31 来なくていい客
文字数 2,521文字
そうね。
一番好きなのがケーキって言うくらいかな、アリスは洋菓子かな。
あとは、トライブっていう女剣士が洋菓子で、アッシュっていう銃使いが間違いなく和菓子。
きっと性格で好みが別れると思うけど、両方好きっていう人は、おそらくいないんじゃないかな。
パティスリーは、そこまで言うと飛び跳ねて、お菓子工房のほうに向かった。
ソフィアと話しているこの瞬間も、ケーキやクッキーが次々出来上がっている。
説明しよう。
アリス・ガーデンス15歳は、「オメガピース」のほとんどの兵士から「弱い」「食べるだけ」と呼ばれているのである。それ故、任務に出るときはどうしても「トライブのおまけ」「見物人」という目で見られてしまうのである。
ソフィアは、パティスリーの声に軽くうなずいて、ゆっくりと持ち場に向かった。
そして、ため息とともに、パティスリーに聞こえないような声でささやいた。
アリスに、そんなことするわけないじゃない、と。
ソフィアは、ストリームエッジを手に、迫り来る敵をじっと見つめた。
敵は、かなりの数いるようだ。
だが、ソフィアの目にはその集団がどこかおかしいことに気が付いた。
ソフィアは、思わずパティスリーに振り返ったが、パティスリーは顔を縦に振るだけだった。
最大のライバル、トライブもそのような弱音は吐かない、ということをパティスリーの表情から思い出した。
ソフィアは、剣を敵の攻めてくる方向にまっすぐ伸ばした。
だが、そこにいたのはラフレシア……、ではなくサルの大群だった。
ソフィアは、足を踏み込みながらも、サルの姿に疑問を抱かずにはいられなかった。
まず、体つきだ。
かわいげのあるサルだが、その口は大きく、ソフィアを飲み込んでしまいそうな、激しい牙を携えたものだった。
完全に人食いサルだ。
それに、その手だ。
ほとんどのサルが、手に剣を持っている。サルも道具を使うが、たいていは棒で、冒険者が道ばたに落とす剣を使うなど、ソフィアの常識では考えられなかった。
ソフィアがそう呟いた瞬間、人食いサルの群れが泥の沼を泳ぎ、次々とお菓子のお城の土台に上り始めた。
ソフィアは、ストリームエッジを持ち、上がってきたサルに剣をふりかざし、一匹一撃で剣をふるい落とす。
それでも、サルは落ちた剣をまた拾い上げてソフィアに向かってきた。
次第に、サルの数が増えていく。
ソフィアは、縦に振っていた剣を横に振り、サルの持っていた剣を次々と沼に落としていく。
剣を落とされたサルが、自分の剣を探しに沼に飛び込んでいった。
だが、飛び込むサルよりも上がってくるサルの方が多くなり、ソフィアはじりじりと城の中に押されていく。そして、ついに……。
ソフィアが懸命に叫ぶが、サルには通じない。
目を潰されかけた女剣士に、それ以上戦闘を続けることができなかった。
フラフラと倒れたソフィアの上を、何匹もの人食いサルが駆け抜け、その度にソフィアの体に痛みが走る。
人食いサルとは名ばかりで、みな菓子食いサルとして、お城のお菓子を次々と食べていくのだった。
中には、柱によじ登るサルもいて、餌食になる菓子の量はラフレシアどころではなかった。