6 お菓子のお城からの招待状

文字数 2,627文字

あれ……?
アリスは、団子を完全に喉の中入れた瞬間、包み紙の中に何やらもう一枚紙があることに気が付いた。

どうしたの?アリス。

ソフィアさん……。


この包み紙の中に、ちょっと紙みたいのが入っているんです……。

崩れないための土台じゃない?
そうですね、きっと。

アリスは、そう言って青い包み紙を丸めた。



だが、こんな何もないところの通り道に、ゴミ捨て場などなかった。

そう言えば、冒険者って食べた後のゴミはどこに捨ててるんですかね……?

いつもトライブの横にいて、気付かない?
いえ……、見てません……。

こんなところにゴミを落として、誰も回収しに来るわけない。


だから、小さな袋に入れて街まで持ち歩いているわけ。

私ならそうするな。

じゃあ、ポッケにしまいます。

そう言って、アリスが包み紙をポケットにしまおうとした。

だが、その時に包み紙から先ほどの紙が勢いよく飛び出してきた。

あっ……!
やっぱり、アリスらしい結果になったわね……。

アリスは、ソフィアの言葉におどけた表情で反応し、地面へと落ちた紙をすぐに拾い上げた。


そして、さらに偶然だったのか、紙に何か書いてあることに気が付いた。

これ、包み紙なんかじゃないです。

文字書いてます。

アリス、読める?

ソフィアは、アリスにゆっくりと近づき、その紙に書かれた文字を見ようとする。


その時、アリスが軽く息を飲み込んだ。

これ……、文字のようで、なんか食べ物……が描かれてます。

お菓子……しかないみたいです。

お菓子しかない……?

そこには、たしかに何かしらの文字が書かれている。


一見すると、アリスもよく知るオメガ語の文字だ。

だが、その一画一画が明らかにお菓子のイラストで作られていて、どこかふっくらしているように見えた。



アリスは、食べたくなる気持ちを抑え、ゆっくりとその文字を読んだ。

えっと……。


この紙を……取った人は……幸運です。

素敵な……ワンダーランドへの……招待状です。

ワンダーランド?


もしかして、どこかのテーマパークとか?

いや、もしかしたら……、きっと、あそこかもしれません!

続きを読みますね。


この招待状で……、お菓子が……、そしてスイーツが、普通の人よりも……、食べ放題!!!

お菓子のお城!!!!

徐々に抑揚をつけて読み上げたアリスは、最後には絶叫とも言えるような声を放った。

そして、喜びのあまりその場に仰向けで寝ころんだ。

やったあああああ!

お菓子のお城からの招待状——!

すごいじゃない!

偶然見つけた団子の袋から、こんなものが出てくるなんて。

ホントに、こんなの見つけるなんて思いませんでした!

つまり、この招待状を持ってお菓子のお城に入ったら、それだけで私はお菓子をいっぱいいっぱいいーっぱい食べられるわけです!

そこまで言うと、アリスは勢いよく起き上がり、ソフィアの顔を見た。

そして、すぐに靴で砂利道に踏みしめ、先に進み始めた。

お菓子、お菓子、おっかっしー♪
そうはしゃぐのはいいけど、アリス、お菓子のお城の場所分かってる?

書いてますよ。


しかも、ちゃんとオメガピースの自治区からの行き方も書いてるし、あの山のほうに向かえばお菓子のお城にたどり着けると思います。

たしかに……。


いつも方向音痴になるアリスなのに、今日はほぼ最短ルートで行ってるじゃない。

お菓子が絡むと、たぶん性格が変わるんです!

だだっ広い道なのか、それとも行く先がワンダーランドだからか、モンスターは全く現れない。

アリスは、夢の中で思い浮かべたお菓子のお城のことだけを、歩きながら考えていた。

食べ放題とか書いてあるから……、中身はどうなってるんだろう……。


きっと、私でもおなかいっぱいになるくらいのお菓子が、出てくるんだろうなー、ジュルリ。

擬音を言葉で言うな。
私も、スイーツ食べ放題と聞いて、すごくやる気が出てきた。

楽しい気分で歩く二人の表情には、不安のかけらもなかった。


二人は、人食いサルが言っていた言葉を既に忘れてしまっていたのだった。

お菓子のお城が「崩壊」しているということを。

この地図が正しければ、山の後ろ側にお菓子のお城が現れてくると思う。

たぶん、あと30分ぐらい歩けば着くと思う。

30分なんて、あっという間ですよ!

その先に、この招待状で食べられ……、あれ?

そこまで言いかけて、アリスは立ち止まった。


右手と左手を同時に目の前に持ち上げ、拳を開いてみた。



なかった。

アリス……、もしかして……?

ない……。


ない……。


招待状が消えた……。

アリスは、凍り付いた表情をソフィアに見せた。

ポケットの中、銃の中、上着やスカートも確かめたが、招待状はどこにも見当たらなかった。



まるで天国にでも舞い上がったかのような招待状を見てから2時間で、アリスは天国から地獄へと叩き落されたかのようだ。

うわ——ん……。


どうして……、どうして私だけが、いつもいつもこんなヘマをしちゃうんだろう……。

アリス……。

ソフィアは、アリスを見つめたまま、返す言葉を考えようとするだけだった。


喜びで気が付かなかったが、今思えば、たしかに招待状を手にしてから急に風が強くなってきたような気がしていた。

その風が、アリスの手に持っていた招待状を、ひたひらと空へと送ってしまったとしか考えられなかった。

戻って……、探したほうがいいですか……?

そうね……。


あと少しでお菓子のお城にたどり着けるし……、私も飛ばされたとしか考えられないから、むやみに周辺を探すのは得策じゃないと思う。

食べ放題……。

アリスは、涙こそ流さなかったが、少しずつ首を空へと傾けた。

どこまでも続く青い空が、この日ばかりはアリスを慰めているようだった。



その時アリスの耳に、誰かが「招待状」と言うのが聞こえた。

お菓子のお城の方角からだ。

よくまぁ、こんなインチキな招待状を考えたもんだよ。

ホント。

有効期限が去年の春までになっているものを、どうして最近作ったお菓子の包みの中に入れておくんだろうな。

お菓子のお城が、ものすごくヤバいということ、はっきりと分かったよ。
えっ……、まさかあの招待状、期限が切れていた……。

アリスは、ちょうどすれ違った青年二人組の怒ったような表情を見て、再びガックリと肩を落とした。

そこに、ソフィアがようやく口を開く。

やっぱり、甘い考えは捨てなさいってことなのかもしれない。

お菓子のお城で頑張らなきゃ……。

そうですね。行くしかないです。
天国から地獄、そしてさらにその下にまで叩き落されたアリスは、ソフィアの一言で、その足をゆっくりと進ませていた。
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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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