28 情熱の楽園バイバイ

文字数 2,592文字

まずは、焼きそば5人前でしょー。

次は、たこ焼きも5人前ー。

さっきイルカ食べたばかりだというのに、アリスはどれだけ食べれば気が済むんだ。

そうですねー。

おなかいっぱいって感覚が、私には薄いのかも知れませんね。


その代わり、食べ過ぎに気付かないから、周りから太ってるって言われます。

そういうスキルが欲しいなぁ。

オイラだって食べたいよ。いっぱい。


でも、体がそれを受け付けないのが、生物の宿命なのかも知れないけどさ。

モンキがそう言っている間にも、アリスは早くも焼きそば一人前をたいらげてしまい、すぐに次の焼きそばに手を伸ばした。


食べられない物を巻き上げたくないということで、竜巻に乗せる前に、予め他の屋台から巻き上げたパイ生地を皿代わりにしたのだった。

なので、アリスは丁寧に皿まで食べていく。

アリス見てると、一人前の「人」の部分が何をさしているか分からなくなるよ。


……ってアリス、聞いてるのか!

あー、幸せー。

これで、次がお菓子のお城だったらもっと幸せー。

アリスがそう言いながら3皿目の焼きそばを手に取ったとき、ようやく焼きそば一人前を食べたデビルラフレシアが、その大きな目をアリスに向けた。

さっきはすまなかった。

お前に誤解を与えてしまったようで。

えっ……、そんなこと思ってないですよ。

デビルラフレシアさんのやり方を間違っていたのは、私のほうですから。

いや、アリスがそう思ったのは、間違いなくこっちの説明不足が原因だった。


アリス。

どうして、ラフレシアが食べ物を直接取らないで、わざわざ巻き上げているか、誰かから聞いているか。

いいえ、特に聞いてないです。

むしろ、デビルラフレシアさんがその体をしているのに、竜巻を出すというのが全然分からないくらいなので。

普通、生物が竜巻を起こせるわけがないはずなんだけどな。

アリスやモンキがそう言っている間にも、ラフレシアたちは竜巻に乗って再び海の上に出た。


デビルラフレシアの葉の上に乗っているアリスは、デビルラフレシアの足や葉から不思議な力がかかっていないことに気付き、もう一度デビルラフレシアの表情を見た。

俺たちラフレシアが、こうやって出している竜巻は、怒りに近い感情が原動力だ。

怒り……。


全然、そういうふうには見えません。

ラフレシアは、そもそも他人が楽しんでいるのが、大の嫌いだ。


他人の楽しむ場所から、その楽しみを奪うこと。

そして、我が物にすること。


それこそが、ラフレシアの戦力たる証だからな。

つまり、他人が楽しいことをしているのを見るのが、嫌なわけですね。


私の知っている言葉で言うと、リア充爆発しr

検閲が入りました。

「りあじゅう」って何だよ。


アリスのことだから、うな重とかかつ重とかだと思うけどさ。

まぁ、私は勝手にそう思っています。


で、話を戻すと……、だからデビルラフレシアさんは、楽しいことを破壊するというやり方をしているんですね。

そうだ。


竜巻で巻き上げることによって、余計なトラブルに巻き込まれる心配もなくなるわけだし、あくまでも楽しい部分だけを奪い取ることができる。

じゃあ、お菓子のお城とか、お花のお城とか、その途中にあったお花畑とか……、みんな楽しい部分だけを巻き上げたってことか。

モンキ、よく気付いたな。


ラフレシアの戦力として、絶対に楽しくない部分には手を出さない。

例えば、お菓子のお城で言えば、生産に関わる部分まで奪うつもりはないし、そもそもそんな機能まで巻き上げたら、次に行ったときにはお菓子がなくなるからな。

なるほど……。そうだったんですね。


これで、納得がいきました。

どうしてラフレシアたちが、ちゃんとした方法でおまつり広場の食べ物を巻き上げなかったのかが。

アリスは何度かうなずいて、再び焼きそばに手を伸ばした。

だが、その横で浮かない顔をしているモンキに気が付いて、箸を持つ手を止めた。

オイラは、まだ納得してないからな。

今まで、その原則から外れたことはほとんどない。

他にどういう疑問があるというんだ。

オイラの山は、どうしてあんなことになったんだ。

山を下りてたった数時間で、オイラたちの住処が跡形もなく焼かれたわけなんだから。

そうだ。お猿さんの楽園も、私が行ったときには破壊されていました……。

アリスの脳裏に、崩れ落ちたレンガが無造作に散らばっている、モンキの住む山が思い浮かんだ。

アリスの目に映るモンキの表情が、心なしか暗くなっているように見えた。

もしかして、跡形もなくなっていた、あの山か……。


それは、さすがに俺たちも手をつけなかった。

楽しい営みが完全に消えていたからな。

ラフレシアがやったんじゃ……、ないんだ……。

だって、そもそも竜巻に出会ったのは、私が山に登った後じゃないですか。

それに、竜巻で巻き上げるとしたら、焼かれるってこともないと思うんです。

たしかに……、そうだよな……。



じゃあ、オイラの山を滅ぼしたのは誰だよ。

ラフレシアの他に、楽しいことが嫌いな生物がいるってことか。

おそらく、いるはずだ。

もちろん、そういう集団も俺たちにとっては「楽しんでいる集団」ということになるがな。

そこまであっさり言い切ったデビルラフレシアを、アリスはじっと見るしかなかった。



冷静に考えれば、ラフレシアのしていること自体、「オメガピース」の考える正義に反している。

他人の領域に干渉していいはずがなかった。

それでも、お菓子欲しさに、というよりお菓子のお城から簡単にお菓子を奪うことができたということで、アリスは付いて行くことにしたのだった。


だが、デビルラフレシアが、同じことをしているそれ以外の集団に言及したことで、アリスはようやく我に返りかけたのだった。

あのー……。

アリスは、やや重苦しい表情を浮かべて、デビルラフレシアに声を掛けた。

どうしたんだ、アリス。

何か困っていることでもあったのか。

私、お菓子のお城を襲って、いっぱいお菓子を食べたら、そこで降りたいです。


そもそも、私はお菓子のお城に行きたくて旅をしているから、もうそこがゴールでいいかな、って思ったんです。

そうか……。


食いしん坊のアリスは、ラフレシアのよき戦力になるはずだったんだがな。

残念だ。

デビルラフレシアの、やや細くなった目が、アリスには寂しそうに見えた。


その瞬間だった。

アリスの耳に、下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

まさかと思うけど、ラフレシアと一緒じゃないよね。

お姉ちゃん……?

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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