洞窟の奥の祭壇
文字数 1,308文字
洞窟内は、いくつも道が枝分かれしていた。
たとえ地図があっても迷うだろう道を、レイは迷いもせずに進んでいく。
クレスは全面的にレイを信じ、その洞窟内を進んでいった。
「なあ、ここは迷ったら出られなくなる洞窟じゃないか?」
恐る恐るきいてみた。
「ああ、そうだね。万が一でも奥の貴石のある祭壇に人が入れないようになっている」
「……」
そこに入る人間は、恐らくクレスが初めてではないだろうか。
「そういえば、レイ。どうして俺をこの旅に誘ったんだ? 貴石の強化って今までどの季主も一人でやってきたんだろ?」
「理由は二つある」
「うん?」
「一つはクレスが次期大神官だから。大神官は四方の貴石のことを知っている。今知らせても、後で知ってもあまり変わりないと思った。もう一つの理由は、たんに私がクレスと夏島を旅行したかったから」
「きっと、ここに入ったことのある人間は、俺くらいなんだろうな」
洞窟を進みながらクレスは言った。
「そうだね。人間で入ったのは、クレスが初めてだ」
話しながら奥に進んでいくと、爽やかな風が奥から吹いてきた。
「もうすぐ着く」
「うん」
静かにレイのあとをついて行くと、広場のような空間に出た。
高い丸天井になっている円形の部屋のような場所だ。
その部屋の中央に、質素な台座に乗った、青いこぶし大のサファイアがあった。
その貴石はずっとここに安置してあるのに、くすんでも汚れてもいなかった。
宝石らしく綺麗で、つるんとした表面が灯火に反射して青く輝く。
レイは灯火をクレスに渡した。
「ここが祭壇だ」
「ずいぶんと質素なんだな。台座に模様だって入ってない」
「ああ、まあ、今はそうだね」
「今は?」
いぶかし気にレイに聞く。
「見ていれば分かる。今から力を籠めるから私から少し離れた方がいい」
「……うん」
そういえばレイが貴石に力を籠めるのをみるのは、夏島で見て以来だ。
レイは片手を貴石にかざすと、目をつむって神経を集中させているようだった。
以前と同じように青い光がレイの足元に広がった。それが、壁につくと幾何学的な模様を描きながら、かけのぼって行く。
天井の丸い部分にも模様が浮き上がり、中心に集まった青い光が、部屋の中央にある貴石(サファイア)めがけて降りてくる。強弱のついた光は部屋中に満ち、壁と天井に現れた模様を青く彩った。
次第に光は貴石に吸い込まれると、あっという間にまた光源はクレスの手元の灯火だけになった。
(レイって……季主の力って本当に神秘的な力だな……)
クレスは改めてレイの力の大きさを知った。
「終わったよ」
「すごい……綺麗だった。神秘的だった……」
「そう? これをあと三か所、貴石のある祭壇でやらないといけないんだけど。今年はここの貴石が終わったから、また来年にでも別の場所の貴石の強化に付き合ってよ」
レイは何事もなかったように来年の予定を語る。
「あ、ああ、いいよ」
たった今、季主としての大きい力を見せつけられたが、レイはいつも通りの彼で、クレスの肩の力は抜けた。
レイは確かに人間じゃないけれど。
怒ったり泣いたりする彼のこころは、きっととても人間に近いのではないかと、クレスは思った。
たとえ地図があっても迷うだろう道を、レイは迷いもせずに進んでいく。
クレスは全面的にレイを信じ、その洞窟内を進んでいった。
「なあ、ここは迷ったら出られなくなる洞窟じゃないか?」
恐る恐るきいてみた。
「ああ、そうだね。万が一でも奥の貴石のある祭壇に人が入れないようになっている」
「……」
そこに入る人間は、恐らくクレスが初めてではないだろうか。
「そういえば、レイ。どうして俺をこの旅に誘ったんだ? 貴石の強化って今までどの季主も一人でやってきたんだろ?」
「理由は二つある」
「うん?」
「一つはクレスが次期大神官だから。大神官は四方の貴石のことを知っている。今知らせても、後で知ってもあまり変わりないと思った。もう一つの理由は、たんに私がクレスと夏島を旅行したかったから」
「きっと、ここに入ったことのある人間は、俺くらいなんだろうな」
洞窟を進みながらクレスは言った。
「そうだね。人間で入ったのは、クレスが初めてだ」
話しながら奥に進んでいくと、爽やかな風が奥から吹いてきた。
「もうすぐ着く」
「うん」
静かにレイのあとをついて行くと、広場のような空間に出た。
高い丸天井になっている円形の部屋のような場所だ。
その部屋の中央に、質素な台座に乗った、青いこぶし大のサファイアがあった。
その貴石はずっとここに安置してあるのに、くすんでも汚れてもいなかった。
宝石らしく綺麗で、つるんとした表面が灯火に反射して青く輝く。
レイは灯火をクレスに渡した。
「ここが祭壇だ」
「ずいぶんと質素なんだな。台座に模様だって入ってない」
「ああ、まあ、今はそうだね」
「今は?」
いぶかし気にレイに聞く。
「見ていれば分かる。今から力を籠めるから私から少し離れた方がいい」
「……うん」
そういえばレイが貴石に力を籠めるのをみるのは、夏島で見て以来だ。
レイは片手を貴石にかざすと、目をつむって神経を集中させているようだった。
以前と同じように青い光がレイの足元に広がった。それが、壁につくと幾何学的な模様を描きながら、かけのぼって行く。
天井の丸い部分にも模様が浮き上がり、中心に集まった青い光が、部屋の中央にある貴石(サファイア)めがけて降りてくる。強弱のついた光は部屋中に満ち、壁と天井に現れた模様を青く彩った。
次第に光は貴石に吸い込まれると、あっという間にまた光源はクレスの手元の灯火だけになった。
(レイって……季主の力って本当に神秘的な力だな……)
クレスは改めてレイの力の大きさを知った。
「終わったよ」
「すごい……綺麗だった。神秘的だった……」
「そう? これをあと三か所、貴石のある祭壇でやらないといけないんだけど。今年はここの貴石が終わったから、また来年にでも別の場所の貴石の強化に付き合ってよ」
レイは何事もなかったように来年の予定を語る。
「あ、ああ、いいよ」
たった今、季主としての大きい力を見せつけられたが、レイはいつも通りの彼で、クレスの肩の力は抜けた。
レイは確かに人間じゃないけれど。
怒ったり泣いたりする彼のこころは、きっととても人間に近いのではないかと、クレスは思った。