42 決戦前夜の恋愛イベント(相手はサル)
文字数 2,536文字
アリスは、普段からルームメイトとして一緒に過ごしているトライブのことを思い出しながら、モンキに話を続けた。
前にも言ったかもしれないけど、トライブ・ソードマスターはとても強いんです。
女ということを忘れてしまうような、大胆な動きをするし……、ものすごく迫力のある声を出すんです。
そんなソードマスターの素顔、見たことないですか?
アリスの口から、次々とトライブの人間像が語られるたび、モンキは何度かうなずいた。
そして、一通り説明が終わると、モンキは腕を組んだ。
オイラだって、諦めたくはないけど……、現実を考えたらそうなのかもしれない。
でもさ、ここで止まっていたら、この任務から完全に逃げ出すってことなるじゃん。
この世界の秩序を乱した、ボスモンキーたちを止めることが、オイラたちの任務なんだろ。
腕を組んでいたモンキは、その腕をほどいて、軽く腰に当てた。
そして、やや首をアリスに突き出して、さらに言葉を告げた。
最初、パティスリーからラフレシアを倒して欲しいと言われて、結局ラフレシアにつくことになって……、それからいくつもオイラとアリスは目的を転々としてきた。
一度も任務という任務を達成できたことなんて、オイラたちにはなかった。
でも、一緒に冒険をする中で、その全てがボスモンキーにつながってて、その元凶を倒せば……世界は少しだけ変わるような気がするんだ。
「お菓子」の3文字で、アリスが釣れました。
その時、アリスとモンキの頬を、暮れゆく西日の赤い日差しが眩しく照らしていた。
文字通りの決戦前夜になろうとしていた。
アリスは何をしようとしているでしょう。
1.彼氏はアッシュだけです、と冷たくモンキを振る。
2.モンキを彼氏にしたいです、と逆にアッシュを振る。
3.ぬいぐるみのようにモンキに抱きつく。
4.キス。
そう言ってくれると、私も最終決戦に向かうような心の高ぶりを感じられますね。
モンキ、朝になったら私を背中に乗せて、剣術大会の会場まで急ぎましょ。
たぶん、モンキの足だったら1時間くらいあれば着きそうな気がします。
意気揚々と最終決戦に臨もうとしていたアリスの表情は、一気に曇った。
小刻みに体を震わせて、モンキにも見えるように首を傾けた。
そして、10秒ほど頭の中で考えた後、気の抜けた表情でモンキに告げたのだった。
たしかに、鼻をそうやってたな。
あっちの方向に人の気配がすることは間違いないとか思って、すぐにアリスの前から立ち去った。
後は、明日という日付をどう伝えるかだな。
いずれにしても、剣術大会の場にボスモンキーが来れば大丈夫なんだが……。
来ますよ。
だって、剣術大会を楽しみで見に来る人ばかりじゃないですか。
自治区の中で、その日一番盛り上がるイベントがそれですもの。
ボスモンキーの考えが間違ってないなら、その気配を感じて飛び込み参加するはずです。
アリスとモンキは、少しずつ広がる夜空を、お花のお城の窓から感じながら、同時に首を振った。
文字通りの決戦前夜だった。
これが最後の夜になるかも知れない、と思うと、アリスの脳裏にこれまでのモンキの言葉が一つ一つ思い浮かんできた。
その全てが、想定外の展開にしてしまったこの冒険の、思い出たちだった。
翌日、剣術大会の会場で大波乱が起きようということを、この時のアリスとモンキは全く思いもしなかった。