はじめての七五三
文字数 1,741文字
今日は、世間的には七五三の行事が行われる日。
女子が数え年3歳になると行う「髪置きの儀」。
男子が数え年5歳になると行う「袴儀」。
そして、女子が数え年7歳になると行う「帯解きの儀」。
それらを総称して「七五三」と呼ぶそうだ。
アリスは、ルームメイトで女剣士のトライブに、七五三について尋ねたのだった。
ソードマスターは、七五三ってやったことありますか?
そうね……。
やったと思うけど、子供の頃のことだから、全然記憶に残ってないわ。
私は、小さい頃にお母さんにそう教わったんです。
たしか、本来女の子は2回やるとか聞いたんです……。
でも、うちの場合はお姉ちゃんの1回目で、お姉ちゃんが全然楽しくなさそうだからって、私……やってもらったことがないんです。
つまり、アリスは一度も七五三をやったことがないのね。
そうです。
だから、羨ましくてたまりません。
もしよかったら、アッシュ神社にお参りしませんか?
アッシュ神社……?
まさか、すぐ上の部屋に勝手にお参りに行くわけじゃないでしょうね。
あったり~!
ライフルマスター、神主さんぽいですもの、見た目が。
じゃあ、行きましょう!
アリスは、枯れ木の枝に切った白紙を貼り付けただけの祓串を手に持って、ドアから廊下に飛び出した。
その後から、トライブが何も言わずついて行く。
そして、二人は「オメガピース」兵士棟806号室の前に立った。
アッシュ神社と言うくらいだから、既にセットとか作ったのかと思ったら、ドアに向かってお祓いをやってるだけじゃない。
いいんです。
ライフルマスターには不死身の力が宿っているんですから。
アリスがそう笑った、その時だった。
「神主」がコツコツと音を立てて迫ってくるのが、アリスの耳に聞こえた。
ガチャ、という音を立てて、ドアが開いた。
その向こうからは、アッシュが目を細めてアリスを見つめていた。
俺は、お祓いされる対象か。
……てか、どうしてトライブがいるんだ。
アリスに無理やり連れて行かれただけよ。
七五三やったことないって言うから。
ソードマスターの言う通りです。
だから、一番神主ぽい人の前で、15歳にもなって七五三の儀式を行おうと思ったんです。
なるほどな……。
だが、俺は神主なんかじゃない。
そうやって、人から慕われるのが苦手なもんでな。
う~ん……。
私は慕ってるんだけどなぁ……。
強くてイケメンだし。
アッシュは、軽くそう言うと、入り口に立てかけてあったやや長めの包みを手に取った。
アリスの顔が、一瞬にやける。
まぁ、今日は七五三だ。
アリスがこれを欲しがるだろうと思って、あらかじめここに用意してあったんだ。
アリス、お前にやる。
突然、千歳飴を差し出されて、アリスは目を丸くした。
その時、その嬉しさを吹き飛ばすように、聞き慣れたトライブの声が背後から響く。
アリス、七五三をやりたいんじゃなくて、誰かから千歳飴をもらいたかっただけでしょ。
甘い物大好きだったアリスが、七五三をやらないってことはたぶんなかったと思うから、その前の振りも嘘が見え見えだった。
まぁ、後でジルに聞けば嘘がバレると思うけど。
あっ……、ごめんなさい……。
ちゃんと2回やってます。お姉ちゃんもです。
は、はい……!
ものすごくいります!
ライフルマスターの愛の結晶なんですから……、今この場で食べちゃいます。
包みをビリビリ破き、アリスは長さ30センチはありそうな大きな千歳飴を、上から一気にかぶりついた。
瞬間、アリスの口に炎がたまった。
アリスは、そう叫ぶと、アッシュの前から立ち去り、逃げるようにして廊下を走って行ってしまった。
後には、アリスが食べかけの千歳飴だけが残された。
アリスの撃退成功だな。
ハバネロをいっぱい入れてやったんだ。
アッシュ、鬼ね。
神主と言ってきた人に天罰を与えるなんて。
まぁな。
アリスにとっては、いい天罰になっただろう。
アッシュとトライブは、同時に安堵の表情を浮かべていた。
その頃、アリスは元の706号室に戻って、水をガブガブ飲んでいたのだった。
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