21 のび太!
文字数 2,542文字
花かおり、緑あふれ、人かくまう茎。
その理解者を、我が盟友に仕立てあげん!
アリスが、ほんのわずかな時間モンキに話す間に、茎は幾重にも別れ、アリスの体を縛り付けた。
植物の茎だというのに、体を少し動かしただけでは切ることのできない頑丈なものだった。アリスは、足から腰にかけて体全体をぶらぶらさせるものの、アリスにまとわりつく茎は増えていく一方だった。
私たちの最大の理解者。
今すぐ植物になってもらわなければ、植物は滅んでしまいます……。
茎が伸びていく音が、ついにアリスの耳も遮断した。
耳に聞こえるのは、茎そのものが生長する気持ち悪い音と、その中を流れる栄養の音だった。
人間にとっては、この上ない雑音と言っても過言ではなかった。
そんな状態のアリスに、モンキは茎から体一つ分遠ざけて、アリスに大声で言った。
アリス。
オイラもこうやって、茎にしっぽを掴まれて、そのまま機械の中に送られたんだ。
その中に、さっきも行った通り非常停止ボタンがあるはずなんだ。
それに気付かなければ……、アリスは本当に植物になってしまう……!
視界すら茎に覆われてほとんど見通せない中、アリスは空中に仰向けで放り出されていることだけは分かった。
がっしりと茎で掴まれて、運ばれていく。
すると、床が動く音が聞こえ、中から機械と思われるものがエレベーターのようなもので上がってきた。
機械の口が開き、アリスを乗せた茎がその中へと伸びていく。
だが、モンキには一つの疑問という名の勝算があった。
モンキは、サルだった。
サルだからこそ、あの大きさの機械で「ちょうどいい」感じに閉じ込められたのだった。
問題は、アリスがいかにもお菓子食べすぎの体つきをしているような人間であるということだった。
モンキの声がわずかに聞こえたとき、アリスはまるで草原の上に投げ出されたかのような感触で、機械に背中から叩きつけられた。
アリスの身にまとっていた茎が少しずつほどかれるが、今度は粘着力のある草がアリスを起き上がれなくさせていたのだった。
アリスの体は、機械にびっしり詰められ、そのまま大きな口がパクッと閉められてしまった。
外の光は見えるが、もはやそこはガラスケースの中だった。
アリスは、粘着力のある草を振り切って、ひとまず体の向きをうつ伏せにしようと体を回しかけた。
だが、草を振り切ったのはいいが、アリスの腰が扉にぶつかって、体を仰向けからうつ伏せにできない。
機械が狭くて、人間の体が満足にその中で動くことができないのだ。
非常停止ボタンが、もしアリスの足に近いところならば、それを見ることもできない。
中身が植物だらけなので、この狭い中でも酸欠になることはなさそうだが、それでもこの狭い空間の中で恐怖心がアリスを襲った。
お花の妖精がそう言うと、アリスの背中からいくつもの葉が渦を巻くように現れ、アリスの体にまとわりついた。
普通の植物であれば、茎の方がニュルニュルしてそうだが、ここだけは違った。ずっと機械の下の方に蓄えられたのか、それとも葉に何かしらの養分でも付けられているのか、葉の方がなめらかになっていた。
そして、その不思議な感触は、中に入るどんな生物も植物の世界に溶かし込んでしまいそうな魔法だった。
いや、魔法というか、その葉っぱがアリスの細胞をはぎ取っているというか。
いずれにしても、動物が植物に負ける日でも体験しているかのようだ。
お花の妖精は、たしかに植物になれば栄養をたくさん取れるとは言ったものの、大好きだったお菓子やごはんを食べることはもうできなくなってしまう。
それだけは絶対に嫌だ。
そう心に決めたアリスは、思わずポケットに手を伸ばした。
念のためポケットに入れておいた銃が、まだあった。
植物でもなければ、動物でもない。
人間がその手で作り出した銃弾で、植物に染まったこの世界の秩序を解放できるはず。
そうアリスは信じ、思いを引き金に託した。
――パァン!
真上に撃ったはずの銃弾は、入口のガラスでものの見事に跳ね返ってきた。
銃弾が、アリスの顔に迫る。目を閉じた。
機械の中で起きた小さな爆発が、アリスの顔の表面をところどころ焦がした。
幸い首や頭蓋骨への直撃ではなかったが、自ら放った攻撃に返り討ちされたアリスは、機械の中でただ呆然とするしかなかった。
その間にも、アリスを覆う気持ち悪い葉は、アリスの皮膚の細胞を少しずつはぎ取っていくのだった。
アリスは、ついに機械の中で叫んだ。
もはや、どうすることもできなかった。
だが、叫び声が全く聞こえなくなったとき、アリスはその体から葉を感じなくなった。
それどころか、機械が全く動かなくなったのだ。