42 決戦前夜の恋愛イベント(相手はサル)

文字数 2,536文字

アリスは、普段からルームメイトとして一緒に過ごしているトライブのことを思い出しながら、モンキに話を続けた。

前にも言ったかもしれないけど、トライブ・ソードマスターはとても強いんです。

女ということを忘れてしまうような、大胆な動きをするし……、ものすごく迫力のある声を出すんです。


そんなソードマスターの素顔、見たことないですか?

素顔は見たことないな……。


ただ、山の上から女だか男だか分からないような力強い声と、その後鋭く剣を突き刺す音ははっきりと聞いたような気がするんだ。

たぶん、それがソードマスターだと思います。


このあたりで普通に声出して戦う女って、一人しかいませんから。

なぁ、アリス。


オイラ、一度戦ってみたいと言ったけど、そのトライブって剣士、本当にすごいんだな。

強さだけじゃなくて、人間としても。

そうですね……。


ダメな私を、いつも叱ってくれる……、ちょっと怖い時もあるけど、尊敬できる兵士かなって思います。

できれば、私もそんな風に、大人の心を持った兵士でいたいなと思いますけどね。

アリスの口から、次々とトライブの人間像が語られるたび、モンキは何度かうなずいた。

そして、一通り説明が終わると、モンキは腕を組んだ。

なぁ……。


ボスモンキーを許せないオイラとして……、なんだけどさ、この任務の行く末を剣術大会に集まった剣士たちに任しちゃって、本当にいいのかな……って思うんだ。

私も……、ちょっと言い過ぎたような気がします。


でも、私たちがボスモンキーたちと戦っても、なんか勝てないような気がするんです。

オイラだって、諦めたくはないけど……、現実を考えたらそうなのかもしれない。



でもさ、ここで止まっていたら、この任務から完全に逃げ出すってことなるじゃん。

この世界の秩序を乱した、ボスモンキーたちを止めることが、オイラたちの任務なんだろ。

腕を組んでいたモンキは、その腕をほどいて、軽く腰に当てた。

そして、やや首をアリスに突き出して、さらに言葉を告げた。

最初、パティスリーからラフレシアを倒して欲しいと言われて、結局ラフレシアにつくことになって……、それからいくつもオイラとアリスは目的を転々としてきた。

一度も任務という任務を達成できたことなんて、オイラたちにはなかった。


でも、一緒に冒険をする中で、その全てがボスモンキーにつながってて、その元凶を倒せば……世界は少しだけ変わるような気がするんだ。

たしかに……。

今、もしかしたらお菓子のお城はそれを望んでるような気がします。

だろ。


だから、最後ぐらい任務を達成して終わろうよ。

ほんの少し、そのトライブの後押しをするだけでもいい。

少しでも、任務達成のために動かないと。



お菓子、欲しいんだろ。

はいっ!

「お菓子」の3文字で、アリスが釣れました。

言われてみると、こんなエンディングじゃ……、お菓子のお城にも、「オメガピース」で待っているライフルマスターにも……、いや、誰からも受け入れてもらえないような気がします。


モンキの言う通りです。

エンディングまで、もう時間はない。

今はもう、決戦前夜だと思ったほうがいい。

その時、アリスとモンキの頬を、暮れゆく西日の赤い日差しが眩しく照らしていた。

文字通りの決戦前夜になろうとしていた。

本当に、決戦前夜だね。モンキ。

オイオイ。


ドラマとかによくあるシチュエーションじゃないだろうな。

決戦前夜に愛の告白をしようなんて。

アリスは何をしようとしているでしょう。


1.彼氏はアッシュだけです、と冷たくモンキを振る。

2.モンキを彼氏にしたいです、と逆にアッシュを振る。

3.ぬいぐるみのようにモンキに抱きつく。

4.キス。

まさか、オイラが一番嫌がる選択肢を選ぶわけじゃないだろうな。
だって、ライフルマスターがキスなんかさせてくれないんです。
ブチュ。

初めて、人間の唇の体温を知ったぜ……。


オイラはやらねぇけどな。

なんか、今のキスで力が湧いてきたような気がする。

そう言ってくれると、私も最終決戦に向かうような心の高ぶりを感じられますね。


モンキ、朝になったら私を背中に乗せて、剣術大会の会場まで急ぎましょ。

たぶん、モンキの足だったら1時間くらいあれば着きそうな気がします。

分かった分かった。


まぁ、できれば光が差し込む前から走り出したいけどな。

剣術大会が何時からスタートするか、ボスモンキーには言わなかったわけだし。

あっ……!


何度かソードマスターが剣術大会に出るのを見てきたのに、時間の一つも思い出せなかったです。


というか、明日ということも言ってないです……。

言ってねぇな……。


これは本当にヤバいじゃん……。

ボスモンキーを剣術大会に案内するところから始めないといけないかもな。

意気揚々と最終決戦に臨もうとしていたアリスの表情は、一気に曇った。

小刻みに体を震わせて、モンキにも見えるように首を傾けた。


そして、10秒ほど頭の中で考えた後、気の抜けた表情でモンキに告げたのだった。

あ、ボスモンキーって、私が自治区の方向を指した時に、鼻をくんくんさせてましたよね。

人の匂いを感じることができそうな気がします。

たしかに、鼻をそうやってたな。

あっちの方向に人の気配がすることは間違いないとか思って、すぐにアリスの前から立ち去った。


後は、明日という日付をどう伝えるかだな。

いずれにしても、剣術大会の場にボスモンキーが来れば大丈夫なんだが……。

来ますよ。


だって、剣術大会を楽しみで見に来る人ばかりじゃないですか。

自治区の中で、その日一番盛り上がるイベントがそれですもの。


ボスモンキーの考えが間違ってないなら、その気配を感じて飛び込み参加するはずです。

なるほどな。

それなら、安心だ。


じゃあ、明日は早いから、今日はこのお花のお城で横になろう。

草のベッドで。

さんせーい!

アリスとモンキは、少しずつ広がる夜空を、お花のお城の窓から感じながら、同時に首を振った。


文字通りの決戦前夜だった。


これが最後の夜になるかも知れない、と思うと、アリスの脳裏にこれまでのモンキの言葉が一つ一つ思い浮かんできた。

その全てが、想定外の展開にしてしまったこの冒険の、思い出たちだった。



翌日、剣術大会の会場で大波乱が起きようということを、この時のアリスとモンキは全く思いもしなかった。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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