第6章 -  3 沖縄(5)

文字数 730文字

 3 沖縄(5)



「もう、二ヶ月くらいにはなるかしら……」
 ――なに言ってるんだ、このおばさん。  
「今度はずいぶん厳しい状態らしくてねえ……奥さんなんて、もうほとんど病院に行きっぱなしなのよ、大変よねえ……」
 ――病院じゃねえよ! 優衣はな、今、沖縄にいるんだぜ! 
「緑地のそばにあるじゃない? 昔からある大きな国立病院。やっぱりまた、優衣ちゃんそこに入院してるのよ」
 ――緑地のそば……大きな国立病院……。
 まるで、遠くの方から聞こえてくるようだった。
 ――優衣ちゃんが……入院している。
 頭の中で、そんな言葉がぐるぐる回った。
 ついさっき、門から中を覗き込んでいた涼太に向けて、
「あら、優衣ちゃんのお友達?」
 そう声を掛けてきた婦人は、向かいの家に住んでいると言った。
「優衣ちゃん、どんな具合なの? 最近お家の方、いつも誰もいらっしゃらないから、あなた、何かご存知ない?」
 さらにそう告げてから、涼太の顔をまじまじと見つめる。
 そんな問い掛けに、彼もしっかり返事をしたのだ。
 沖縄で静養している。
 そんな感じを声にして、目の前にいる中年女性へ笑顔まで向けた。
 しかし次に返された言葉によって、声にならない思念が脳裏のあっちこっちを駆け巡るのだ。
「え? 知らないの?」
「沖縄? ぜんぜん違うわよ」
「優衣ちゃんはね」
「ずっと」
「入院してるんだから」
「もう、二ヶ月くらいに」
「はね、なるかしら……」
 それらの言葉がばらばらになって、頭のてっぺんから足先までを走り回っているようだった。
 
 ここ二ヶ月、優衣が入院している。
 そしてそれは、昔っからある国立の病院……。

 と、なれば、それは涼太も知っているあの病院か?
 ――絶対嘘だ! 
 ――そんなの嘘に決まってる! 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み