第6章 -  2 涙の行方

文字数 1,196文字

 2 涙の行方
 


 それから二ヶ月後、涼太は全国模試の結果を持って優衣の病室を訪ねていた。
 彼は病室に入った瞬間から、もう帰り際のことを意識する。
 初めて唇を重ねた翌日、涼太が帰ろうとすると、いきなり優衣が目を閉じ動かなくなった。
 顔を突き出し、顎を上向き加減にする彼女は明らかに涼太を誘っていたのだ。
 ――マジかよ!? 
 そんな優衣に初めのうちは、とことんドギマギしていたのだった。
 しかしそんな時間を重ねるうちに、病室に入った時からその瞬間を待ちわびるようになる。
 その日もささやかな秘め事をしっかり終わらせ、週末まで逢えない寂しさを顔にちょっぴり滲ませ、言った。
「また今度の日曜も絶対にくるよ。でもなあ、もしかしたら、ほかの日にもきちゃうかもしれないよ」
 そんなことを最後に告げて、涼太は名残惜しそうに帰っていった。
 ただ実際は、三ヶ月で学校帰りに顔を見せたのは、優衣の誕生日ともう一日だけ。
 だからと言って頑張っている彼に、もっときて欲しいとも言えないのだった。
 そうしてそんな別れから少し経って、いつものように秀幸が顔を見せた。
「彼は、今日もきてたのか?」
 病室に入るなり笑顔を見せて、彼は開口一番にそんなことを聞いた。
 秀幸も以前は、休日の午前中に見舞っていたのだ。
 ところが優衣の方から午後にして欲しいと頼まれる。
 初めはどうしてだろうと思っていたが、すぐに涼太が原因らしいと気が付いた。
「しかしなんだな、前回の模試に比べると、こりゃまたずいぶん偏差値が上がってきてるじゃないか、これはホント、素晴らしいもんだ。お母さんが見たら、きっと目を丸くして驚くぞ!」
 涼太が置いていった成績表を手にして、秀幸が嬉しそうな顔でそう言った。
 すでに学校の成績だけなら、とても不良などと呼べないくらいにはなっている。
 しかし受験する高校名を優衣から聞いて、身の程知らずと美穂は大笑いを見せたのだった。
「そう、確かに成績は上がってるんだけど、でもまだ平均偏差値六十とちょっとでしょ? 彼の目標は七十越えだから、本当は、まだまだなんだ」
 彼、と来ましたか……。
 軽いショックを受けながら、秀幸はさらに聞いたのだった。
「偏差値七十って、そりゃいきなり凄すぎだなあ……いったい、彼はどこの高校を受け直すつもりなんだ?」
 そうして返ってきた答えは、秀幸でも知っているような一流高校の名前なのだ。
「どうしてまたいきなり、そんな高校受けようなんて思ったんだろうなあ? 優衣は知ってるのか? その理由を……」
「もちろん、知ってるよ」
 はち切れんばかりの笑顔を見せて、優衣は速攻言い返す。
「そうか、知ってるのか、じゃあ、お父さんにも、その理由とやらを教えてくれるか?」
「え〜、内緒だって、涼ちゃんに言われてるんだけど〜」
 そう言って口をすぼめる優衣だったが、それから一分も経たないうちにすべてを話してしまうのだ。
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