第2章  -  3 過去(2)

文字数 898文字

 3 過去(2)
 


 心臓が悪く、ずっと入院している女の子がいる。その子は合格した高校へも行けず、ただただ手術ができる日をずっとここで待ち続けている。
「わかる? そんな女の子の気持ち……?」
ここまでは、だからなんだという顔付きで、実際涼太は早く済ませて帰りたいとばかり思っていたのだ。ところが次のひと言で、そんな気持ちが一気に揺れた。
「きっとね、あなたのお兄さんも、一緒だったと思うのよ。でも、彼にはあなたという弟がいた。だから、ちょっと違うけど……」
 この時、彼は下を向き、意味がわかんねえ……と小さく呟いた。
 そして同時に、四年前の記憶もほんの少しだけ蘇ったのだ。
 兄、雄一は中学二年のとき、脳腫瘍であっという間に他界していた。
 教室でとつぜん倒れ、そのまま入院。それからたった二週間ほどで、呆気なく帰らぬ人となっていた。
 両親は嘆き悲しみ、まだ小学生だった涼太には詳しい話は知らされなかったが、重い病気だろうと薄々は察していたのだ。
 それでもまさか、死に至るような病気だなんてまったく思っていなかった。
 だから素直に、兄に会いたい、話がしたいという気持ちだけで、彼は毎日のように雄一の病室に顔を出した。
 雄一は勉強もスポーツもよくできて、特にサッカーが得意中の得意。二年生なのにサッカー部のキャプテンだし、学校でもかなりの人気者だった。
 そんな雄一への憧れもあって、涼太はある時、病室へサッカーボールを持ち込んだ。
 当然狭い病室ではうまくいかない。だから病室からも見える表に行って、雄一にボールを蹴っているところを一生懸命見せたのだった。
 もちろん、兄のようにはまるでいかない。
 ドリブルをすれば、すぐにボールはどこかへ行ってしまうし、病室で教わったリフティングなどは、空中に浮かんだボールを一回だって蹴り上げることができない。
 そんな涼太を、雄一はいつも嬉しそうに見つめていた。
 ――わかる? そんな女の子の気持ち……?
 そうしてある日、彼は病室に現れるなり、雄一に向けて声にする。
「ボク、きっとサッカーの才能ないんだよ、お兄ちゃんとは違うんだね」 
 そんな彼へ、兄は笑いながら告げたのだ。
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