終章 - 3 高尾山(8)

文字数 957文字

 3 高尾山(8)



「涼太!」
「涼太くん!」
 続いてそれぞれ涼太の名を呼び、二人の光がその一箇所に集まった。
 さらに後ろから、バタバタと美穂と真弓が現れて、一気に四人の明かりがその一点に注がれる。
 石垣の向こう側、二、三メートル下ったところに涼太らしい姿があった。
 草木で覆われた斜面の上で、不思議なくらいしっかり大の字姿で倒れ込んでいる。
 それからすぐに謙治が涼太の元へと降りていき、そんな姿を残った三人が無言のままで見守った。
謙治はすぐに脈を取り、次の瞬間、彼は大声で秀幸へと告げる。
「弱いですが、脈はちゃんと振れています! すみませんが! 119番してドクターヘリを要請していただけますか!」
 それから急に慌てたように、涼太を引き上げる救助用ロープを持って来るよう伝えて欲しいと、彼は早口で捲し立てた。
それからなんと十数分ほどで、ヘリコプターの近付く音が聞こえてくるのだ。
 涼太はあっという間に引き上げられて、彼と一緒に吉崎夫婦もヘリに乗り込む。
一方永井夫妻は車のキーを預かり、二人だけ山頂に居残ることになっていた。
「きっと、助かるさ……」
「そうよね、わたしもちょうど、そう伝えようと思ってたのよ」
 ついさっき、謙治が見ていた山々に目を向け、二人はそんなことを伝え合う。
「もしかして、あなたにも、見えたの?」
「ああ、最後は、笑ってたな。嬉しそうに、笑っていたよ」
「そう、だから、きっと大丈夫だわ。あの子が、涼太さんが死んでいくのを、喜んだりするはずないものね」
「そうだ。喜ぶはずがない……」
 涼太を乗せたヘリが飛び立った後、二人は早足で元いた場所に戻ったのだ。
すると二人が見つめる先に、優衣が笑って立っていた。
 もちろんそこは、人の立てるような場所じゃない。
 しかし優衣には立てたのだ。
 涼太を探しにきた両親へ、彼女はその姿をしっかり見せた。
 そして二人が何かを言い掛けた時、優衣は口元へ人差し指を持っていき、そのまますうっとその姿を消し去った。
「きっと、助かるさ……」
 秀幸は再びそう声にして、美穂へと明るく告げるのだった。
「今度は昼間、明るいうちにまたここに来よう。きっと、優衣も喜ぶぞ……」

 ✳︎ 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
                       杉内 健二
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