第26話 冬島の温室栽培
文字数 2,071文字
クレスが朝起きると、しばらくしてクラウス翠神官がやってきた。アレイゼスの返事をクレスに届けるためだ。秋神殿の黄緑色の縁飾りのついた封筒は、とても薄い。中に入っている紙は、一枚程度のものだとクレスは思った。
そのあとに部屋に届けられた朝食を摂り終わると、レイとネイスクレファがクレスの部屋にきたのだった。
「アレイゼスから手紙の返事はうけとったかの」
「はい」
「では、厚着をして冬島にいこう」
「い、いまですか?」
「何かと早い方がよい」
ネイスクレファがそういうので、レイを見てみると、彼もけっこうな厚着をしていた。
鮮やかな青いコートを着ていて、それがとてもよく似合っている。
「また秋神殿から季主の道を通って冬島にいくよ」
ということで、クレスたちは早々にアレイゼスに挨拶をすませ、秋神殿の祠にある季主の道へと向かったのだった。
季主の道――この道は不思議だとクレスは思う。
先頭にネイスクレファ、そしてレイ、そしてクレスのあとからコハクがトテトテとついてくる。
季主の道の扉を開き、洞窟のような通路に入ると、周りは黄緑色の透明な石で覆われていた。
それはさながらエメラルドのようで、とても綺麗だ。
その黄緑色が、しばらく歩くと白っぽくなっていき、きらきらと光る透明な石になって行った。今度はまるでダイアモンドのよう。
ダイアモンドの道を通っていると、ガラスのような扉が見えた。
「もう、冬島につく」
ネイスクレファがそう言う。彼女がその扉をきいっと開けると、その奥には氷の城のような、白い建物が建っていた。氷柱がいくつものびたような鋭角的な外観だ。冬神殿も三階建てで、その城のような屋根には、雪が積もっていた。
びゅう、と寒風が吹きすさぶ。
「さっむいっ」
「冬島だからな」
ネイスクレファがころころと笑った。
「このまま、冬島の首都ゼグダルーナに行こうと思うが、いいかの」
ネイスクレファはレイとクレスに確認を取った。
「私はこのまま行っても構わないよ」
「俺も」
そう二人が言うので、ネイスクレファも冬神殿には入らずに、門を出て首都の方へと足を向ける。
「この冬島の首都ゼグダルーナは、中央暖房装置が使われてる。主島でも使われているものの、暖房のみのものじゃ」
説明をしながら、ネイスクレファは氷の道を歩いていく。ところどころに家が数軒あり、その一角を通り抜けていった。家々からは温かい昼食の香りが漂ってきていて、幸せそうな雰囲気である。極寒の冬島にもこうして人が住んでいるんだな、とクレスは妙に感心した。
しばらく歩くと、その先に大きな建物が見えた。ここは透明なガラスで覆ってあり、中で野菜が作られているようだ。温室栽培だった。
ネイスクレファはそこの農園主に話をつけ、クレスたちを中に入れた。
「ここは冬島の野菜なんかを作っているところじゃ。ほぼ、春島と同じものができる。ここも中央暖房装置のおかげで、暖かくできるからの。そういえばつい最近じゃの。レイが動力のサファイアに力をそそいだのは」
「ああ、そうだね。ほんとうについこの前だよ。ついでに主島の動力にも力を入れて来たけど」
そういえばレイは夏島で、主島の高速長距離馬車でクレスと会う前のことを話していた。この動力に力を入れるために冬島と主島に行っていたと言っていた。
温室菜園の野菜は、葉物や実がなっているものがある。赤や緑の、色が濃くて、美味しそうな野菜だった。
「街の中には家畜棟や、共同浴場の施設なんかもあるの。それも夏主の力で湯が使えるからできることじゃ」
「夏島ではネイスクレファの力で魚市場や野菜や果物の市場で冷房が使えるから、お互いにいい関係を保っているということだね」
レイがそのあとに『中央冷暖房装置』のことを詳しく説明してくれた。
この『中央冷暖房装置』が発明されたとき、当時の大神官と各浮島の筆頭神官がそろって創造主リアスに、設置を提案したのだという。夏主と冬主であるレイとネイスクレファの力を元として作られ、その力がこもったサファイアとダイアモンドが動力源になっている。
それから、主島と夏島と冬島で大規模な配管工事が行われた。熱水と冷水を通す管だ。
いまでも老朽化した管を点検して取り替える工事は行われている。
「そろそろ冬神殿にもどるかの」
「あ、俺はちょっとこの町を回ってきます。宿屋から荷物を運びたいので」
「ほう、どこの宿屋なのかの」
「冬神殿近くだから、帰り際によれると思います」
クレスがそう言うと、レイも手伝うと言ってくれ、それを聞いたネイスクレファも二人が行くなら、と宿屋へと足を向けた。
「ついでだからその宿屋で昼食を食べてしまおう」
ネイスクレファが言った。
元来季主は食べ物を必要としないので、クレスに気を遣ってくれた言葉だった。
「人間は一日に三回食べるんだから、大変だよね」
レイがしみじみとつぶやく。
