大事な人
文字数 1,556文字
クレスは仕事が終わって部屋に帰り、寝る準備をして寝台に腰をかけた。今日も仕事は大変でクレスは疲労困憊していた。
少しうとうとしだした時。
耳元のサファイアの耳飾りが青く光った。
それはいつもレイが現れる印だった。こちらに来たいと。
しかし今のクレスは、それを覚えていない。
それを承知でレイはクレスの元へ来ることにした。
二人だけで話しがしたいと思ったから。
今回はいつも聞くように「行っていい?」とは聞かなかった。強引に耳飾りから体を具現化させてクレスの部屋に現れる。
突然耳飾りが光り、像を結んだ夏主の姿にクレスは息がとまるほど驚いた。
腰かけていた寝台から立ち上がり、現れた夏主の前へと立つ。
ゆっくりとクレスの前にレイの体が像を結ぶと青い眼がクレスを見る。
二人は向かい合って見つめあった。
クレスは言いようのない感覚を感じた。
「どうやって……ここに入ってきたんですか?」
「クレスのつけている青い耳飾りは私の本体だ。それがあれば私はいつでもその本体のある所へ行ける」
「どうして私が夏主さまの本体をもっているんですか?」
「それも忘れたのか……。それはね、クレスが私の恋人だからだよ」
俺が夏主さまの恋人? クレスには信じがたい話だった。
でもだから、どうしてもこの耳飾りを外せなかったんだ。
クレスはすとんと納得した。
心に刷り込まれた大事な約束。
大切にするから、と。
「俺はこれをどうしても耳からはずせなかった。夏主さまと関係があったんですね」
「そんな話し方をされると悲しい」
レイは寂しげにクレスを見た。いつもレイ、と名前を呼んでくれるのに、今は「夏主さま」とクレスは自分を呼ぶ。
クレスもレイの寂しそうな顔をみて、胸がかきむしられるような感覚を覚えた。
「そんな風に言わないでください。俺は……どうかしているんです! あなたを見ていると、爪を立てられているように胸が痛くなる! この耳飾りも声が聞こえてきて不気味だと思ったけど、どうしても耳からはずせなかった!」
感情が高ぶり始めたクレスはレイに想いのたけを叫んだ。
「姿を見るだけで目が離せなくなる! あなたが笑うと雷に打たれたように動けなくなる! あなたを一人占めしたくなる!」
クレスの頬を涙が伝う。
そしてかすれる声で言った。
「あなたは夏主(かしゅ)なのに……」
レイはクレスの顔を両手で覆うと彼の瞳を覗きこんで優しく口づけをした。
「それでいいんだ、クレス」
「でも許されない」
「誰に許してもらうというの? 私は夏主(かしゅ)でクレスは大神官になる。だれも口出し出来ない。リアス様以外はね」
「あなたが好きだ」
「うん。……クレス、今の君の記憶は襞の間に眠っているようなものだ。きっと私がそれを思い出させてあげる」
レイはクレスの両腕をとって優しく諭した。
「クレスには今、強力な暗示がかけられている。それは今でも私には解けない暗示だ。だけどきっと助けてあげる。暗示が解けるまで私はもうクレスの前には現れない。混乱させるだけだからね」
レイはクレスの顔を見て、涙にぬれた頬を指でぬぐった。
「もう会えないのか? 俺はその時、今の事を覚えているのか?」
「分からない。暗示が掛かっている時の事は、暗示が解けると普通忘れる」
「この気持ちも消えるのか?」
「消えない」
きっぱりとレイは保証した。
「私とクレスの気持ちは消えない。そんな簡単には、ね」
そう言うとレイはクレスの前髪を掻きあげて、もう一度クレスの額に口づけをした。
「もともと私たちは恋人同士だ。元に戻っても前の気持ちが残っている。暗示が解けたらまた、君の元へ来る。それまで待ってて。クレス」
そう言うと、レイの姿は霧が消えるように薄くなった。
