第7章 -  2 真実(2)

文字数 787文字

 2 真実(2)



「なんでもないんでしょ? 大丈夫ですよね?」
 声に驚き、そこでやっと涼太の存在を担当医は知る。
「ぜんぜん平気なんでしょ? 先生! 優衣は大丈夫でしょ? ねえ先生!」
 そんな声に、医師は涼太の顔から視線を外し、きっとどう伝えようかと考えたのだ。
 眉間に深いシワが寄り、そのまま床へと視線を向ける。
 ところがだった。
 医師が言葉を発する前に、きっと何倍もの強烈さで、あまりにストレートな言葉が返った。
「バカ! バカ! バカ! 一回死んで出直してきなさい!」
 それでも涼太は振り返らなかった。
「この状況を見て、なにバカなこと言ってるのよ!! 平気なんでしょ!? 大丈夫でしょ!? バカがなに言ってるの! ぜんぶあんたのせいじゃない! あんたがあの子の前に現れたからでしょ! これはぜんぶ! あなたのせいなのよ!!」
 振り返らずとも、それは己への声だったし、
「あなたのせいで、優衣はもうすぐ死んじゃうわよ! わかる! 死んじゃうのよ! もう会えないの! 二度と会えないのよ! どうしてくれるの! いったい、どうしてくれるのよ!!」 
 無論、声の主だって知っていた。
 そうして次の瞬間には、「わっ」という声がする。
 続いて叫び声が響き渡って、彼はやっと振り返るのだ。
 すると秀幸が美穂の傍に立ち、泣き出した彼女を抱きしめている。
 しかし涼太にとってはどうってことなかった。
 
 ――あんなになっちゃった?
 ――あんなにって、どういうことだよ。
 
 ――もうすぐ、死んじゃうのか?
 ――馬鹿な、嘘に決まってる。
 
 ――優衣はまだ、死なないさ。
 ――そう、死ぬわけがない。
 
 ただただそんな言葉を、頭の中で唱え続けた。
 そうしてどのくらいが経ったのか?
 長い時間ではなかったろうが、ほんの数秒ってわけでもない。
 気付けばベッドのそばにいて、すぐ目の前に優衣の寝顔があったのだ。
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