30 ラフレシアになった日のこと

文字数 2,588文字

やがて、竜巻はお花のお城に舞い降り、デビルラフレシアに乗っていたアリスとモンキはそこで降ろされた。


花だけが摘み取られたお花のお城に、そんな短い期間で花が咲くこともなく、相変わらず寂れた景色だけが広がっていた。

やっぱり、お花のお城は廃墟ですね……。

楽しいことが全くないというか。

俺たちが、ここの花を奪ったからな。

この辺りの花は、どれも食べられるものだ。

そうですか……。

デビルラフレシアの言葉に短く返事をしたアリスは、自らも入れられた不思議な機械の前に立った。


アリスが閉めた覚えもないのに、その蓋は閉まっていた。

幸いにしてお花の妖精の声は聞こえてこないので、アリスは蓋の上からその中をじっと見つめていた。

動物の植物化計画……。

いったい、あの時お花の妖精は何をしようとしていたんだろう……。


それに、ラフレシアにも関係していると言われているし……。

アリスは、その前で何度か首をひねったが、それ以上のことは分からなかった。


ふと、アリスの背後からデビルラフレシアの気配がした。

アリスが振り向くと、デビルラフレシアはじっとアリスを見つめていた。

アリスは、お菓子を求めないときは探偵家みたいなタイプの人間だな。

そう言われたのは初めてです。


私、名探偵アリスとか言われたら、「真実はいつもいちご大福!」とか言ってしまいそうで怖いですね。

アリスは、いつから小学生になったのだろうか。

それはそうと、やっぱりあそこまで言われたら、この装置の謎を知りたくなるのは当然だろうな。



なら、言おう。


この装置こそ、俺が楽しいことを憎む原因となったものだ。

植物に……、するための装置ですよね……。

デビルラフレシアさんのように、顔だけが人工的なままで残るのが、そもそも分からないですし……。

そう考えるのが、筋だろう。普通はな。


だが、そこを出発点にしたら、いつまでも分からないだろう。

そう言うと、デビルラフレシアは葉の一つを、お菓子のお城がある方角に伸ばした。

その目も、同じ方角に向いている。

ひょっとして、悪いのはお菓子のお城ですか……。


お菓子のお城が、悪の集団……!

そう。

一言で言えば、お菓子のお城は悪の集団だ。

もっと言えば、パティスリーが最大の悪魔だ。

それ聞いて、すごくショックです……。

アリスは、呆然と立ち尽くしたままデビルラフレシアを見つめるしかなかった。

未だに声しか聞いたことのないパティスリーを、アリスは頭の中にイメージさせる。


しばらくして、デビルラフレシアは、感情を押し殺すように静かに言った。

お菓子のお城は、1年前に俺たちと大げんかした。


その時、パティスリーはただのケーキの妖精。

俺は、菓子匠と呼ばれる、餅大福の妖精だった。

えっ……?


もしかして、デビルラフレシアさんは……、お菓子のお城の妖精だったんですか?

こんな姿では想像つかないかも知れないが、俺たちはもともとお菓子のお城にいた生命だ。

そんな……。


で、やっぱり喧嘩して、お花のお城にやってきたんですか。

アリスは、身の震える思いでデビルラフレシアの言葉を待った。

すると、デビルラフレシアは鉄兜を縦に揺らしながら、そっとアリスに告げた。

争いそのものは、些細なことだった。

和菓子と洋菓子、どっちがお菓子か。それを決める論争になった。

どっちもお菓子ですよ……。

私、両方好きです。

普通は、そう思うだろう。

だが、パティスリーがその論争を仕掛けてきて、俺たち和菓子勢力を一掃しようとした。


パティスリーは、思い通りにならなければ何をするか分からない、とんでもない奴だ。

兜を被せて、餅大福の妖精から城の警備に降格させ、奴だけがお菓子の妖精として残った。

たしかに、パティスリーさんはそんな口調で言ってきます。

ソフィアさんだけ気に入って、私をお城に入れようとしない、すごくえこひいきの強い妖精だと思うんです。

やっぱり、アリスもそう思ったようだな。



で、俺たちはお菓子のお城から夜逃げして、お菓子のお城を襲うための拠点を見つけた。

それがこのお城だった。

ただ、そこは動物お断りの、やはり一部の妖精が支配する世界だった。

そう言うと、デビルラフレシアの目は例の機械装置に向いた。

アリスも、機械装置に顔を向け、すぐにうなずいた。

餅大福の妖精を、草にしようとしたんですね。

餅大福だから、スカートが草だった。

だから、そのイメージでお花の妖精が俺たちを植物にしようとした。


そこで植物になっていれば、俺たちは反抗することもできなかったはずだ。

ただ、兵士にされたときについた鉄兜がどうしても邪魔で、植物化計画はことごとく失敗に終わった。



それで、お花の妖精にできそこない集団と言われ、そこからも捨てられた。

じゃあ、両方から捨てられたってことなんですね……。

事実上、そうなるな。


パティスリーだって、遠くに離れてから声が聞こえてきたが、あの時は「行っといで」と突っぱねたからな。

そこまで言って、デビルラフレシアは目を細めた。

そして、これまでよりもはるかに強い口調で言った。

この世に楽園なんてものは存在しない。

楽園は、本当は誰かの存在を犠牲にして成り立っているものだ。


だから、俺たちは人の楽しみをねたみ、そこで食べられるものを食べて楽しみを奪う。

誰かを憎む草。それがラフレシアだ。

デビルラフレシアの声に、アリスは一歩、また一歩と後ずさりした。

知ってしまったこと全てが、アリスにとっては心の打たれるものだった。

じゃあ……、私も楽しいと思うことをしてたら……、狙われるんですよね……。
目的が同じでなくなったときにはな。

そう言うと、デビルラフレシアはアリスに背を向けて、他のラフレシアが待つ窓際へとゆっくりと歩き出した。


アリスは、両手を軽く握りしめ、その力を強めようとしたが、それ以上力にならなかった。

私は、お菓子のお城とお花のお城と、ラフレシア……、みんな見方を間違ったかも知れない……。


少なくとも、ライフルマスターが言ったような楽園じゃなかった……。

いじめとか喧嘩とか……、そういう悲しいことしか起こらない場所だった……。

アリスは、ガックリと肩を落とし、デビルラフレシアの後ろをとぼとぼと歩き出した。

すると、そこにモンキが腕を組んで立っていた。

オイラにはほとんど聞こえなかったけど、何が告げられたのか分かるような歩き方だな……。

うん。


モンキには後で言うよ。



それと、私がこの後どうしなきゃいけないかも……。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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