリスは突然竜巻の進行方向が変わったように思えた。

体をひねらせて、何とか重心を保つ。


すると、正面に先程のサルの大群が飛び込んできた。

竜巻が急降下し、アリスとモンキはサルの大群が駆け抜ける大地へと降りていった。

我々ラフレシアは、何もしないでここで待っている。

説得がうまくいくことを願っている。

分かった、オイラに任せとけって!

モンキは、大群に体を向け、両手を大きく広げた。

100m先に、その大群はあった。

モンキ。

あの怖そうな表情をしているのが、ボスモンキー?

あぁ、そう。

サルのくせに顔がいかついのが、ボスモンキーだ。

アリスたちがそう話した時、突然視界からサルたちの姿が消えた。

一瞬気付くのが遅れたときには、大群がUターンして、再びお菓子のお城へと走り出したのだった。

お猿さんが……!

オイラたちの仲間は、そこまでバカじゃないからな……。

竜巻が止まっているのを察して、逃げたのかもしれない。



おい!ボスモンキー、いい加減にお菓子のお城を襲うのはやめろ!

すると、ボスモンキーと思われる声がアリスたちの耳に響き、あのいかつい表情がほんの少しの間アリスたちに振り向いた。

お前たちも、お菓子を狙っているにおいがしたからな。

私たちはもう一度、お菓子のお城を襲うまでだ。

なに、あの憎たらしいやつーっ!

オイオイ、アリス。

ボスだぜ、ああ見えても。


ボスモンキーに逆らったら、山の上でもサルの丸焼きが待っていた。

ごくり……。


おいしそう。

食うなっつーの。


ていうか、みんなお菓子のお城にもう一度向かったぞ。

背に乗って追い越すか、それとも竜巻でお菓子のお城に先回りするか……。

向こうも、同じスピードじゃないですか……?


たぶんですけど。

たしかに、そうだよな。


でも、よく考えろ。

竜巻に乗ってお菓子のお城に行ったら……。

いいから、行きましょ。


私だって、ラフレシアだって、行きたいんですよ。

そう言うと、アリスはデビルラフレシアに向かって走り出し、その葉の上に飛び込んだ。

モンキが力なく戻ると、また竜巻は激しく回り始めた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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