第31話 春主ルファの話
文字数 1,909文字
神殿に帰ったクレスは、荷物の中から薄い服を出し、半そでに着替えた。そして、夕刻のひと時、春神殿の一室で花茶を飲んで休んでいた。
明日はルファが手紙の返事書いてくれるだろうか。
そうしたら、それをもって主島へ帰り、クレスの旅は終わりになる。
そんなことを考えていたら、扉がノックされた。
扉を開けると、さっき首都マリルベルで会った女性が立っていた。
「あ」
「あら」
女性は赤を基調とした神官服を着ていた。
「ああ、貴女は春神殿の神官だったんですか」
「ええ。さっきは買い出しに行ってたんです。私はクレスさんのお世話を言いつかったネモフィラといいます。先ほどは失礼しました」
「ネモフィラさん、ね」
ネモフィラはクレスの夕食をトレイごと机に置いて、今後のことを説明してくれた。
「明日は朝一番でルファさまに謁見してください。お話があるそうですよ」
「お話? なんだろう」
「さあ。明日詳しくお聞きください。また朝に迎えに来ますね」
そう言ってネモフィラは退出していった。
次の日、朝食を食べた後、クレスは聖殿に呼ばれた。
そこでルファと謁見した。
ルファは今日も赤い礼服に身を包み、強い光を湛えた目でクレスを見る。
「クレス。今日はダリウス朱神官のことを話したいと思って呼んだのよ」
「ダリウス朱神官? ですか」
「ええ。彼は今年で就任十周年になるの。そのお祝いの宴が開かれることになっているのよ。クレス、それに貴方も出席してほしいの」
「お祝い事ですか。俺で良ければ喜んで出席します」
「ありがとう。私やレイは出席できないけれど、次期大神官のあなたが出席してくれれば、ダリウスも喜ぶと思うの」
ルファはにこりとクレスに笑顔をむけた。
ルファやレイは出席しないのか、と思って、それも当然かとクレスは思った。
彼らは季主であるため、人間の個人的な宴には出ないのだろう。
「着るものはこちらで用意するわ。よろしくね」
「はい、助かります」
「それと、今日は世話がかりのネモフィラにマリルベルを少し案内させるわ。春島の首都を見るのも勉強のうちよ」
「はい。お気遣いありがとうございます、ルファさま」
ルファはまたにこりと笑顔を見せた。
「と、いうことなんだ、レイ」
クレスはルファと謁見してからすぐにレイの部屋へ行って、これからネモフィラと出かけることと、ダリウス朱神官の宴のことを話した。
レイは明るい顔で椅子に凭れて指を組んだ。
「今回は私の出番はあまりないようだね。マリルベルを見ることも、ダリウス朱神官の宴も、重要な勉強だ。いってらっしゃい」
「ああ。行ってくる!」
レイと部屋で別れると、クレスはネモフィラと春島首都マリルベルへと繰り出した。
ごうごうと音を立てて水車が回っている。
マリルベルの端では、川を利用した水車が何台も設置されていた。
ネモフィラは一番にこの水車へと案内してくれたのだ。
「水車って初めてみたけど、でっかいんだな!」
大きさに感激するクレスを見て、微笑みながらネモフィラは水車小屋の鍵をあけた。
「中をみてみますか? クレスさん」
「ああ!」
中を開けると、そこでは水車の力を利用して粉がひかれていた。
ぎしぎしと音をたてて粉がひかれる巨大な装置をみて、クレスはまた目を見開く。
「すっげー装置! これ造った人は天才だな」
「ふふふ。ここでは春島の麦がひかれて小麦粉になっているんですよ」
ネモフィラは水車小屋の管理人に一声かけて、小麦粉を一袋かった。
「一袋500ビルクですね。ちなみに主島では400ビルクくらいで買えます」
「……やっぱり微妙に高いってこと? 昨日も言ってたよな」
「ええ。どうしてだと思います?」
ネモフィラは真面目な顔でクレスを見た。
クレスは考えてみたけれど、さっぱり見当がつかない。
小麦は春島で生産されている。
小麦粉も春島でひかれている。
輸送費も運搬のための人件費もかからない。
それでも高いとすれば……。
「どこかで誰かがお金をかすめとっている?」
思ったことを口にだしていた。
ネモフィラは何も言わずクレスを見ている。
「あ、今のなし! 憶測だけでそんなこと言えないからな!」
「分かりました。聞かなかったことにしておきます。でも……」
ネモフィラは一呼吸置いた。
「そう思っている人たちがいるのも確かです」
「もしかして、それが反神殿組織ってやつ?」
「そうです。ルースという団体です。ああ、しゃべりすぎてしまいました。このことはルファさまやレイファルナスさまには内緒にしてくださいね。案内の私が春島の余計な情報を教えてしまったと知られたら、怒られてしまいます」
