第4章 -  3 捜索

文字数 707文字

 3 捜索



「それでそのまま、座り込んでしまってね、わたしらが駆け寄った時には、気を失ってしまっていたよ」
 そこで当然、移植の話は中断となった。
 それから気を付けながら優衣を抱き上げて、秀幸が病室まで彼女を運んだ。
 ベッドに寝かせ、そのまま寝ている姿を眺めていると、美穂も間もなく現れる。
 きちんと化粧も直されて、さっきの興奮はすっかりどこかへ消え失せたようだ。
 そうしてしばらく口を開かず、二人は優衣の寝顔を見守っていた。
 この時、きっと二人とも思っていたに違いない。
 ――どうしてこんなことになったのか……?
 移植手術についてはもちろんだろうが、
 ――なぜ四階に、あの時、優衣が現れたのか?
 そんな理由を、きっと探していた筈なのだ。
 しかしそれについては一切触れず、彼は後悔を滲ませ涼太へ告げた。
「この先、どうしようかってね、相談しなければいけなかったし、目を覚ました娘に、どう言って説明したからいいか、決めておきたかった。だからちょっとの間、優衣を一人にしてしまったんだ。まさかいなくなるんて、思いもしなかったから……」
 以前のような手術は難しい。
 と言ってこのまま放置すれば、優衣の心臓はいずれ機能しなくなるのだ。
 だから心臓移植に……などと、今日の今日で決めてしまえる筈ないし、優衣の気持ちを思ってしまえば、告げる言葉もそう簡単には見つからない。
「きっと、怖かったんだろうと思う。あいつの身になって考えてみれば、そんなこと、当たり前のことなのに……わたしらはつい……」
 自分たちのことばかり、考えていた。
 きっとそう言いたいのだろうと、そう思ったが、少なくとも涼太のように逃げ出そうだなんて考えてはいない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み