23 サル同伴の条件
文字数 2,550文字
デビルラフレシアが、力強い声でアリスを誘った途端、アリスとの間に生まれていた無風空間が姿を消し、再びお花のお城に強い風が吹いた。
もはや生きることも許されないかのようにしおれた草たちが、アリスたちを見つめていた。
アリス、って言ったようだな。
竜巻の上に乗っていいぞ。
楽園を破壊する力になるのなら、持って行っていい。
お前自体が重そうだから、大砲とか重いものはやめろ。
重いって言わないで下さいよー!
重いのは、お菓子をいっぱい食べている証拠なんですから。
アリス。
その言葉を聞いたら、100人中100人が、やせろ、の一言で片づけると思うぞ。
モンキがそう笑ったとき、デビルラフレシアの四つ葉の一つが、アリスの前まで伸びて、まるで絨毯の上にでも上げるように、アリスをその上に載せた。
アリスは、まだ角で様子を見ているままのモンキに人差し指を伸ばした。
すると、デビルラフレシアは、再び鉄兜に音を立てながら、首を横に振った。
一般的に、サルは何をするか分からん。
少なくとも、騙しの生物だと、ラフレシアでは思っている。
オイラだって、お菓子食べに行きたいよ!
普通、ここまで一緒にいるアリスが止めるんじゃねぇのか。
冗談ですよー、勿論。
デビルラフレシアさん……。
モンキも連れて行っちゃダメですか?
そう言いながら、デビルラフレシアは四方に伸びた歯を引っ込め、そのうち一つにアリスを乗せているだけだった。
鉄兜に手の届く位置にいたアリスは、その鉄兜を軽く叩きながら、デビルラフレシアに低い声で言った。
モンキがサルだからダメ、って言うんなら、私たちだってサルですよ。
手足を上手に使い、いろんなことを考えるんですから。
そうだそうだ。
人間とオイラたちサルは、同じ生物なんだ。
モンキがそう言って、いよいよデビルラフレシアに近づこうとしたとき、デビルラフレシアはその一つ目をアリスに鋭く向けて、そっとこう言った。
それは、本当の話か。
人間という生物の進化が、サルから行われたとでも言うんだな。
そうですよ。
サルが、人間になったんですもの。
ちょっと腰を曲げて、手をこんな感じに地面に置きます。
ウキー!
アリス。
間違ってはないけどな……、オイラの目の前でそれやられると恥ずかしい。
あ、ごめんなさーい!
だって、デビルラフレシアは植物みたいだし、私たちの進化が分からないかもしれないから……。
モンキが鋭くそう突っ込むと、デビルラフレシアの目が大きく開き、モンキに向いた。
そして、ほんの少しだけ穏やかな声に戻しながら、モンキにこう告げた。
お前は、モンキと言ったよな。
どうしてモンキという、サルにしてはかわいい名前をつけるんだ。
だって、このアリスがオイラのこと、モン・キホーテって言うから、モンキになったんだ。
そう。
アリスには悪いけど、アリスを一言で言ってしまえば、バカ。
アリスと言えば、あの女剣士トライブに、会って数日で「今まで出会った中で最悪の兵士」と言われたくらいだ。
それでも、ここまで「オメガピース」の兵士として頑張っているのは、最低の状態からならいくらでも伸びる、とトライブが付け加えてくれたからだ。
だからこそ、バカと言われることには慣れているし、アリスがそこまで劣等感を感じることもなかった。
逆に言えば、それがアリスをここまで自由奔放のままにさせている原因なのかもしれないが。
まぁ、アリスをバカと見れば、オイラが天才というのは認める。
なるほど……。
ずる賢い意味での天才というのではないわけだな。
もちろんだとも!
オイラは、そこまでみんなを裏切るようなことをしてこなかったし、逆にサル山でも裏切られたほうだからさ。
モンキが裏切られキャラだとは、私、思わなかったです。
まぁ、そうなんだよ。
オイラは、それでもここまで頑張ってきた。サルらしく。
もしかしたら、根はオイラとアリス、同じなのかもしれないな。
そう言いながら、モンキはいつの間にか両手を腰に当てていた。
アリスとは違う、ということをアピールするかのようだった。
モンキ。
お前の言いたいことはよく分かった。
ただ、ラフレシアとしてはアリスのような戦力になれるか、もう少し見てみたいと思う。
いや……。
ここで戦力になるかどうかを試してみたい。
そう言うと、デビルラフレシアはモンキに一歩ずつ近づきながら、こう言った。
いま、お花のお城は完全に無防備な状態のはずだ。
ここにあるもの、何を使ってもいい。
お前の力を、アピールしろ。
デビルラフレシアさん……。
物を使わなくても、そもそもモンキは人食いサルです。
通行人を食べてしまうようなサルなんです。
実は……そうなんだけどさ。
あまり、ここで人を食うような生々しい瞬間を見せられるかといえば違うぞ。
アリスが納得したようにそう返すと、モンキは左に目をやった。
何故かそこに、剣のようなものが落ちていた。
それを手に取り、じっと見つめながらモンキは言った。
オイラはサル。
だから、この手で道具を使うことだったらできる。
オイラはいま、この剣を見つけた。
この剣、なかなかいい切れ味をしているから、オイラが使ってもかなりの力になるかも知れないな。
すごーい!
ソフィアさんよりも、なんかモンキが剣を持っていたほうが画になるような気がします!
アリス。
もしかして、ソフィアというのが、あのダメ女剣士か。
えーと……。
ダメとは言わないですが、ソードマスターにいつも負けているような、そんな剣士です。
私から見たら、全然強くないです。
ソードマスターって言われても、オイラには全然分からないけどな。
アリスとモンキがそう言いあっているとき、ついにデビルラフレシアの葉がモンキにまで伸びてきた。
モンキはジャンプしながら、デビルラフレシアの葉の上に乗った。
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