第2章 - 2 過去
文字数 1,172文字
3 過去
それはちょうど、夏川麻衣子が電話で、涼太の母、真弓と話している時だった。
例の約束四日目、病院から戻った息子がいきなり言ってきたんだと……。
「冗談じゃねえよ、もうやってられるかあんなこと!!」
だから夏川麻衣子の名前を教えてしまった……。
「いいさ、全寮制でもなんでも行ってやるよ! その夏川って人にも、俺からちゃんと言って断ってやるさ! だからもう、こんなことお終いだ!」
いったい何があったのか? 何をそんなに怒っているのか?
何を聞いても答えずに、ただただもうお終いだと言うばかり。
「もちろん、本当の理由は言ってないのね。でも、なんの為だってしつこく聞かれて、夏川さんと話していてそうしようと思ったって、言っちゃったのよ、わたし……」
だからきっと、近いうちにそっちに行くと思うから……と、真弓がそう告げた時、夏川が遮るように慌てて言った。
「あらあらそういうことね、了解しました。ちょうど息子さんのお出ましだから、これで一回切らせてもらうわ、また、こっちから連絡する……はい、はい、大丈夫、任せてちょうだい、大丈夫よ、じゃあ、切るわよ、はい、はい、それじゃあねえ〜」
乱暴な子だから、失礼なことをきっと言うからと、心配する声が続いてなかなか切らせてもらえない。それでもなんとか電話を終わらせ、麻衣子は椅子から立ち上がった。
ちょうどその時、若い看護師から声が掛かって……、
「夏川さん、あの、ご面会の方が……」
「はいはい、わかった、ありがとう」
きっと何かを感じたのだろう。妙に固い顔がこちらを見つめ、彼女の背にある窓ガラスの向こうでは、真弓の息子が真剣な顔を覗かせている。
――さて、どうしようかな?
まさかナースステーションで話すわけにはいかないし、真実を話すとすれば、病院関係者がいないところで話したい。だから入り口を出てすぐに、〝黙って〟と言わんばかりに人差し指を口元に当てる。それから〝わかった〟という表情を確認し、
「付いてきてちょうだい」
とだけポツリと告げた。そのままゆっくり歩き出し、彼の足音を耳でしっかり意識しながら喫茶室へ向かうのだ。喫茶室ならさすがに大声など出さないだろうし、午前中は見舞客もいないから客はきっと少ない筈だ。
そうして案の定、そこには従業員一人しかおらず、二人は窓際の席に向かい合って座った。コーヒーでいいかと聞いて、彼は黙ったままコクンと肯く。
「コーヒーね、二つお願い」
当然顔は知られてるから、そんな言葉だけで会計は〝なし〟だ。
「あのね、まずわたしの方から話していいかしら?」
そう告げてから、再び頷いた彼を見つめて、
「別にね、やめたっていいのよ。でも、もし続けてもらえるのなら、あの子、絶対、喜ぶんだけどなあ……だから少しだけ、おばさんの話聞いてくれる?」
そんなことを続けて言った。
それはちょうど、夏川麻衣子が電話で、涼太の母、真弓と話している時だった。
例の約束四日目、病院から戻った息子がいきなり言ってきたんだと……。
「冗談じゃねえよ、もうやってられるかあんなこと!!」
だから夏川麻衣子の名前を教えてしまった……。
「いいさ、全寮制でもなんでも行ってやるよ! その夏川って人にも、俺からちゃんと言って断ってやるさ! だからもう、こんなことお終いだ!」
いったい何があったのか? 何をそんなに怒っているのか?
何を聞いても答えずに、ただただもうお終いだと言うばかり。
「もちろん、本当の理由は言ってないのね。でも、なんの為だってしつこく聞かれて、夏川さんと話していてそうしようと思ったって、言っちゃったのよ、わたし……」
だからきっと、近いうちにそっちに行くと思うから……と、真弓がそう告げた時、夏川が遮るように慌てて言った。
「あらあらそういうことね、了解しました。ちょうど息子さんのお出ましだから、これで一回切らせてもらうわ、また、こっちから連絡する……はい、はい、大丈夫、任せてちょうだい、大丈夫よ、じゃあ、切るわよ、はい、はい、それじゃあねえ〜」
乱暴な子だから、失礼なことをきっと言うからと、心配する声が続いてなかなか切らせてもらえない。それでもなんとか電話を終わらせ、麻衣子は椅子から立ち上がった。
ちょうどその時、若い看護師から声が掛かって……、
「夏川さん、あの、ご面会の方が……」
「はいはい、わかった、ありがとう」
きっと何かを感じたのだろう。妙に固い顔がこちらを見つめ、彼女の背にある窓ガラスの向こうでは、真弓の息子が真剣な顔を覗かせている。
――さて、どうしようかな?
まさかナースステーションで話すわけにはいかないし、真実を話すとすれば、病院関係者がいないところで話したい。だから入り口を出てすぐに、〝黙って〟と言わんばかりに人差し指を口元に当てる。それから〝わかった〟という表情を確認し、
「付いてきてちょうだい」
とだけポツリと告げた。そのままゆっくり歩き出し、彼の足音を耳でしっかり意識しながら喫茶室へ向かうのだ。喫茶室ならさすがに大声など出さないだろうし、午前中は見舞客もいないから客はきっと少ない筈だ。
そうして案の定、そこには従業員一人しかおらず、二人は窓際の席に向かい合って座った。コーヒーでいいかと聞いて、彼は黙ったままコクンと肯く。
「コーヒーね、二つお願い」
当然顔は知られてるから、そんな言葉だけで会計は〝なし〟だ。
「あのね、まずわたしの方から話していいかしら?」
そう告げてから、再び頷いた彼を見つめて、
「別にね、やめたっていいのよ。でも、もし続けてもらえるのなら、あの子、絶対、喜ぶんだけどなあ……だから少しだけ、おばさんの話聞いてくれる?」
そんなことを続けて言った。