49 和菓子vs洋菓子の悲しき決着

文字数 2,557文字

パティスリーがマンドレイクの呪いから解放されたにもかかわらず、アリスの目の前では新たに「バトル」が繰り広げられてしまった。


見た目が洋菓子のパティスリーと、もともと和菓子だったデビルラフレシア。

それは、性質上避けられない「バトル」だった。


アリスの目が、両者の表情を代わる代わる見つめる。

たしかに、デビルラフレシア……、いや……、本当の名前なんてもう忘れたんだけど……、嫌ったのは間違いない。


でも、お菓子のお城なんだから、本当は一緒に暮らしたかった。

今まで俺たちをいろいろと嫌ってきたその口が、何を今更言うんだ。


というか、名前まで思い出せないようになったとはな……。

俺の本名は、草 望男。

くさもちおだ。

くさっ……!
アリス、草生えるからそれだけは言うな。

あー、言われてみればそうだった……。

ごめん、思い出せなくて。


で、こっちが謝っているのに、どうして許してくれないの?

許せるか。


お前の身勝手で、和菓子だった俺たちは城を追われた。

そして、新たな安住の地を見つけて植物たちと暮らそうとしたら、本物の草になってしまった。

今、俺たちは、草餅のかけらもない。

あいつ、草餅だったのか……。

兜かぶっているから、とてもそんな感じには見えないけどな。


……って、アリス?

モンキの目に、アリスがかすかに舌を出しているのが見えた。

デビルラフレシアと呼んでいたはずの元・草餅を見つめながら。

なんか、草餅って聞いておいしそうだと思いました。

まさか、食べようとしてるんじゃないだろうな。


あれだけ冒険に深く関わったはずなのに。

食べませんよ?

その時、パティスリーの目線がデビルラフレシアから反れて、一瞬アリスに向けられた。

アリスはそれ以上話すことができなかった。


再び、和菓子と洋菓子の目が向き合った。

じゃあ、こっちも言っていいかな。


名前を漢字で書いたら、草を望む男じゃん。

草で包まれた和菓子から草になりたいって、その名前が言ってるわけじゃん。

その、どこが悪いわけ?


謝りたくなくなるよ……。

そこのお菓子バカよりも、最低の生物じゃんか。

えっ……、私のお菓子バカって設定は、呪いが解けてもそのままなんですか?

安心しろ。

読者の大半はそう思っているはずだ。

人の名前で遊ぶな。


反省の色が見えないなら、俺たちも最後の襲撃をしなければならない。

もう、マンドレイクで呪われた生命がいない中で、俺たちだけが快楽をねたむわけにもいかないし、じきにその文化も廃れていくはずだ。


だからこそ、今しかない。

諸悪の根源を……、憎しみを生んだ城を二つとも消し去る時……。

そう言うと、デビルラフレシアは外の竜巻に向かってじっと目を細めた。

竜巻の上では、ラフレシアたちがその出番を待ち構えている。


既に、堀の上を旋回している竜巻は、合図さえあればお菓子のお城を壊滅させる体制になっていた。

やめてください……!


お菓子のお城がなくなったら、今まで私たちがしてきたことはいったい何だったんですか?

お菓子をおなかいっぱい食べるという楽しみまで、二度と復活しないんですよ!


それでも、デビルラフレシアさんは、この楽園の目指した楽しみを消してしまうんですか?

そもそも、ここが楽園だと誰が決めた。


お花のお城だって、ボスモンキーによって狂わされた。

ここも、パティスリーによって狂わされた。

どっちも、同じ結末を辿らなければいけない。

デビルラフレシアは、軽く飛び跳ねた。


それが、破滅の合図だった。

竜巻がこっちに来る。


……アリス、せめてパティスリーだけは守ってやれよ!

