31 来なくていい客

文字数 2,521文字

アリスが、デビルラフレシアの正体を告げられていたその時、お菓子のお城ではソフィアが城の警備から中に戻ってきた。
パティスリー、ちょっといい?

どうしたの、お姉ちゃん。

そんな思い詰めた顔をして。

本当に、ああ言っただけでラフレシアに襲われずに済むのか、私には分かりません。
ソフィアが軽くそう言うと、パティスリーは目をやや細め、ソフィアをじっと見つめた。
決めたことに反対するの?お姉ちゃん。

そんなつもりはなかったんだけど……。


アリスがあんな組織に付いて行ってることが、すごく不思議でならない。

アリスは、オメガピースの兵士だし、そこまで変なことをしないと思うんだけど。

それは簡単だよ。


ラフレシアがここのお菓子を食べたいし、お菓子で釣られたんじゃない?

ラフレシアのトップが私を嫌っているはずだし、それで「お菓子のお城を食べて壊しちゃえー!」ってなったんだよ。

アリスなら、120%あり得る話ね。


でも、今の一言がものすごく引っかかる。

ラフレシアのトップって、もともとパティスリーが嫌いだったの?

ソフィアがそう尋ねると、パティスリーは頭のクリームをプルプルと揺らしながら、恥ずかしそうに言った。

だって、ラフレシアは元々和菓子。

そんなラフレシアを、ケーキの形をした私が受け入れるわけないじゃん。


早くここから出てって欲しかった。

たしかに、思いっきり対立要素ありそうね。

お菓子の世界では、甘さとか食感とか、全てが互いに受け入れられない存在のように思えるし。

お姉ちゃんも、やっぱりそう思ってくれるんだ。


ちなみに、お姉ちゃんは和菓子と洋菓子、どっちが好き?

そうね。私は和菓子派かな。


私のいるオメガピースでも、真っ二つに分かれてる。

じゃあ、あのお姉ちゃんは?


たぶん、洋菓子っぽい顔をしてそうだけど。

そうね。

一番好きなのがケーキって言うくらいかな、アリスは洋菓子かな。


あとは、トライブっていう女剣士が洋菓子で、アッシュっていう銃使いが間違いなく和菓子。

きっと性格で好みが別れると思うけど、両方好きっていう人は、おそらくいないんじゃないかな。

そっか。


じゃあ、お姉ちゃんだけをこっちに入れて正解だったね。

パティスリーは、そこまで言うと飛び跳ねて、お菓子工房のほうに向かった。

ソフィアと話しているこの瞬間も、ケーキやクッキーが次々出来上がっている。

ラフレシアに食べられたところの修復は終わったかな。

それを見計らって、たぶんもう一度来そうだけど……。

ねぇ、パティスリー。


アリスが本当にやって来たら、どうする?

私、アリスを剣で刺してもいいけど……。

お姉ちゃん、悪だね。

アリスには、散々迷惑をかけられてきたし、アリスがやってきたら私があの泥に沈められるって言われたら、私がアリスを倒すしかない。


言っておくけど、アリスは弱いから。本当に。

説明しよう。


アリス・ガーデンス15歳は、「オメガピース」のほとんどの兵士から「弱い」「食べるだけ」と呼ばれているのである。それ故、任務に出るときはどうしても「トライブのおまけ」「見物人」という目で見られてしまうのである。

じゃあ、お姉ちゃんがちゃんと倒してね。

待ってるよ。

ソフィアは、パティスリーの声に軽くうなずいて、ゆっくりと持ち場に向かった。

そして、ため息とともに、パティスリーに聞こえないような声でささやいた。



アリスに、そんなことするわけないじゃない、と。

そう言ってたら、敵が来た……!
お姉ちゃん、いま何か言った?

ソフィアは、ストリームエッジを手に、迫り来る敵をじっと見つめた。

敵は、かなりの数いるようだ。



だが、ソフィアの目にはその集団がどこかおかしいことに気が付いた。

パティスリー、敵が来てる!


でも、竜巻に乗ってないし、お花のお城の方向からじゃない……!

もしかして、あんなこと言ったからやり方を変えた?


とりあえず、兵士なんだから、お姉ちゃん頑張ってね。

私一人で、こんな数の敵を相手にするの……?

ソフィアは、思わずパティスリーに振り返ったが、パティスリーは顔を縦に振るだけだった。


最大のライバル、トライブもそのような弱音は吐かない、ということをパティスリーの表情から思い出した。

ソフィアは、剣を敵の攻めてくる方向にまっすぐ伸ばした。



だが、そこにいたのはラフレシア……、ではなくサルの大群だった。

えっ……?


どうして、サルが攻めてくるの……?

アリスと一緒に、サルみたいな声の生物が付いてるような気がするけど……。

ソフィアは、足を踏み込みながらも、サルの姿に疑問を抱かずにはいられなかった。


まず、体つきだ。

かわいげのあるサルだが、その口は大きく、ソフィアを飲み込んでしまいそうな、激しい牙を携えたものだった。

完全に人食いサルだ。


それに、その手だ。

ほとんどのサルが、手に剣を持っている。サルも道具を使うが、たいていは棒で、冒険者が道ばたに落とす剣を使うなど、ソフィアの常識では考えられなかった。

剣士と剣士サルのバトル……。

楽しみじゃない。

ソフィアがそう呟いた瞬間、人食いサルの群れが泥の沼を泳ぎ、次々とお菓子のお城の土台に上り始めた。


ソフィアは、ストリームエッジを持ち、上がってきたサルに剣をふりかざし、一匹一撃で剣をふるい落とす。

それでも、サルは落ちた剣をまた拾い上げてソフィアに向かってきた。

次第に、サルの数が増えていく。

もっとペースアップしないと……!

ソフィアは、縦に振っていた剣を横に振り、サルの持っていた剣を次々と沼に落としていく。

剣を落とされたサルが、自分の剣を探しに沼に飛び込んでいった。


だが、飛び込むサルよりも上がってくるサルの方が多くなり、ソフィアはじりじりと城の中に押されていく。そして、ついに……。

ウキーーッ!
やめて!私の顔の上に乗るのやめて!

ソフィアが懸命に叫ぶが、サルには通じない。

目を潰されかけた女剣士に、それ以上戦闘を続けることができなかった。


フラフラと倒れたソフィアの上を、何匹もの人食いサルが駆け抜け、その度にソフィアの体に痛みが走る。

人食いサルとは名ばかりで、みな菓子食いサルとして、お城のお菓子を次々と食べていくのだった。

中には、柱によじ登るサルもいて、餌食になる菓子の量はラフレシアどころではなかった。

やめてぇ……。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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