レイの怒り
文字数 2,048文字
翌日の財務部は朝から通常に機能していた。
クレスとアルウェはリームに仕事を教えてもらいながら今日も計算との戦いだ。
その最中に場が騒然となった。
財務部の扉の前に夏主がやってきたからだ。
レンド部長が素早くレイの元へ行って、ここには夏主といえども入ってはいけない、と言う。レイは扉の前で何かレンド部長と話をしているらしい。
なんで、いまこの時期に財務部に一人で来たのか、クレスは夏主の意図がつかめなかった。
しかし、しばらくして呼び出されたのは意外な人物だった。
「リーム……リーム・バンスター、夏主さまがお呼びだ」
レンド部長はリームを呼び出した。
「俺ですか?」
リームはクレスとアルウェに目を向けて、少し待ってろ、と言うとレンド部長の方へ歩いていく。
レイは、リームを見据えた。
「何の御用でしょうか」
リームは不思議そうな顔をしてレイを見る。
そんなリームを見てレイはさらに視線がけわしくなった。
「ちょっと話がある。私と一緒に来て欲しい」
「分かりました」
そう言ってリームはレイと一緒に財務部から出て行った。
レイとリームは別室を用意してもらい、そこで二人きりにしてもらう。
テーブルにお茶が用意してあり、二人は向かい合った。
レイが怒りの光を瞳に込めた。
「突然押し掛けてしまってすみませんでした。リームと呼んだ方がいいですか? リアス様」
単刀直入にレイは言った。
リームはふっと口角をあげる。
「ふむ。やはり季主であるお前には分かってしまうか」
さっきまで殊勝だったリームが態度を変える。
それは夏主であるレイよりも高位の者の態度だった。
「気配でわかります。もっとも、この大神殿で働いているとは初めは思ってもみませんでしたが」
創造主リアス。彼はその姿の年齢を好きなように変えられる。それは季主も同じだった。
だから若くてもリームのことを、気配をたどってリアスだと断定できた。
そう、クレスと一緒にいるリームとすれ違った、あの時だ。
レイは呆れ半分リームに聞いた。
「何をしていらっしゃるのですか……貴方は」
「それはな、この部署にいると何かと一石二鳥なのだよ」
リームは急に老成したしゃべり方になってレイに対した。
「一石二鳥? 何がです」
「まず、貧民街の炊き出しの為の資金を暗示で捻出できた。それとクレスに暗示をかけ、お前と引き離す事もできた」
レイは奥歯をきつく噛み、リームをにらんだ。
やはりクレスに暗示をかけたのはリアスだった。
「クレスの暗示を解いてください。貴方は私とクレスの仲を一度は認めて下さったではないですか」
「そうはいってもな。茨の道ぞ」
「分かっています」
「ならばもう何もいうまい。そんなに強く惹かれあっているのなら、この先がどうなるか、私もこの目で確かめたい」
「それとリーム様。炊き出しはいいですが、そのお金を暗示でごまかして財務部から捻出するのは犯罪です」
「むう……」
「そんな事は私だって夏島でやりませんよ」
「う、うむ」
リームは肩をすくめて少し小さくなった。
「まあ、それはだな、この先はリームとしての給与を出してもらおうと思っている……」
「創造主が給与をもらう?」
レイは呆れてオウム返しにリームに言った。
「必要ならそう言えば、ある程度の都合はつけてもらえるでしょう!」
「う、うむ」
「で、これからも財務部で働く気ですか?」
「いや、その……わりと働くっていうのは大変なものじゃな。でも、給与がもらえるのなら……」
リアスがその先を言う前に、レイがそれを遮った。
「すぐにおやめなさい。場が混乱するだけです」
レイは容赦がなかった。
「そうじゃのう……。仕方がないかのう……」
全く残念そうに、リームは見た目年齢からは想像できない老成した話し方で、しかし言っている事はめちゃくちゃな事をいいながら腕を組んであごに手をあてて、溜息をついた。
「クレスの暗示もしっかりと解いてくださいね」
「分かった、分かった」
これ以上の小言は聞きたくないとばかりにリームは席をたった。
「じゃ、これで私は失礼するよ。レイファルナス、あんまり怒るとしわができるぞ」
「別に出来てもかまいません」
「もったいないのう」
ひょうひょうとリームは部屋を出て行ってしまった。
それからリームが財務部へ顔を出す事はなくなった。
リームが勤務している事自体、暗示がかかっていた為、いま暗示が解けた状態でリームが居なくても誰も不思議がらなかった。
問題はクレスとアルウェの指導教官が居なくなった、という事だ。
確かにいたはずだと思っていたのに、実際にはいない。
その違和感がクレスもアルウェも拭えなかった。
特にアルウェは泣きだすほどリームが好きだったようだ。
彼女は何か得体の知れない、圧倒的な絶望感にさいなまれて涙をこぼした。
リアスのもくろみはアルウェがクレスを好きになる事だったが、アルウェはリームの事を好きになっていたようだった。
