21 のび太!

文字数 2,542文字

花かおり、緑あふれ、人かくまう茎。

その理解者を、我が盟友に仕立てあげん!

お花の妖精が、やや大きな声でそう言うと、アリスの真下からみるみるうちに一本の茎が伸びていき、アリスの足を縛り付けた。
アリス!だから逃げろって……!

モンキ……!

だって、どう見たって、私を理解してくれてたじゃないですか~!

アリスが、ほんのわずかな時間モンキに話す間に、茎は幾重にも別れ、アリスの体を縛り付けた。


植物の茎だというのに、体を少し動かしただけでは切ることのできない頑丈なものだった。アリスは、足から腰にかけて体全体をぶらぶらさせるものの、アリスにまとわりつく茎は増えていく一方だった。

私たちの最大の理解者。

今すぐ植物になってもらわなければ、植物は滅んでしまいます……。

ま……、まさかこれが、動物の植物化計画……?


読んで字のまんまじゃないですか!

アリス……、落ち着け!オイラの話を聞くんだ。
モンキ、聞こえないー!

茎が伸びていく音が、ついにアリスの耳も遮断した。

耳に聞こえるのは、茎そのものが生長する気持ち悪い音と、その中を流れる栄養の音だった。


人間にとっては、この上ない雑音と言っても過言ではなかった。



そんな状態のアリスに、モンキは茎から体一つ分遠ざけて、アリスに大声で言った。

アリス。


オイラもこうやって、茎にしっぽを掴まれて、そのまま機械の中に送られたんだ。

その中に、さっきも行った通り非常停止ボタンがあるはずなんだ。

それに気付かなければ……、アリスは本当に植物になってしまう……!

私が、食べ物になってしまうんですかー!

絶対嫌ですー!

こんな大ピンチの真っ最中に、アリスは間違っても言ってはいけない言葉を口にしてしまうのか。

まぁ、アリス。


無事を願うよ!

モンキがそう言った途端、アリスにまとわりついていた茎ががっしりとアリスを掴み、その足を地面から離した。

伸びた……!


機械の中に入れられちゃいます……!

アリス~っ!

視界すら茎に覆われてほとんど見通せない中、アリスは空中に仰向けで放り出されていることだけは分かった。

がっしりと茎で掴まれて、運ばれていく。


すると、床が動く音が聞こえ、中から機械と思われるものがエレベーターのようなもので上がってきた。

あぁ……、これがオイラを閉じ込めた機械だ……。


でも、これ……、大丈夫か?

機械の口が開き、アリスを乗せた茎がその中へと伸びていく。

だが、モンキには一つの疑問という名の勝算があった。


モンキは、サルだった。

サルだからこそ、あの大きさの機械で「ちょうどいい」感じに閉じ込められたのだった。


問題は、アリスがいかにもお菓子食べすぎの体つきをしているような人間であるということだった。

たぶん、入らない……!

モンキの声がわずかに聞こえたとき、アリスはまるで草原の上に投げ出されたかのような感触で、機械に背中から叩きつけられた。

アリスの身にまとっていた茎が少しずつほどかれるが、今度は粘着力のある草がアリスを起き上がれなくさせていたのだった。

なんか、ギューギューに締め付けられているみたいなんだけど……。
ま、まさか……!

アリスの体は、機械にびっしり詰められ、そのまま大きな口がパクッと閉められてしまった。

外の光は見えるが、もはやそこはガラスケースの中だった。

えっと……、たしかモンキはさっき、非常停止ボタンとか言ってたような気がする……。

それを押さないと、この機械は止まらないんだっけ……。

アリスは、粘着力のある草を振り切って、ひとまず体の向きをうつ伏せにしようと体を回しかけた。

だが、草を振り切ったのはいいが、アリスの腰が扉にぶつかって、体を仰向けからうつ伏せにできない。

せ……、狭い……。

なんなの、ここ……。

機械が狭くて、人間の体が満足にその中で動くことができないのだ。

非常停止ボタンが、もしアリスの足に近いところならば、それを見ることもできない。


中身が植物だらけなので、この狭い中でも酸欠になることはなさそうだが、それでもこの狭い空間の中で恐怖心がアリスを襲った。

さぁ、動物の植物化計画、スタートです。

お花の妖精がそう言うと、アリスの背中からいくつもの葉が渦を巻くように現れ、アリスの体にまとわりついた。

な、なんですか!このニュルニュルした気持ち悪い葉っぱ……!

普通の植物であれば、茎の方がニュルニュルしてそうだが、ここだけは違った。ずっと機械の下の方に蓄えられたのか、それとも葉に何かしらの養分でも付けられているのか、葉の方がなめらかになっていた。


そして、その不思議な感触は、中に入るどんな生物も植物の世界に溶かし込んでしまいそうな魔法だった。

いや、魔法というか、その葉っぱがアリスの細胞をはぎ取っているというか。


いずれにしても、動物が植物に負ける日でも体験しているかのようだ。

なんか、楽しいけど、気持ち悪いし……、非常停止ボタンを押さないと植物にされちゃう……。

お花の妖精は、たしかに植物になれば栄養をたくさん取れるとは言ったものの、大好きだったお菓子やごはんを食べることはもうできなくなってしまう。


それだけは絶対に嫌だ。

そう心に決めたアリスは、思わずポケットに手を伸ばした。


念のためポケットに入れておいた銃が、まだあった。

そうだ……!

この銃で入口や機械を壊してしまえばいいんだ……。

植物でもなければ、動物でもない。

人間がその手で作り出した銃弾で、植物に染まったこの世界の秩序を解放できるはず。


そうアリスは信じ、思いを引き金に託した。



――パァン!

あ……。

真上に撃ったはずの銃弾は、入口のガラスでものの見事に跳ね返ってきた。

銃弾が、アリスの顔に迫る。目を閉じた。

いっ……。

機械の中で起きた小さな爆発が、アリスの顔の表面をところどころ焦がした。

幸い首や頭蓋骨への直撃ではなかったが、自ら放った攻撃に返り討ちされたアリスは、機械の中でただ呆然とするしかなかった。


その間にも、アリスを覆う気持ち悪い葉は、アリスの皮膚の細胞を少しずつはぎ取っていくのだった。

いやああああ!

アリスは、ついに機械の中で叫んだ。

もはや、どうすることもできなかった。



だが、叫び声が全く聞こえなくなったとき、アリスはその体から葉を感じなくなった。

それどころか、機械が全く動かなくなったのだ。

止ま……った……?
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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