続編 エピローグ
文字数 1,831文字
大神官バレルは、聖殿の奥にある創造主リアスの私室の扉を、数度こぶしで打つ。
創造主リアスが、自分を呼んでいるというからだ。
「入っていいぞ」
意外に若い声がした。
その声に促されてドアを開けて中に入ると、椅子に二十代半ばの青年が腰かけている。
「おや、今日は若い格好でいるのですね」
バレルはさして驚いた気配を見せなかった。
「この格好のときはリームという。リーム・バンスターだ」
「どういう風の吹きまわしで、そのような格好に?」
「若い方が何かと動きやすい」
リアスは読んでいた本を閉じるとバレルの方に向いた。
「貧民街の炊き出しの件だが。考えてくれたか?」
「はい……私の負けです。リアス様……リーム様がそこまでやっていたのなら、主島の行政で少し考えてみましょう。懸案項目に入れておきます」
「そうか」
バレルは貧民街を調査してリームという青年が炊き出しをしていた事を知っていた。
リームはにこやかに大神官バレルを見た。
「難しいこともあると思うがよろしく頼む。私はやはり弱者が弱って死んでいくのを黙って見ている事は嫌なんだ。それを少しでもくい止める事ができるのなら……私もなにか動こう」
「リーム様に関してはもう十分動かれました。後は私たちがその意思を引き継ぎましょう」
「若い体になれば私も動けるのだけどなあ」
リームは残念そうに机に頬杖をついて恨めしそうにバレルを見た。
「しばらくは御自重くださいませ」
犯罪じみた手を使ってしまったリームはそれに反論出来なかった。
気がつくと、クレスは自室の机に突っ伏して寝ていた。
本でも読みながら寝てしまったのだろうか?
頭が痛い。それに眠い。時刻を確認すると夕方過ぎだった。
今日は休日だっけ? そう思って、そうだと気がつく。
頭をはっきりさせる為に顔を洗った。
冷たい水で顔を洗うと、気分もすっきりして頭痛も引いて、眠気も去った。
最近、レイと逢ってない気がする。
そういえば大神殿にレイは呼ばれていた。それなのに連絡一つよこさないなんて。
そんなに仕事がいそがしいのかな。
と、クレスは思った。
でも今はすでに夕食時だ。仕事も終わっているだろうと見当をつける。
だからサファイアの耳飾りにささやきかけた。
「レイ。今何してる」
すぐにレイの返事が返ってきた。
『クレス!? 私のことを思い出した?』
「思い出すってなんだ? 俺がレイの事忘れるわけないじゃないか」
『あ……、ははは』
レイの苦笑が聞こえてくる。しかしそれは妙に嬉しそうで明るい笑いだった。
「今日、これから時間あるか」
『空いてるよ』
「ならどこかに飯でも食べに行こう。主島の美味しい食堂に連れてってやるよ」
『ありがとう、クレス』
レイの声がいつもよりも明るいような気がした。
それだけでもクレスは何か嬉しい気分になるのだった。
その後、二人は大神殿の前で待ち合わせた。
クレスはやはり暗示がかかっていた時の事は忘れてしまっていた。
でも、レイの中では、記憶を消されながらも泣きながら自分を好きだと言ってくれた、クレスの心がとても印象的だった。だからそれだけで、この先もずっとクレスの事を好きでいられると思った。
自分の事を「夏主さま」と言っていた、先日までのクレスはもういない。あれはレイにとっては本当に悲しいことだった。
しかし二人の心の絆が、クレスをレイの元へ、レイをクレスの元へと戻した。
レイが心を浮き立たせてクレスを大神殿の前で待っていると、クレスが私服で待ち合わせ場所にやってきた。久しぶりに見る私服姿だ。いつもは大神殿の制服を着ていた。私服姿のクレスも新鮮だとレイは思う。
クレスが来た時にはあたりは暗くなっていた。
クレスはレイを見とめると、彼を抱きしめた。そして、ちょうど自分の顔の位置にある左側の首に口づけをする。
そんなクレスの行動にレイは焦った。
「い、今、首に口づけした……!」
抱擁を解いてレイを見上げて、クレスは悪戯っぽく笑った。
「何で? いけなかったか? だってレイの方が背は高いし、ちょうど俺の顔の位置がレイの首だったんだよ」
そう説明するうちにもレイの顔は朱くなっていく。
クレスが口づけた首の部分を手で覆って、言いようのない恥ずかしさに耐えているようだった。
(なんか面白い反応だな)
クレスはおかしくなった。
そのうちもっとやってやろう、と意地の悪い事をクレスは考えた。
