終章 - 3 高尾山(6)

文字数 552文字

 3 高尾山(6)



 夕陽もほぼほぼ沈みかけ、人もずいぶんまばらになった。
 もうしばらくすれば辺りはすっかり暗くなり、人もまったくいなくなる。
 茶屋も閉まってしまえば静けさだけが立ち込めて、時折人が上がって来たりもするが、夜景を眺めてさっさといなくなってしまうのだ。
 ただ、どちらにしても暗闇の中、人が何をしているかなんてわからない。
 彼はすでに用意していた薬を飲んで、ベンチ正面にある石垣の上に横になった。
 こんな薬品を持ち出したと知れたら、実際大騒ぎになるだろう。
 しかし持ち出した分は皆使ってしまったし、明日の朝になれば、もうそんなことは一切関係なくなる。
 きっと完全なる闇夜となる前に、意識は消え去っているはずだ。
 そうなって石垣から山側へ転がり落ちても、誰も気づかないまま放り置かれる。
 さっきまで寒くて震えていたが、今はもうなんともなくなり、ふわふわと浮かんでいるように思えて気持ちがいい。
 そうなってふと、優衣の日記が思い出された。

 ――きっとわたしは もうすぐ死ぬ。 
 ――もうあえない そんなのいやだ。 
「もうすぐ会えるよ」
「長い間、待たせたな」
 ――りょうちゃん、あいたい。
「もうすぐ会える、そう、もうすぐだ」
 ――あいたい。
 ――あいたい。
 ――あいたい。
「俺も、会いたかったさ……」
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