モンキがそう叫ぶものの、アリスはデビルラフレシアに向けて首を横に振ったきり、何も動けなかった。

この状況で、どうすることもできなかった。



ここまで物語を紡ぎ上げてきた結果が「お菓子のお城の壊滅」という現実を、アリス本人が受け入れることはできない――

しかし、最後はその方向に転んでしまった――

あぁ……。


あぁ……。

アリスは首を垂れ、お菓子のお城の床を見つめた。


地響きにも似た振動が、アリスの両足に伝わる。

竜巻は下から城を崩しているようだ。


いや、ラフレシアたちが次々と食べているに違いない。



その時だった。

アリスの頭に、一つの言葉が思い浮かんだ。

それは、絶えずアリスと一緒にいる女剣士の、口癖とも言える言葉だった。

諦めたら、何もかもおしまいなのよ!

私……、このままでいいわけがない……。


最後ぐらい、お菓子を食べたいのに……。

次の瞬間、アリスはデビルラフレシアの前に向かうように、大きな一歩を踏み出していた。

その方法が適切かどうか考えることもなく、ただ「食べたい」の一心で足を動かしていた。

おい、アリス!どこ行くんだよ!


デビルラフレシアと戦おうというのか!

モンキのその声に、アリスはかすかにモンキに振り向き、軽く笑ってみせた。

戦うんじゃありません。

食べるんです。


だって、ほら。草餅じゃないですか。

言ってることとやってることが、全然違う……。

叫ぶようなモンキの声も空しく、アリスは突進するようにデビルラフレシアの茎を捕まえ、そのまま茎にかじりついた。


一足遅く、デビルラフレシアの足がもがき始めるが、アリスは次々と茎を食べていく。

本当に草餅だったんですね!

おいしいです!

ちょっ……、何をする……!


こんな間抜けな方法で、体を壊され……!

兜のついた頭と、これまで何度となくアリスたちを乗せてきた足とが切り離され、デビルラフレシアの頭は城の床へと投げ出された。


そして、その目を静かに閉じた。


兜が力なく転がり落ち、デビルラフレシアの本当の顔が現れた。

それも、目の部分さえ除けば、ピンク色の草餅の形をしていたのだ。

草餅おいしい……。

このままずっと食べていたい気分です……。

しかし、アリスがようやく訪れた快楽を味わおうとしたとき、その背後からパティスリーが小さな声でこう言った。
いま、城の土台が全部崩れちゃった。
えっ……。

アリスが言い終えたと同時に、城の床にいくつもの亀裂が走った。

アリスもモンキも近くの柱につかまろうとしたが、崩れゆく床に耐えられそうにない。

オイラ、お城に埋もれちゃう!

だが、たまたまアリスたちのいた側の土台が堀のほうに傾き始めた。

パティスリーとモンキが、押し流されるようにアリスになだれ込む。


気が付いたときには、そのままテラスから外に放り出されるところだった。

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登場人物紹介

アリス・ガーデンス


15歳

軍事組織「オメガピース」にいるのに、戦いもせずにお菓子ばかり食べる女の子。何かとお騒がせなことをやってしまうドジっ娘。一応、銃使い兼魔術師。アッシュに片思い中!

モン・キホーテ(モンキ)


人食いサル。ひょんなきっかけからアリスの冒険に付いて行くことに。

アッシュ・ミッドフィル


23歳/ライフルマスター

冷静な判断力と圧倒的な銃の腕を持つ、絶対の銃使い。自らの誤射で家族と家を失い、モンスターの潜む森で1年間生き抜いた過去を持つ。暗い性格が仇となり、イケメンなのに恋愛経験がほぼ皆無。

ソフィア・エリクール


25歳

女剣士。今回、何故かアリスの保護者として不思議な世界について行くことに。

トライブ・ランスロット


25歳/ソードマスター

女剣士。またの名を「クィーン・オブ・ソード」。最強。

ケーキの妖精 パティスリー


5歳

お菓子のお城に住む妖精。クリームとブルーベリーとクランベリーでできている。

デビルラフレシア


草なのに兜をかぶっている、奇妙な植物「ラフレシア」のトップ。

竜巻を起こして、ある一定の生命を襲っているらしい。

ボスモンキー


その名の通り、サル山のボス。

言うまでもなく、モンキのボス。

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