第2章  -  1 出会い(8)

文字数 928文字

 1 出会い(8)



 そうなって、さっき以上にドキドキしながら、やっぱり優衣はカーテンの隙間から外を覗いた。すると少年は相も変わらずリフティングに夢中で、その動きはなんとも言えずスムーズに見える。そこへ夏川麻衣子が現れて、きっと何かを言ったのだ。
 彼は急に動きを止めて、手にしたボールを胸に抱える。
 それから次の瞬間だ。いきなり上を指差し、夏川が再び何かを言った。
 ――え? 何?
 指差した時の彼女の顔が、絶対優衣の病室を向いたのだ。
 そして何かを言われた少年は、なぜかストンとしゃがみ込む。それから顔をあっちこっちに向けた後、急に顔を上に向け、いきなり優衣の方に視線を向けた。
 ――やだ! いったい彼に何を言ったの?
 ただでさえドキドキしていた心臓が、一気にバクバクとのたうち回った。
 そうこうしている内に、夏川と少年は肩を並べて病院の中に入って消える。
 まさか、ここにやって来る? と、思いつつも、三階の女の子が拾ってくれたと、単に教えただけかもしれない。そして彼は自分の病室に戻っただけと、一分間くらいはそう思っていられた。ところがだった。
「お待たせ〜」という声に振り向くと、すでに扉が半分開かれて、そこにはとうぜん夏川麻衣子が立っている。
 ――嘘……でしょ?
 すぐそう思えたのは、その後ろにブルーのGジャン姿が見えたから。
 白っぽいカットソーにベージュのパンツ、その上に、ここ数日羽織っていたのが薄いブルーのGジャンだった。
 そんな認知のすぐ後に、嘘だ! と心で三回叫び、
 ――どう、しよう?
 と思った途端に勝手に身体が動いていた。
 二歩で一気にベッドに飛び込み、慌てて頭まで布団を引っ張り上げた。
「ごめん、ごめん、彼がさ、あなたにちゃんとお礼が言いたいって言うからね、ここまで連れてきちゃったわ。ほら、彼はね、吉崎くんて言うんだって、吉崎、亮太くん……」
 布団を被ったままの優衣に向け、続けてこんなことまで言ってきた。
「彼女がね、永井優衣ちゃん、よろしくね……」
 こうまで言われて、顔を出さないでいられるくらいなら、きっとこんなことにはなっていない。だから優衣は仕方なく、顔をちょっとだけ出したのだ。
口元だけはしっかり隠し、恐々扉の方へ目を向けた。
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