25 幸せ呼ぶ伝説のイルカたち
文字数 2,591文字
気が付くと、アリスとモンキは、竜巻の突風ではなく潮風を感じ始めていた。
ほんのわずか、水面付近で渦ができているようで、デビルラフレシアの葉がその上に軽く着地した。
デビルラフレシアは、その一つ目で周囲を見回しながら、アリスたちにこう言った。
波は穏やかで、地平線が見えるギリギリのところから、イルカと思わしき生物の群れが、次々に青空に向かってジャンプしていた。
アリスとモンキは、小さな渦を船代わりにして、イルカの出現を待った。
先程見たイルカの群れが、少しずつこちらに近づいてくるようだ。
アリスがそう言いながら振り向くと、デビルラフレシアは既に渦の向こう側で葉を伸ばし、縄張りを作っていた。
どうやら、バトルについては手助けしてくれないようだ。
そうなると、ダメ兵士アリスは、やっぱり一人で戦わなければいかなかった。
アリスは、標的としている群れが100mほどに迫ったとき、ついに銃を構えた。
剣を持つモンキは、まだ動きを見せない。
アリスは、引き金に手を当て、先頭のイルカがジャンプした瞬間に引き金を引いた。
弾丸が、イルカに向かって解き放たれる。それも、短時間に5発同時に。
アリスは、群れの動きをじっと見つめた。
アリスから銃声が響いた瞬間、群れが全くジャンプをしなくなってしまった。
アリスが解き放った弾丸は、最後に飛び上がったイルカの尾びれに1発目がかすっただけで、あとは無造作に海に向かって落ちていくだけだった。
アリスは、ひらりと後ろを振り返った。だが、その瞬間にはもう、アリスの横にモンキがいて、軽くジャンプして標的に立ち向かっていた。
激しい音と共に、数メートル先に上がった群れを次々と剣を叩きつけていく。
アリスは、これほどまで至近距離に標的がいるにもかかわらず、モンキのきびきびとした動きに目が釘付けになってしまった。
銃口を群れに向けながらも、モンキが次々と剣で切り裂いていくので、その群れに向けて攻撃できない。
倒されたイルカたちは、いつも通りに海に戻っていくので、後ろにいた群れが次々と飛び上がっていく。銃の時とは、全く違う動きをイルカたちはしているのだった。
群れを一匹残らず仕留めたモンキは、最後は10メートルほど泳ぎながら、渦まで戻ってきた。
しかし、アリスはそこまでやり遂げたモンキに、思わずにやりと笑ったのだ。
そう言うと、アリスはモンキに背を向けて、イルカのいなくなった海に向けて飛び込んだ。
そして、それほど上手いとは言えないクロールで、先程モンキが剣で群れを仕留めた場所へと泳いでいった。
食べることに関して、アリスはここまで卑怯な女の子だったのか。
モンキは、たまらずデビルラフレシアの背中をさすった。
ちょうど敵が出てきていなかったので、デビルラフレシアはモンキに振り向いた。
モンキは、デビルラフレシアから目を離して、軽いため息をついた。
その目の先に、皮を剥きながらイルカの肉を取り出しているアリスの姿が映る。
そもそもサル山では、捕ってきたエサをみんなで分けるのが鉄則だったような気がするんだよなぁ……。
なのに、オイラたちサルより進化しているはずの人間が、あんなことやってるんじゃ、オイラの築き上げた文明も落ちぶれたものだよ。
アリスの一言で、モンキの中に宿っていたもやもやした気持ちが、問題が全然解決していないにもかかわらず、一気に晴れた。
モンキも一緒になって、倒されたイルカの皮を剥ぎ取っていく。
しばらくすると、アリスとモンキの背後からデビルラフレシアの声が聞こえた。