3 このツアーには保護者が1名付いてきます
文字数 2,558文字
ドアの向こうから、明らかにアリスに向かって呼び掛けている、トライブとは少しだけ違うトーンの声。
その声を聞くだけで、アリスはドアの外に誰がいるのか真っ先に分かった。
そう。
アリス、中にいても何も始まらないわ。
鍵を開けて、外に出なさい。
アリスは、鍵を力いっぱい回し、ドアを勢いよく開けた。
あった。
この部屋の鍵が……!
茶髪のショートヘアをなびかせ、女剣士ソフィア・エリクールはアリスの前で部屋の鍵をジャラジャラと響かせた。
ソフィアと言えば、トライブにとっては大親友で、かつ最大のライバルと言える存在。それ故、二人でいろいろな話をすることが多かった。
おそらく、この鍵の件も、事前に話し合って決めたことだろう。
そうなれば、夜中トライブが部屋を出て行ったのも納得がいく。
アリスが、ソフィアの言った言葉の意味に気が付いた時には、既にソフィアは廊下をスタスタと歩いており、アリスに一瞬振り向くだけだった。
アリスは、嫌な予感を思い浮かべながらも、普通に歩きながら玄関へと向かった。
そして、玄関から外に出た。
アリスは、ソフィアの顔を見て一度うなずき、ゆっくりと体の向きを変えて「オメガピース」自治区の出口へと向かった。
普段なら、任務に出る時も通りのお菓子屋さんでトライブにお菓子をねだっているアリスも、この時ばかりはいつもの店には見向きもせず、ひたすら自治区の外を目指した。
自治区を出ると、アリスはソフィアに促されるようにスカートの脇につけた銃に右手を軽く当てた。
食べることか遊ぶことがメインだと、「オメガピース」じゅうから思われているアリスも、アッシュに憧れたというのもあって、一応銃を使う。
トライブの前に出てくる敵が、とてもアリスの戦えるようなレベルじゃないってことはよく分かってる。
でも、あまりにも強いからって怯えちゃダメよ。
怯え始めたら、そこで負けてしまうの。
たしかに、私だってトライブと戦っていたら、いつの間にか女王の強さを思い知らされるけどね。
そう言い聞かせるソフィアは、時折首を数回横に振った。
アリスの目には、それが永遠のライバルに対する悔しさの表れのように見えた。
その時、アリスは遠目にモンスターの姿を見た。
角を二つ生やした、体長2メートルはあるような獣が牙を剥いている。
アリスは、右手で軽く触れていた銃を持ち、両手でその銃を真っすぐモンスターに向けた。
だが、口径10センチもない小さな銃に、モンスターが怯えることはなかった。
突進してくる。
銃を持つアリスの手が、それだけで震える。
アリスは、この時我に返った。
ソフィアの声が、震えていた手の動きを抑えてくれていた。
閉じかけていた目も、今は真っすぐにモンスターに向ける。
そして、アリスは銃を真っすぐに伸ばしたまま、引き金を引いた。
解き放たれた弾丸が、モンスターへと真っすぐに突き進む。
5メートル、4メートル……。このまま行けば、間違いなく命中する。
その時だった。
弾丸の直前を、一羽のカラスが猛烈な勢いで横切った。
アリスは、思わず口を開けた。
カラスの風圧で、弾丸がわずかに左に反れてしまったのだ。
その隙でアリスに迫ってくる獣。
我関しないと言わんばかりに、「アホーアホー」と鳴くカラス。
もはやアリスの震えは、どうにも止まらなくなっていた。