しかし、暗示の中での想いだったのでアルウェも数日でそれを忘れた。
クレスとアルウェはリームに仕事を教えてもらいながら今日も計算との戦いだ。
その最中に場が騒然となった。
財務部の扉の前に夏主がやってきたからだ。
レンド部長が素早くレイの元へ行って、ここには夏主といえども入ってはいけない、と言う。レイは扉の前で何かレンド部長と話をしているらしい。
なんで、いまこの時期に財務部に一人で来たのか、クレスは夏主の意図がつかめなかった。
しかし、しばらくして呼び出されたのは意外な人物だった。
「リーム……リーム・バンスター、夏主さまがお呼びだ」
レンド部長はリームを呼び出した。
「俺ですか?」
リームはクレスとアルウェに目を向けて、少し待ってろ、と言うとレンド部長の方へ歩いていく。
レイは、リームを見据えた。
「何の御用でしょうか」
リームは不思議そうな顔をしてレイを見る。
そんなリームを見てレイはさらに視線がけわしくなった。
「ちょっと話がある。私と一緒に来て欲しい」
「分かりました」
そう言ってリームはレイと一緒に財務部から出て行った。
レイとリームは別室を用意してもらい、そこで二人きりにしてもらう。
テーブルにお茶が用意してあり、二人は向かい合った。
レイが怒りの光を瞳に込めた。
「突然押し掛けてしまってすみませんでした。リームと呼んだ方がいいですか? リアス様」
単刀直入にレイは言った。
リームはふっと口角をあげる。
「ふむ。やはり季主であるお前には分かってしまうか」
さっきまで殊勝だったリームが態度を変える。
それは夏主であるレイよりも高位の者の態度だった。
「気配でわかります。もっとも、この大神殿で働いているとは初めは思ってもみませんでしたが」
創造主リアス。彼はその姿の年齢を好きなように変えられる。それは季主も同じだった。
だから若くてもリームのことを、気配をたどってリアスだと断定できた。
そう、クレスと一緒にいるリームとすれ違った、あの時だ。
レイは呆れ半分リームに聞いた。
「何をしていらっしゃるのですか……貴方は」
「それはな、この部署にいると何かと一石二鳥なのだよ」
リームは急に老成したしゃべり方になってレイに対した。
「一石二鳥? 何がです」
「まず、貧民街の炊き出しの為の資金を暗示で捻出できた。それとクレスに暗示をかけ、お前と引き離す事もできた」
レイは奥歯をきつく噛み、リームをにらんだ。
やはりクレスに暗示をかけたのはリアスだった。
「クレスの暗示を解いてください。貴方は私とクレスの仲を一度は認めて下さったではないですか」
「そうはいってもな。茨の道ぞ」
「分かっています」
「ならばもう何もいうまい。そんなに強く惹かれあっているのなら、この先がどうなるか、私もこの目で確かめたい」
「それとリーム様。炊き出しはいいですが、そのお金を暗示でごまかして財務部から捻出するのは犯罪です」
「むう……」
「そんな事は私だって夏島でやりませんよ」
「う、うむ」
リームは肩をすくめて少し小さくなった。
「まあ、それはだな、この先はリームとしての給与を出してもらおうと思っている……」
「創造主が給与をもらう?」
レイは呆れてオウム返しにリームに言った。
「必要ならそう言えば、ある程度の都合はつけてもらえるでしょう!」
「う、うむ」
「で、これからも財務部で働く気ですか?」
「いや、その……わりと働くっていうのは大変なものじゃな。でも、給与がもらえるのなら……」
リアスがその先を言う前に、レイがそれを遮った。
「すぐにおやめなさい。場が混乱するだけです」
レイは容赦がなかった。
「そうじゃのう……。仕方がないかのう……」
全く残念そうに、リームは見た目年齢からは想像できない老成した話し方で、しかし言っている事はめちゃくちゃな事をいいながら腕を組んであごに手をあてて、溜息をついた。
「クレスの暗示もしっかりと解いてくださいね」
「分かった、分かった」
これ以上の小言は聞きたくないとばかりにリームは席をたった。
「じゃ、これで私は失礼するよ。レイファルナス、あんまり怒るとしわができるぞ」
「別に出来てもかまいません」
「もったいないのう」
ひょうひょうとリームは部屋を出て行ってしまった。
それからリームが財務部へ顔を出す事はなくなった。
リームが勤務している事自体、暗示がかかっていた為、いま暗示が解けた状態でリームが居なくても誰も不思議がらなかった。
問題はクレスとアルウェの指導教官が居なくなった、という事だ。
確かにいたはずだと思っていたのに、実際にはいない。
その違和感がクレスもアルウェも拭えなかった。
特にアルウェは泣きだすほどリームが好きだったようだ。
彼女は何か得体の知れない、圧倒的な絶望感にさいなまれて涙をこぼした。
リアスのもくろみはアルウェがクレスを好きになる事だったが、アルウェはリームの事を好きになっていたようだった。
しかし、暗示の中での想いだったのでアルウェも数日でそれを忘れた。