4 勝ったらお菓子がもらえるバトル
文字数 2,622文字
どれくらい時間が経っただろうか。
アリスは、ソフィアのやや強い口調の声で目を開けた。
アリスに今にも迫ろうとしていた獣が、アリスの目の前で倒れており、ソフィアがその前に立っていた。
アリスは、二、三回首を左右に傾けて、寝ぼけた頭を起こそうとした。
だが、アリスがそうしたところで、目の前に見える景色は変わらなかった。
ソフィアがアリスをずっと見ている。
そうかな……。
私は、アリスがそういうのを自覚しているから、安心できる。
それに何より、アリスはちゃんとまっすぐ腕を伸ばして、銃を放った。
私の目の前で、アリスが真面目に戦うの、言っちゃ悪いけど初めてかも知れない。
アリスは、頭の中に憧れのアッシュの言葉を思い浮かべた。
言葉を思い浮かべるにつれて、その脳裏にはアッシュのクールな表情まで浮かんでくる。
アリスは、突然何かを思い出したかのように、ソフィアに告げた。
目の前に食べ物があるわけでもないのに、アリスはその表情に喜びを浮かべていた。
冷静に考えれば、その仮説に絶対ということはあり得ない。
だが、お菓子のお城の近くを歩いていれば、絶対にモンスターがお菓子を落とすと、アリスの中では既に決めつけていたのだった。
その横で、ソフィアがやや首を傾けながらアリスを見ていたことなど、アリスには全く気付くことがなかった。
しかし、アリスたちが進んでいる、お菓子のお城まで続く道はどういうわけか冒険者が多く行き交っており、ほとんどモンスターの姿を見ることがなかった。
結果、それから2時間以上の間、アリスがモンスターに狙われることがなかった。
そして、木の下にベンチを見つけたアリスは、ぐったりとした表情で腰を下ろした。
ソフィアが、アリスに向かって小さくうなずいた。
その時だった。
アリスの真上で、木の枝がガサガサと鳴る音がはっきりと聞こえた。
ぐったりと腰を降ろしていたはずのアリスは、モンスターらしき音を耳にした瞬間、狂ったように立ち上がった。
そして、銃口を頭上の木に向ける。
すぐに、アリスは木の上を激しく動き回る、人食いサルの姿を見つけた。
アリスは、動き回る人食いサルの動きをその目で読んだ。
そして、人食いサルがアリスを一瞬だけ見た瞬間に、小さな銃口から何発か立て続けに弾丸を解き放った。
今度こそ。
アリスは、銃を構えたまま祈るように弾丸の動きを見た。
木の葉を突き刺し、弾丸が怯えた人食いサルに命中した。
キィ~という激しい音が、木の上からアリスの耳に響いたかと思うと、明らかに巨大なサイズと言える人食いサルが、木の上から落ちてきた。
アリスは、もう動くこともない人食いサルの手足を開けた。さらに、お菓子を掴みそうな脇などをしっかりと見た。頭の上も、念のために見た。
なかった。
そう言うと、アリスはへなへなとベンチに腰を降ろし、目線を地面に向けてしまった。
だが、アリスが完全に下を向いた瞬間、先程アリスに撃ち抜かれたはずの人食いサルが、ほんの少しだけ目を開けて、小さくこう呟いた。
アリスは、人食いサルの言葉に聞き捨てならないような危機感を覚えた。
下を向けていた目線をすぐに戻し、人食いサルを見つめながら次の言葉を待った。