3 このツアーには保護者が1名付いてきます

文字数 2,558文字

な、なんか今、ソフィアさんの声が聞こえてきたような……?

ドアの向こうから、明らかにアリスに向かって呼び掛けている、トライブとは少しだけ違うトーンの声。

その声を聞くだけで、アリスはドアの外に誰がいるのか真っ先に分かった。

あのー、もしかしてソフィアさんですか?

そう。


アリス、中にいても何も始まらないわ。

鍵を開けて、外に出なさい。

はーい!

わっかりましたー!

アリスは、鍵を力いっぱい回し、ドアを勢いよく開けた。



あった。


この部屋の鍵が……!

あぁ、やっぱりソフィアさんだったんですね!


そして、この部屋の鍵を持ってる……!

茶髪のショートヘアをなびかせ、女剣士ソフィア・エリクールはアリスの前で部屋の鍵をジャラジャラと響かせた。


ソフィアと言えば、トライブにとっては大親友で、かつ最大のライバルと言える存在。それ故、二人でいろいろな話をすることが多かった。

おそらく、この鍵の件も、事前に話し合って決めたことだろう。

そうなれば、夜中トライブが部屋を出て行ったのも納得がいく。

アリス、手掛かりの一つぐらい探しなさい。

トライブがそんな極悪なことをするわけないわ。

でもー……、いつも怒られてるから、お菓子のお城の話でとうとう見捨てられちゃったかな……と思ったんです。

ちゃんと真面目にやっていたら、トライブだって面倒見てるじゃない。

気にしないの。


で、アリスが準備できているなら、私はこの部屋の鍵を閉めて、トライブに鍵を返すわ。

もちろんです。

準備はいっぱいできてます!

準備いっぱい、ってなんか変な言葉ね。



とりあえず、私もトライブに鍵を返したら行けるから、アリスの行きたい時間に下の玄関で待ってて。

はい……!
あれ……?
あのー……、ソフィアさん?

アリスが、ソフィアの言った言葉の意味に気が付いた時には、既にソフィアは廊下をスタスタと歩いており、アリスに一瞬振り向くだけだった。


アリスは、嫌な予感を思い浮かべながらも、普通に歩きながら玄関へと向かった。


そして、玄関から外に出た。

アリス、遅かったわね。
えっ……、ソフィアさん、やっぱり剣を持ってるってことは……。

勿論よ。


アリスに何かあったらいけないから、私が後ろから見守っていることにしたの。

言ってしまえば、アリスがVIP、私がSPというところね。

SP……。


スペシャルなポリスさんですか。

そう、ポリスさん。


アッシュに、トライブは付いて行くなと言われたんだから、私が付いて行くしかないじゃない。

最後まで面倒は見るから、アリスの好きなようにやりなさい。

うーーん……。


一人でお菓子のお城に行くつもりだったのに……。

アリスは、トライブではないにせよ、「保護者」同伴が決まったことで、心なしか肩を落とした。

アリス。

せっかく一緒に冒険するのに、そんなこと言ったら失礼だと思う。


大人は、簡単に傷つくんだから。

分かりました。


なるべく、ソフィアさんの手取り足取りにならないように頑張ります。

アリスは、ソフィアの顔を見て一度うなずき、ゆっくりと体の向きを変えて「オメガピース」自治区の出口へと向かった。

普段なら、任務に出る時も通りのお菓子屋さんでトライブにお菓子をねだっているアリスも、この時ばかりはいつもの店には見向きもせず、ひたすら自治区の外を目指した。

だって、私の行く先にはお菓子のお城があるんだも~ん!
いつの間にか、アリスは口笛吹いていた。
ここからは、モンスターも出てくるから、アリスも武器に手をかけたほうがいい。
分かりました。

自治区を出ると、アリスはソフィアに促されるようにスカートの脇につけた銃に右手を軽く当てた。


食べることか遊ぶことがメインだと、「オメガピース」じゅうから思われているアリスも、アッシュに憧れたというのもあって、一応銃を使う。

そう言えば、アリスはどれくらい銃を使えるの?
……てへっ!
笑うな、アリス。
まさか、ほとんど使ったことないって言ってるわけじゃないよね……?

その、まさかかもしれません。


一日何回かは使っているんですが……、いつもいつもソードマスターの強さに圧倒されて……、なんというか、ソードマスターのバトルを見ているほうがゾクゾクしてくるんです。

「それ」じゃ、いつまで経っても強敵を倒せないわ。
それじゃあ……、ってどういうことですか?

トライブの前に出てくる敵が、とてもアリスの戦えるようなレベルじゃないってことはよく分かってる。


でも、あまりにも強いからって怯えちゃダメよ。

怯え始めたら、そこで負けてしまうの。


たしかに、私だってトライブと戦っていたら、いつの間にか女王の強さを思い知らされるけどね。

ソフィアさんも……、やっぱり最後は呑まれてしまうのですね。

そう。


強い相手に呑まれない人なんて、ほとんどいない。

私が見ている限り、そんな人はトライブぐらい……。


だから、アリスもそこまで落ち込む必要はないわ。

そう言い聞かせるソフィアは、時折首を数回横に振った。


アリスの目には、それが永遠のライバルに対する悔しさの表れのように見えた。



その時、アリスは遠目にモンスターの姿を見た。

角を二つ生やした、体長2メートルはあるような獣が牙を剥いている。

ソフィアさん、敵です。
アリスの物語よ。
そう言えば、そうでしたね……。

アリスは、右手で軽く触れていた銃を持ち、両手でその銃を真っすぐモンスターに向けた。

だが、口径10センチもない小さな銃に、モンスターが怯えることはなかった。


突進してくる。

銃を持つアリスの手が、それだけで震える。

……っ、……っ!
アリス、怯えないの!
はっ……!

アリスは、この時我に返った。


ソフィアの声が、震えていた手の動きを抑えてくれていた。

閉じかけていた目も、今は真っすぐにモンスターに向ける。


そして、アリスは銃を真っすぐに伸ばしたまま、引き金を引いた。

これが……、私の力……!

解き放たれた弾丸が、モンスターへと真っすぐに突き進む。

5メートル、4メートル……。このまま行けば、間違いなく命中する。


その時だった。

弾丸の直前を、一羽のカラスが猛烈な勢いで横切った。

あっ……!

アリスは、思わず口を開けた。

カラスの風圧で、弾丸がわずかに左に反れてしまったのだ。


その隙でアリスに迫ってくる獣。

我関しないと言わんばかりに、「アホーアホー」と鳴くカラス。


もはやアリスの震えは、どうにも止まらなくなっていた。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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