49 和菓子vs洋菓子の悲しき決着
文字数 2,557文字
パティスリーがマンドレイクの呪いから解放されたにもかかわらず、アリスの目の前では新たに「バトル」が繰り広げられてしまった。
見た目が洋菓子のパティスリーと、もともと和菓子だったデビルラフレシア。
それは、性質上避けられない「バトル」だった。
アリスの目が、両者の表情を代わる代わる見つめる。
モンキの目に、アリスがかすかに舌を出しているのが見えた。
デビルラフレシアと呼んでいたはずの元・草餅を見つめながら。
その時、パティスリーの目線がデビルラフレシアから反れて、一瞬アリスに向けられた。
アリスはそれ以上話すことができなかった。
再び、和菓子と洋菓子の目が向き合った。
じゃあ、こっちも言っていいかな。
名前を漢字で書いたら、草を望む男じゃん。
草で包まれた和菓子から草になりたいって、その名前が言ってるわけじゃん。
その、どこが悪いわけ?
謝りたくなくなるよ……。
そこのお菓子バカよりも、最低の生物じゃんか。
安心しろ。
読者の大半はそう思っているはずだ。
人の名前で遊ぶな。
反省の色が見えないなら、俺たちも最後の襲撃をしなければならない。
もう、マンドレイクで呪われた生命がいない中で、俺たちだけが快楽をねたむわけにもいかないし、じきにその文化も廃れていくはずだ。
だからこそ、今しかない。
諸悪の根源を……、憎しみを生んだ城を二つとも消し去る時……。
そう言うと、デビルラフレシアは外の竜巻に向かってじっと目を細めた。
竜巻の上では、ラフレシアたちがその出番を待ち構えている。
既に、堀の上を旋回している竜巻は、合図さえあればお菓子のお城を壊滅させる体制になっていた。
やめてください……!
お菓子のお城がなくなったら、今まで私たちがしてきたことはいったい何だったんですか?
お菓子をおなかいっぱい食べるという楽しみまで、二度と復活しないんですよ!
それでも、デビルラフレシアさんは、この楽園の目指した楽しみを消してしまうんですか?
デビルラフレシアは、軽く飛び跳ねた。
それが、破滅の合図だった。
モンキがそう叫ぶものの、アリスはデビルラフレシアに向けて首を横に振ったきり、何も動けなかった。
この状況で、どうすることもできなかった。
ここまで物語を紡ぎ上げてきた結果が「お菓子のお城の壊滅」という現実を、アリス本人が受け入れることはできない――
しかし、最後はその方向に転んでしまった――
アリスは首を垂れ、お菓子のお城の床を見つめた。
地響きにも似た振動が、アリスの両足に伝わる。
竜巻は下から城を崩しているようだ。
いや、ラフレシアたちが次々と食べているに違いない。
その時だった。
アリスの頭に、一つの言葉が思い浮かんだ。
それは、絶えずアリスと一緒にいる女剣士の、口癖とも言える言葉だった。
次の瞬間、アリスはデビルラフレシアの前に向かうように、大きな一歩を踏み出していた。
その方法が適切かどうか考えることもなく、ただ「食べたい」の一心で足を動かしていた。
叫ぶようなモンキの声も空しく、アリスは突進するようにデビルラフレシアの茎を捕まえ、そのまま茎にかじりついた。
一足遅く、デビルラフレシアの足がもがき始めるが、アリスは次々と茎を食べていく。
兜のついた頭と、これまで何度となくアリスたちを乗せてきた足とが切り離され、デビルラフレシアの頭は城の床へと投げ出された。
そして、その目を静かに閉じた。
兜が力なく転がり落ち、デビルラフレシアの本当の顔が現れた。
それも、目の部分さえ除けば、ピンク色の草餅の形をしていたのだ。
アリスが言い終えたと同時に、城の床にいくつもの亀裂が走った。
アリスもモンキも近くの柱につかまろうとしたが、崩れゆく床に耐えられそうにない。
だが、たまたまアリスたちのいた側の土台が堀のほうに傾き始めた。
パティスリーとモンキが、押し流されるようにアリスになだれ込む。
気が付いたときには、そのままテラスから外に放り出されるところだった。