ネモフィラは少し照れた顔で、自分の黒い髪を撫でた。
明日はルファが手紙の返事書いてくれるだろうか。
そうしたら、それをもって主島へ帰り、クレスの旅は終わりになる。
そんなことを考えていたら、扉がノックされた。
扉を開けると、さっき首都マリルベルで会った女性が立っていた。
「あ」
「あら」
女性は赤を基調とした神官服を着ていた。
「ああ、貴女は春神殿の神官だったんですか」
「ええ。さっきは買い出しに行ってたんです。私はクレスさんのお世話を言いつかったネモフィラといいます。先ほどは失礼しました」
「ネモフィラさん、ね」
ネモフィラはクレスの夕食をトレイごと机に置いて、今後のことを説明してくれた。
「明日は朝一番でルファさまに謁見してください。お話があるそうですよ」
「お話? なんだろう」
「さあ。明日詳しくお聞きください。また朝に迎えに来ますね」
そう言ってネモフィラは退出していった。
次の日、朝食を食べた後、クレスは聖殿に呼ばれた。
そこでルファと謁見した。
ルファは今日も赤い礼服に身を包み、強い光を湛えた目でクレスを見る。
「クレス。今日はダリウス朱神官のことを話したいと思って呼んだのよ」
「ダリウス朱神官? ですか」
「ええ。彼は今年で就任十周年になるの。そのお祝いの宴が開かれることになっているのよ。クレス、それに貴方も出席してほしいの」
「お祝い事ですか。俺で良ければ喜んで出席します」
「ありがとう。私やレイは出席できないけれど、次期大神官のあなたが出席してくれれば、ダリウスも喜ぶと思うの」
ルファはにこりとクレスに笑顔をむけた。
ルファやレイは出席しないのか、と思って、それも当然かとクレスは思った。
彼らは季主であるため、人間の個人的な宴には出ないのだろう。
「着るものはこちらで用意するわ。よろしくね」
「はい、助かります」
「それと、今日は世話がかりのネモフィラにマリルベルを少し案内させるわ。春島の首都を見るのも勉強のうちよ」
「はい。お気遣いありがとうございます、ルファさま」
ルファはまたにこりと笑顔を見せた。
「と、いうことなんだ、レイ」
クレスはルファと謁見してからすぐにレイの部屋へ行って、これからネモフィラと出かけることと、ダリウス朱神官の宴のことを話した。
レイは明るい顔で椅子に凭れて指を組んだ。
「今回は私の出番はあまりないようだね。マリルベルを見ることも、ダリウス朱神官の宴も、重要な勉強だ。いってらっしゃい」
「ああ。行ってくる!」
レイと部屋で別れると、クレスはネモフィラと春島首都マリルベルへと繰り出した。
ごうごうと音を立てて水車が回っている。
マリルベルの端では、川を利用した水車が何台も設置されていた。
ネモフィラは一番にこの水車へと案内してくれたのだ。
「水車って初めてみたけど、でっかいんだな!」
大きさに感激するクレスを見て、微笑みながらネモフィラは水車小屋の鍵をあけた。
「中をみてみますか? クレスさん」
「ああ!」
中を開けると、そこでは水車の力を利用して粉がひかれていた。
ぎしぎしと音をたてて粉がひかれる巨大な装置をみて、クレスはまた目を見開く。
「すっげー装置! これ造った人は天才だな」
「ふふふ。ここでは春島の麦がひかれて小麦粉になっているんですよ」
ネモフィラは水車小屋の管理人に一声かけて、小麦粉を一袋かった。
「一袋500ビルクですね。ちなみに主島では400ビルクくらいで買えます」
「……やっぱり微妙に高いってこと? 昨日も言ってたよな」
「ええ。どうしてだと思います?」
ネモフィラは真面目な顔でクレスを見た。
クレスは考えてみたけれど、さっぱり見当がつかない。
小麦は春島で生産されている。
小麦粉も春島でひかれている。
輸送費も運搬のための人件費もかからない。
それでも高いとすれば……。
「どこかで誰かがお金をかすめとっている?」
思ったことを口にだしていた。
ネモフィラは何も言わずクレスを見ている。
「あ、今のなし! 憶測だけでそんなこと言えないからな!」
「分かりました。聞かなかったことにしておきます。でも……」
ネモフィラは一呼吸置いた。
「そう思っている人たちがいるのも確かです」
「もしかして、それが反神殿組織ってやつ?」
「そうです。ルースという団体です。ああ、しゃべりすぎてしまいました。このことはルファさまやレイファルナスさまには内緒にしてくださいね。案内の私が春島の余計な情報を教えてしまったと知られたら、怒られてしまいます」
ネモフィラは少し照れた顔で、自分の黒い髪を撫でた。