4 勝ったらお菓子がもらえるバトル

文字数 2,622文字

アリス、いつまで目を閉じてるの。

どれくらい時間が経っただろうか。


アリスは、ソフィアのやや強い口調の声で目を開けた。

アリスに今にも迫ろうとしていた獣が、アリスの目の前で倒れており、ソフィアがその前に立っていた。

あ……、ソフィアさん……。


もしかして、倒して……くれたんですか?

アリスの失敗に、いてもたってもいられなかったし、もしもアリスに何かあったら、私がどうして面倒を見なかったのかってなっちゃうし。

そうだったんですか……。


でも……、なんか嬉しいようで悲しいような気がします……。

アリスは、二、三回首を左右に傾けて、寝ぼけた頭を起こそうとした。

だが、アリスがそうしたところで、目の前に見える景色は変わらなかった。


ソフィアがアリスをずっと見ている。

そうかな……。

私は、アリスがそういうのを自覚しているから、安心できる。


それに何より、アリスはちゃんとまっすぐ腕を伸ばして、銃を放った。

私の目の前で、アリスが真面目に戦うの、言っちゃ悪いけど初めてかも知れない。

そうだったんですね……。



ソフィアさん、こんな少しだけ成長した私に、お菓子下さい。

あげるわけがない。

アリス。それは言わないお約束。


自分へのご褒美は、自分で出しなさい。

え~っ!


……ソフィアさん、おなか空きました。

アリスらしいわね……。


でも、それを見つけるのも冒険だと思う。

たしかに……、冒険は敵を倒すだけじゃないって、ライフルマスターが言ってたような気がします。

アリスは、頭の中に憧れのアッシュの言葉を思い浮かべた。

言葉を思い浮かべるにつれて、その脳裏にはアッシュのクールな表情まで浮かんでくる。

そうね……。


アッシュは生きるために戦い続けた、オメガピースの中でも滅多にいない存在だと思うし、常に冒険しているイメージだし……。

オデッサの森で、1年ぐらい野宿をしていたとか言ってましたし。

そうそう。オデッサの森ね。


だから、そこまでアッシュの生き方に付いて行く必要なんてない。

アリスは、自分なりに生きる道を考えた方がいいと思う。

そうですね……。



あっ!

アリスは、突然何かを思い出したかのように、ソフィアに告げた。

目の前に食べ物があるわけでもないのに、アリスはその表情に喜びを浮かべていた。

もしかして、何かいい方法を思いついたの?

そう、思いついちゃったんです。



あの……、ソフィアさん……。お菓子のお城までどれくらい距離がありますか?

そうね……。


さっき自治区を出たばかりだし、多分20キロくらいはあると思う。

そんなに距離があるんですね……。


でも、私は思いついたんです。

お菓子のお城に近づくにつれて、モンスターがお菓子を抱えているような気がします。

それは言える。


そうしたら、モンスターがお菓子を落とす可能性だってあるからね。

そういうことです。



人呼んで、勝ったらお菓子がもらえるバトル!

冷静に考えれば、その仮説に絶対ということはあり得ない。

だが、お菓子のお城の近くを歩いていれば、絶対にモンスターがお菓子を落とすと、アリスの中では既に決めつけていたのだった。



その横で、ソフィアがやや首を傾けながらアリスを見ていたことなど、アリスには全く気付くことがなかった。

じゃあ、お菓子目指していきましょう!


すごくやる気が出てきました!

しかし、アリスたちが進んでいる、お菓子のお城まで続く道はどういうわけか冒険者が多く行き交っており、ほとんどモンスターの姿を見ることがなかった。


結果、それから2時間以上の間、アリスがモンスターに狙われることがなかった。



そして、木の下にベンチを見つけたアリスは、ぐったりとした表情で腰を下ろした。

ソフィアさ~ん……、ガス欠です……。
素直に、おなか空いたと言わないのね。

おなか空いたってレベルじゃないです。



これだけ歩き続けて、もうダメです……。

アリス。


お菓子のお城まで着けば、お菓子食べ放題じゃない。

アリスの冒険のゴールは決まっている。

そうなんです……。


でも、モンスターと戦わなければ、食べ物を落としてくれることもないです……。

それが冒険ってものよ。

ソフィアが、アリスに向かって小さくうなずいた。


その時だった。

アリスの真上で、木の枝がガサガサと鳴る音がはっきりと聞こえた。

ソフィアさん……、もしかしたら上にモンスターがいるかも知れませんね……。

ぐったりと腰を降ろしていたはずのアリスは、モンスターらしき音を耳にした瞬間、狂ったように立ち上がった。

そして、銃口を頭上の木に向ける。


すぐに、アリスは木の上を激しく動き回る、人食いサルの姿を見つけた。

お菓子は、私が頂くのです!

お菓子のために……!

アリス、頑張れ……。
覚悟……っ!

アリスは、動き回る人食いサルの動きをその目で読んだ。

そして、人食いサルがアリスを一瞬だけ見た瞬間に、小さな銃口から何発か立て続けに弾丸を解き放った。


今度こそ。

アリスは、銃を構えたまま祈るように弾丸の動きを見た。


木の葉を突き刺し、弾丸が怯えた人食いサルに命中した。

キィ~という激しい音が、木の上からアリスの耳に響いたかと思うと、明らかに巨大なサイズと言える人食いサルが、木の上から落ちてきた。

アリス、やったじゃない!

はい……。


でも、まだ終わっていません。

このサルが……、お菓子を持っているかが全てなんです……!

アリスは、もう動くこともない人食いサルの手足を開けた。さらに、お菓子を掴みそうな脇などをしっかりと見た。頭の上も、念のために見た。



なかった。

ない――――っ!

随分、気の抜けた声じゃない……。


なかったの、お菓子。

はい……。


どこ探しても、お菓子ぽいものはありませんでした。

なんか、もう食べちゃったような匂いしかしないんです……。

アリスがそこまで探してないって言うんだから、本当かもね。


残念……。

お菓子、もらえるはずだったんだけど……。


なんか、戦いに勝ったような気がしないです……。

そう言うと、アリスはへなへなとベンチに腰を降ろし、目線を地面に向けてしまった。


だが、アリスが完全に下を向いた瞬間、先程アリスに撃ち抜かれたはずの人食いサルが、ほんの少しだけ目を開けて、小さくこう呟いた。

お菓子のお城は……、オイラが想像していたものなんかより、ずっとずっと酷かった……。


というより、お菓子のお城は……。崩壊している……。

崩壊している……?

アリスは、人食いサルの言葉に聞き捨てならないような危機感を覚えた。

下を向けていた目線をすぐに戻し、人食いサルを見つめながら次の言葉を待った。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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