25 幸せ呼ぶ伝説のイルカたち

文字数 2,591文字

気が付くと、アリスとモンキは、竜巻の突風ではなく潮風を感じ始めていた。

ほんのわずか、水面付近で渦ができているようで、デビルラフレシアの葉がその上に軽く着地した。

さぁ、ラフレシアの戦力たちよ。

狩りの時間だ。


ここにいるイルカを、おなかいっぱい食い尽くすんだ。

食べるだけで……、いいんですか?

そうだ。


お菓子を取ってくるときもそうだが、ストックはあまりしない。

獲物を捕ったものに、優先的に食べられる仕組みだ。

オイラ、お菓子のお城から話を聞いたとき、竜巻で根こそぎお城のお菓子を吸い上げているとばかり思っていたぜ。


戦力というのは、そういうことだったんだ。

竜巻は、あくまで移動手段。

人間どもには破壊の風とか言われているが、そこまで大それたことをしているつもりはない。

デビルラフレシアは、その一つ目で周囲を見回しながら、アリスたちにこう言った。

波は穏やかで、地平線が見えるギリギリのところから、イルカと思わしき生物の群れが、次々に青空に向かってジャンプしていた。

じゃあ、私たちはこの銃で戦わないといけないですね。
オイラは剣だな。

アリスとモンキは、小さな渦を船代わりにして、イルカの出現を待った。

先程見たイルカの群れが、少しずつこちらに近づいてくるようだ。

来るな……。この群れをしとめたら、オイラたちはかなりの頭数になる。

そうですね。


デビルラフレシア、もう少し近くまで行けま……。

アリスがそう言いながら振り向くと、デビルラフレシアは既に渦の向こう側で葉を伸ばし、縄張りを作っていた。

どうやら、バトルについては手助けしてくれないようだ。



そうなると、ダメ兵士アリスは、やっぱり一人で戦わなければいかなかった。

来ます!

アリスは、標的としている群れが100mほどに迫ったとき、ついに銃を構えた。

剣を持つモンキは、まだ動きを見せない。

これは、独り占めの大チャンス!

アリスは、引き金に手を当て、先頭のイルカがジャンプした瞬間に引き金を引いた。

弾丸が、イルカに向かって解き放たれる。それも、短時間に5発同時に。


アリスは、群れの動きをじっと見つめた。

あっ……!

アリスから銃声が響いた瞬間、群れが全くジャンプをしなくなってしまった。


アリスが解き放った弾丸は、最後に飛び上がったイルカの尾びれに1発目がかすっただけで、あとは無造作に海に向かって落ちていくだけだった。

そんなぁ~!

アリス。

イルカの聴力をなめちゃいけないな。


あいつら、超音波でオイラたちが感じない音まで感じちまう。

なんか……、学校で教わったような気がします。

やっぱり、私はバカですね。

そう言ってるうちに、アリス、背中から飛び上がってくる!

えっ……!

アリスは、ひらりと後ろを振り返った。だが、その瞬間にはもう、アリスの横にモンキがいて、軽くジャンプして標的に立ち向かっていた。


激しい音と共に、数メートル先に上がった群れを次々と剣を叩きつけていく。

とりゃ!
モンキ、すごい!

アリスは、これほどまで至近距離に標的がいるにもかかわらず、モンキのきびきびとした動きに目が釘付けになってしまった。


銃口を群れに向けながらも、モンキが次々と剣で切り裂いていくので、その群れに向けて攻撃できない。

倒されたイルカたちは、いつも通りに海に戻っていくので、後ろにいた群れが次々と飛び上がっていく。銃の時とは、全く違う動きをイルカたちはしているのだった。

どうだ!

オイラの力を見たか!

群れを一匹残らず仕留めたモンキは、最後は10メートルほど泳ぎながら、渦まで戻ってきた。

しかし、アリスはそこまでやり遂げたモンキに、思わずにやりと笑ったのだ。

お猿さん。

お猿さん。


……早く上がってらっしゃい。

アリスは、一発も命中してないよな。

どうして、にやけるんだ。

いいからいいから。


お疲れさんでした。

そう言うと、アリスはモンキに背を向けて、イルカのいなくなった海に向けて飛び込んだ。

そして、それほど上手いとは言えないクロールで、先程モンキが剣で群れを仕留めた場所へと泳いでいった。

モンキの倒したイルカは、モンキが持って帰ってきてないから、私のもので~す!
ちょ……、そこは空気読……!

ルールなんだから、仕方ありませ~ん!


ぜぇ~んぶ取りまぁ~す!


食べることに関して、アリスはここまで卑怯な女の子だったのか。

ちょっと、デビルラフレシアよ!

どうにかしてくれないか!

モンキは、たまらずデビルラフレシアの背中をさすった。

ちょうど敵が出てきていなかったので、デビルラフレシアはモンキに振り向いた。

騒がしいな。

何があったんだ。

アリスが、オイラの捕ったイルカを横取りしてるんだ!

全部、あれオイラが倒したやつなんだからな!

モンキがそう言うと、デビルラフレシアはかすかに唸りながら、一つ目をやや細めて、ゆっくりとこう返した。

たしかに、それがルールなんだよな……。

自分で獲物を占領しないと。


それが、ラフレシアのルールというものだ。

はぁ……。

モンキは、デビルラフレシアから目を離して、軽いため息をついた。

その目の先に、皮を剥きながらイルカの肉を取り出しているアリスの姿が映る。

そもそもサル山では、捕ってきたエサをみんなで分けるのが鉄則だったような気がするんだよなぁ……。


なのに、オイラたちサルより進化しているはずの人間が、あんなことやってるんじゃ、オイラの築き上げた文明も落ちぶれたものだよ。

モンキーっ!

なんか、私でも全然食べられないくらいの頭数いるんだけど……、一人で食べること、できません……!

分かった。

じゃあ、オイラもたらふく食べられるってわけか!

アリスの一言で、モンキの中に宿っていたもやもやした気持ちが、問題が全然解決していないにもかかわらず、一気に晴れた。


モンキも一緒になって、倒されたイルカの皮を剥ぎ取っていく。


しばらくすると、アリスとモンキの背後からデビルラフレシアの声が聞こえた。

大漁だ!これは、ラフレシアの戦力全員に行き渡る以上のものがあるな。


モンキ、よくやった!

ありがとう!


へへーん、褒められたのはオイラだぞー!

勿論ですよ。私はただ、食べたかっただけですから。
じゃあ、みんなでこのイルカを焼くなり煮るなりして食べようじゃないか!
デビルラフレシアがそう言うと、アリスとモンキの周りに、デビルラフレシアを小さくしたようなたくさんの「戦力」たちがどこからともなく集まって、モンキの倒したイルカたちを食べたのだった。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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