「食事は楽しみの一つだからあたしは好きだよ。冬神殿近くの宿屋というと、あの宿屋かな。食事もうまいところだよ」
そういうわけで三人は食事をとりに宿屋へと向かった。
そのあとに部屋に届けられた朝食を摂り終わると、レイとネイスクレファがクレスの部屋にきたのだった。
「アレイゼスから手紙の返事はうけとったかの」
「はい」
「では、厚着をして冬島にいこう」
「い、いまですか?」
「何かと早い方がよい」
ネイスクレファがそういうので、レイを見てみると、彼もけっこうな厚着をしていた。
鮮やかな青いコートを着ていて、それがとてもよく似合っている。
「また秋神殿から季主の道を通って冬島にいくよ」
ということで、クレスたちは早々にアレイゼスに挨拶をすませ、秋神殿の祠にある季主の道へと向かったのだった。
季主の道――この道は不思議だとクレスは思う。
先頭にネイスクレファ、そしてレイ、そしてクレスのあとからコハクがトテトテとついてくる。
季主の道の扉を開き、洞窟のような通路に入ると、周りは黄緑色の透明な石で覆われていた。
それはさながらエメラルドのようで、とても綺麗だ。
その黄緑色が、しばらく歩くと白っぽくなっていき、きらきらと光る透明な石になって行った。今度はまるでダイアモンドのよう。
ダイアモンドの道を通っていると、ガラスのような扉が見えた。
「もう、冬島につく」
ネイスクレファがそう言う。彼女がその扉をきいっと開けると、その奥には氷の城のような、白い建物が建っていた。氷柱がいくつものびたような鋭角的な外観だ。冬神殿も三階建てで、その城のような屋根には、雪が積もっていた。
びゅう、と寒風が吹きすさぶ。
「さっむいっ」
「冬島だからな」
ネイスクレファがころころと笑った。
「このまま、冬島の首都ゼグダルーナに行こうと思うが、いいかの」
ネイスクレファはレイとクレスに確認を取った。
「私はこのまま行っても構わないよ」
「俺も」
そう二人が言うので、ネイスクレファも冬神殿には入らずに、門を出て首都の方へと足を向ける。
「この冬島の首都ゼグダルーナは、中央暖房装置が使われてる。主島でも使われているものの、暖房のみのものじゃ」
説明をしながら、ネイスクレファは氷の道を歩いていく。ところどころに家が数軒あり、その一角を通り抜けていった。家々からは温かい昼食の香りが漂ってきていて、幸せそうな雰囲気である。極寒の冬島にもこうして人が住んでいるんだな、とクレスは妙に感心した。
しばらく歩くと、その先に大きな建物が見えた。ここは透明なガラスで覆ってあり、中で野菜が作られているようだ。温室栽培だった。
ネイスクレファはそこの農園主に話をつけ、クレスたちを中に入れた。
「ここは冬島の野菜なんかを作っているところじゃ。ほぼ、春島と同じものができる。ここも中央暖房装置のおかげで、暖かくできるからの。そういえばつい最近じゃの。レイが動力のサファイアに力をそそいだのは」
「ああ、そうだね。ほんとうについこの前だよ。ついでに主島の動力にも力を入れて来たけど」
そういえばレイは夏島で、主島の高速長距離馬車でクレスと会う前のことを話していた。この動力に力を入れるために冬島と主島に行っていたと言っていた。
温室菜園の野菜は、葉物や実がなっているものがある。赤や緑の、色が濃くて、美味しそうな野菜だった。
「街の中には家畜棟や、共同浴場の施設なんかもあるの。それも夏主の力で湯が使えるからできることじゃ」
「夏島ではネイスクレファの力で魚市場や野菜や果物の市場で冷房が使えるから、お互いにいい関係を保っているということだね」
レイがそのあとに『中央冷暖房装置』のことを詳しく説明してくれた。
この『中央冷暖房装置』が発明されたとき、当時の大神官と各浮島の筆頭神官がそろって創造主リアスに、設置を提案したのだという。夏主と冬主であるレイとネイスクレファの力を元として作られ、その力がこもったサファイアとダイアモンドが動力源になっている。
それから、主島と夏島と冬島で大規模な配管工事が行われた。熱水と冷水を通す管だ。
いまでも老朽化した管を点検して取り替える工事は行われている。
「そろそろ冬神殿にもどるかの」
「あ、俺はちょっとこの町を回ってきます。宿屋から荷物を運びたいので」
「ほう、どこの宿屋なのかの」
「冬神殿近くだから、帰り際によれると思います」
クレスがそう言うと、レイも手伝うと言ってくれ、それを聞いたネイスクレファも二人が行くなら、と宿屋へと足を向けた。
「ついでだからその宿屋で昼食を食べてしまおう」
ネイスクレファが言った。
元来季主は食べ物を必要としないので、クレスに気を遣ってくれた言葉だった。
「人間は一日に三回食べるんだから、大変だよね」
レイがしみじみとつぶやく。
「食事は楽しみの一つだからあたしは好きだよ。冬神殿近くの宿屋というと、あの宿屋かな。食事もうまいところだよ」
そういうわけで三人は食事をとりに宿屋へと向かった。