6 お菓子のお城からの招待状
文字数 2,627文字
アリスは、そう言って青い包み紙を丸めた。
だが、こんな何もないところの通り道に、ゴミ捨て場などなかった。
そう言って、アリスが包み紙をポケットにしまおうとした。
だが、その時に包み紙から先ほどの紙が勢いよく飛び出してきた。
アリスは、ソフィアの言葉におどけた表情で反応し、地面へと落ちた紙をすぐに拾い上げた。
そして、さらに偶然だったのか、紙に何か書いてあることに気が付いた。
ソフィアは、アリスにゆっくりと近づき、その紙に書かれた文字を見ようとする。
その時、アリスが軽く息を飲み込んだ。
そこには、たしかに何かしらの文字が書かれている。
一見すると、アリスもよく知るオメガ語の文字だ。
だが、その一画一画が明らかにお菓子のイラストで作られていて、どこかふっくらしているように見えた。
アリスは、食べたくなる気持ちを抑え、ゆっくりとその文字を読んだ。
徐々に抑揚をつけて読み上げたアリスは、最後には絶叫とも言えるような声を放った。
そして、喜びのあまりその場に仰向けで寝ころんだ。
そこまで言うと、アリスは勢いよく起き上がり、ソフィアの顔を見た。
そして、すぐに靴で砂利道に踏みしめ、先に進み始めた。
だだっ広い道なのか、それとも行く先がワンダーランドだからか、モンスターは全く現れない。
アリスは、夢の中で思い浮かべたお菓子のお城のことだけを、歩きながら考えていた。
楽しい気分で歩く二人の表情には、不安のかけらもなかった。
二人は、人食いサルが言っていた言葉を既に忘れてしまっていたのだった。
お菓子のお城が「崩壊」しているということを。
そこまで言いかけて、アリスは立ち止まった。
右手と左手を同時に目の前に持ち上げ、拳を開いてみた。
なかった。
アリスは、凍り付いた表情をソフィアに見せた。
ポケットの中、銃の中、上着やスカートも確かめたが、招待状はどこにも見当たらなかった。
まるで天国にでも舞い上がったかのような招待状を見てから2時間で、アリスは天国から地獄へと叩き落されたかのようだ。
ソフィアは、アリスを見つめたまま、返す言葉を考えようとするだけだった。
喜びで気が付かなかったが、今思えば、たしかに招待状を手にしてから急に風が強くなってきたような気がしていた。
その風が、アリスの手に持っていた招待状を、ひたひらと空へと送ってしまったとしか考えられなかった。
アリスは、涙こそ流さなかったが、少しずつ首を空へと傾けた。
どこまでも続く青い空が、この日ばかりはアリスを慰めているようだった。
その時アリスの耳に、誰かが「招待状」と言うのが聞こえた。
お菓子のお城の方角からだ。
ホント。
有効期限が去年の春までになっているものを、どうして最近作ったお菓子の包みの中に入れておくんだろうな。
アリスは、ちょうどすれ違った青年二人組の怒ったような表情を見て、再びガックリと肩を落とした。
そこに、ソフィアがようやく口を開く。