クレスはレイが完全に見えなくなるまでその姿を見つめていた。
少しうとうとしだした時。
耳元のサファイアの耳飾りが青く光った。
それはいつもレイが現れる印だった。こちらに来たいと。
しかし今のクレスは、それを覚えていない。
それを承知でレイはクレスの元へ来ることにした。
二人だけで話しがしたいと思ったから。
今回はいつも聞くように「行っていい?」とは聞かなかった。強引に耳飾りから体を具現化させてクレスの部屋に現れる。
突然耳飾りが光り、像を結んだ夏主の姿にクレスは息がとまるほど驚いた。
腰かけていた寝台から立ち上がり、現れた夏主の前へと立つ。
ゆっくりとクレスの前にレイの体が像を結ぶと青い眼がクレスを見る。
二人は向かい合って見つめあった。
クレスは言いようのない感覚を感じた。
「どうやって……ここに入ってきたんですか?」
「クレスのつけている青い耳飾りは私の本体だ。それがあれば私はいつでもその本体のある所へ行ける」
「どうして私が夏主さまの本体をもっているんですか?」
「それも忘れたのか……。それはね、クレスが私の恋人だからだよ」
俺が夏主さまの恋人? クレスには信じがたい話だった。
でもだから、どうしてもこの耳飾りを外せなかったんだ。
クレスはすとんと納得した。
心に刷り込まれた大事な約束。
大切にするから、と。
「俺はこれをどうしても耳からはずせなかった。夏主さまと関係があったんですね」
「そんな話し方をされると悲しい」
レイは寂しげにクレスを見た。いつもレイ、と名前を呼んでくれるのに、今は「夏主さま」とクレスは自分を呼ぶ。
クレスもレイの寂しそうな顔をみて、胸がかきむしられるような感覚を覚えた。
「そんな風に言わないでください。俺は……どうかしているんです! あなたを見ていると、爪を立てられているように胸が痛くなる! この耳飾りも声が聞こえてきて不気味だと思ったけど、どうしても耳からはずせなかった!」
感情が高ぶり始めたクレスはレイに想いのたけを叫んだ。
「姿を見るだけで目が離せなくなる! あなたが笑うと雷に打たれたように動けなくなる! あなたを一人占めしたくなる!」
クレスの頬を涙が伝う。
そしてかすれる声で言った。
「あなたは夏主(かしゅ)なのに……」
レイはクレスの顔を両手で覆うと彼の瞳を覗きこんで優しく口づけをした。
「それでいいんだ、クレス」
「でも許されない」
「誰に許してもらうというの? 私は夏主(かしゅ)でクレスは大神官になる。だれも口出し出来ない。リアス様以外はね」
「あなたが好きだ」
「うん。……クレス、今の君の記憶は襞の間に眠っているようなものだ。きっと私がそれを思い出させてあげる」
レイはクレスの両腕をとって優しく諭した。
「クレスには今、強力な暗示がかけられている。それは今でも私には解けない暗示だ。だけどきっと助けてあげる。暗示が解けるまで私はもうクレスの前には現れない。混乱させるだけだからね」
レイはクレスの顔を見て、涙にぬれた頬を指でぬぐった。
「もう会えないのか? 俺はその時、今の事を覚えているのか?」
「分からない。暗示が掛かっている時の事は、暗示が解けると普通忘れる」
「この気持ちも消えるのか?」
「消えない」
きっぱりとレイは保証した。
「私とクレスの気持ちは消えない。そんな簡単には、ね」
そう言うとレイはクレスの前髪を掻きあげて、もう一度クレスの額に口づけをした。
「もともと私たちは恋人同士だ。元に戻っても前の気持ちが残っている。暗示が解けたらまた、君の元へ来る。それまで待ってて。クレス」
そう言うと、レイの姿は霧が消えるように薄くなった。
クレスはレイが完全に見えなくなるまでその姿を見つめていた。