第4章 - 2 行方不明(3)
文字数 1,225文字
2 行方不明(3)
「手術できなければ、死んでしまうんでしょ? あの子は手術しないと、もう生きられないんですよね? そう仰ってましたよね? そうでしょ! 先生! なんとか言ってください!」
そんな声を聞いてすぐ、涼太はその場にいられなくなった。
気付けば扉から離れ、涼太はさっさと非常階段の方へ歩き始める。
そしてそんな姿を、優衣がたまたま目にしていたのだ。
普段なら、一人で四階などにやっては来ない。
――ちょっと、喉が渇いたな……。
そう思ったが、たまたま冷蔵庫の中に飲みたいものが入ってなかった。
ならばナースコールして買ってきて貰うか?
ナースステーションまでゆっくり歩き、そこから車椅子って方法もある。
しかし彼女はどちらも選択しなかった。
涼太と一緒に過ごした直後のせいか、気分がよくて、そこそこ高揚していたのだろう。
――たまには自分で買いに行こう!
もしかしたら、お母さんたちに会えるかもしれないし……と思ってしまった。
そうして彼女が、応接室の前を通り過ぎようとした時だ。
優衣の耳にも届いてしまった。
「心臓移植って、冗談じゃないですよ!」
その瞬間に、母親の声だとすぐにわかった。
となれば、その隣には父親がいて、とうぜん自分のことを話している。
――心臓移植……え?
心でそう思った途端だった。
更なる声が響き渡って、優衣の身体もその瞬間に凍り付く。
「冗談はやめてください! 心臓移植って、いったいどういうことですか!? それも、日本でまだ六件だけって、それじゃあ、人体実験みたいなものじゃないですか!」
「お母さん、落ち着いてください。日本ではそうですけど……」
「これが落ち着いてなんかいられますか!? 心臓移植なんて、どうしてそういうことになるんです!? これまでずっと、心臓の手術をするために頑張ってきたのに……あの子は、高校にもいかないで、ずっとここで、頑張ってきたんですよ、それを……それを今さらどうして……心臓移植なんて、冗談じゃないです、よ……」
その間、時折、抗うような声が聞こえた気もしたが、美穂の声に邪魔され何を言ったかわからない。
とにかくその後、美穂のむせび泣きだけが響いて、優衣はそんな母親の声を扉の前で聞いていた。そうして十数秒くらいが経った頃か、静かな声がやっと聞こえ、再び美穂の怒号が響き渡った。
「あの、心臓移植って、言うのはですね……」
「ちょっと黙ってて!」
それでもひと言ふた言、何かを言い返そうとしたのだろう。
次に響いたその声は、優衣が聞いたこともないような母の叫びだ。
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
続いてやっと、父、秀幸のなだめる声が聞こえてくるが、と同時に扉の取っ手を押していた。
「もういい、もういいから、もう、やめて」
――お願いだから……。
扉を開けるなりそう言うと、パッと全員の視線が優衣の顔へと注がれる。
「あなた、どうして……?」
掠れるような母の声に、優衣は必死に笑顔を作った。
「手術できなければ、死んでしまうんでしょ? あの子は手術しないと、もう生きられないんですよね? そう仰ってましたよね? そうでしょ! 先生! なんとか言ってください!」
そんな声を聞いてすぐ、涼太はその場にいられなくなった。
気付けば扉から離れ、涼太はさっさと非常階段の方へ歩き始める。
そしてそんな姿を、優衣がたまたま目にしていたのだ。
普段なら、一人で四階などにやっては来ない。
――ちょっと、喉が渇いたな……。
そう思ったが、たまたま冷蔵庫の中に飲みたいものが入ってなかった。
ならばナースコールして買ってきて貰うか?
ナースステーションまでゆっくり歩き、そこから車椅子って方法もある。
しかし彼女はどちらも選択しなかった。
涼太と一緒に過ごした直後のせいか、気分がよくて、そこそこ高揚していたのだろう。
――たまには自分で買いに行こう!
もしかしたら、お母さんたちに会えるかもしれないし……と思ってしまった。
そうして彼女が、応接室の前を通り過ぎようとした時だ。
優衣の耳にも届いてしまった。
「心臓移植って、冗談じゃないですよ!」
その瞬間に、母親の声だとすぐにわかった。
となれば、その隣には父親がいて、とうぜん自分のことを話している。
――心臓移植……え?
心でそう思った途端だった。
更なる声が響き渡って、優衣の身体もその瞬間に凍り付く。
「冗談はやめてください! 心臓移植って、いったいどういうことですか!? それも、日本でまだ六件だけって、それじゃあ、人体実験みたいなものじゃないですか!」
「お母さん、落ち着いてください。日本ではそうですけど……」
「これが落ち着いてなんかいられますか!? 心臓移植なんて、どうしてそういうことになるんです!? これまでずっと、心臓の手術をするために頑張ってきたのに……あの子は、高校にもいかないで、ずっとここで、頑張ってきたんですよ、それを……それを今さらどうして……心臓移植なんて、冗談じゃないです、よ……」
その間、時折、抗うような声が聞こえた気もしたが、美穂の声に邪魔され何を言ったかわからない。
とにかくその後、美穂のむせび泣きだけが響いて、優衣はそんな母親の声を扉の前で聞いていた。そうして十数秒くらいが経った頃か、静かな声がやっと聞こえ、再び美穂の怒号が響き渡った。
「あの、心臓移植って、言うのはですね……」
「ちょっと黙ってて!」
それでもひと言ふた言、何かを言い返そうとしたのだろう。
次に響いたその声は、優衣が聞いたこともないような母の叫びだ。
「黙れ! 黙れ! 黙れ!」
続いてやっと、父、秀幸のなだめる声が聞こえてくるが、と同時に扉の取っ手を押していた。
「もういい、もういいから、もう、やめて」
――お願いだから……。
扉を開けるなりそう言うと、パッと全員の視線が優衣の顔へと注がれる。
「あなた、どうして……?」
掠れるような母の声に、優衣は必死に笑顔を作った。