そして、レイの手を引いて話をしながら、食堂へと歩きだした。
おわり
創造主リアスが、自分を呼んでいるというからだ。
「入っていいぞ」
意外に若い声がした。
その声に促されてドアを開けて中に入ると、椅子に二十代半ばの青年が腰かけている。
「おや、今日は若い格好でいるのですね」
バレルはさして驚いた気配を見せなかった。
「この格好のときはリームという。リーム・バンスターだ」
「どういう風の吹きまわしで、そのような格好に?」
「若い方が何かと動きやすい」
リアスは読んでいた本を閉じるとバレルの方に向いた。
「貧民街の炊き出しの件だが。考えてくれたか?」
「はい……私の負けです。リアス様……リーム様がそこまでやっていたのなら、主島の行政で少し考えてみましょう。懸案項目に入れておきます」
「そうか」
バレルは貧民街を調査してリームという青年が炊き出しをしていた事を知っていた。
リームはにこやかに大神官バレルを見た。
「難しいこともあると思うがよろしく頼む。私はやはり弱者が弱って死んでいくのを黙って見ている事は嫌なんだ。それを少しでもくい止める事ができるのなら……私もなにか動こう」
「リーム様に関してはもう十分動かれました。後は私たちがその意思を引き継ぎましょう」
「若い体になれば私も動けるのだけどなあ」
リームは残念そうに机に頬杖をついて恨めしそうにバレルを見た。
「しばらくは御自重くださいませ」
犯罪じみた手を使ってしまったリームはそれに反論出来なかった。
気がつくと、クレスは自室の机に突っ伏して寝ていた。
本でも読みながら寝てしまったのだろうか?
頭が痛い。それに眠い。時刻を確認すると夕方過ぎだった。
今日は休日だっけ? そう思って、そうだと気がつく。
頭をはっきりさせる為に顔を洗った。
冷たい水で顔を洗うと、気分もすっきりして頭痛も引いて、眠気も去った。
最近、レイと逢ってない気がする。
そういえば大神殿にレイは呼ばれていた。それなのに連絡一つよこさないなんて。
そんなに仕事がいそがしいのかな。
と、クレスは思った。
でも今はすでに夕食時だ。仕事も終わっているだろうと見当をつける。
だからサファイアの耳飾りにささやきかけた。
「レイ。今何してる」
すぐにレイの返事が返ってきた。
『クレス!? 私のことを思い出した?』
「思い出すってなんだ? 俺がレイの事忘れるわけないじゃないか」
『あ……、ははは』
レイの苦笑が聞こえてくる。しかしそれは妙に嬉しそうで明るい笑いだった。
「今日、これから時間あるか」
『空いてるよ』
「ならどこかに飯でも食べに行こう。主島の美味しい食堂に連れてってやるよ」
『ありがとう、クレス』
レイの声がいつもよりも明るいような気がした。
それだけでもクレスは何か嬉しい気分になるのだった。
その後、二人は大神殿の前で待ち合わせた。
クレスはやはり暗示がかかっていた時の事は忘れてしまっていた。
でも、レイの中では、記憶を消されながらも泣きながら自分を好きだと言ってくれた、クレスの心がとても印象的だった。だからそれだけで、この先もずっとクレスの事を好きでいられると思った。
自分の事を「夏主さま」と言っていた、先日までのクレスはもういない。あれはレイにとっては本当に悲しいことだった。
しかし二人の心の絆が、クレスをレイの元へ、レイをクレスの元へと戻した。
レイが心を浮き立たせてクレスを大神殿の前で待っていると、クレスが私服で待ち合わせ場所にやってきた。久しぶりに見る私服姿だ。いつもは大神殿の制服を着ていた。私服姿のクレスも新鮮だとレイは思う。
クレスが来た時にはあたりは暗くなっていた。
クレスはレイを見とめると、彼を抱きしめた。そして、ちょうど自分の顔の位置にある左側の首に口づけをする。
そんなクレスの行動にレイは焦った。
「い、今、首に口づけした……!」
抱擁を解いてレイを見上げて、クレスは悪戯っぽく笑った。
「何で? いけなかったか? だってレイの方が背は高いし、ちょうど俺の顔の位置がレイの首だったんだよ」
そう説明するうちにもレイの顔は朱くなっていく。
クレスが口づけた首の部分を手で覆って、言いようのない恥ずかしさに耐えているようだった。
(なんか面白い反応だな)
クレスはおかしくなった。
そのうちもっとやってやろう、と意地の悪い事をクレスは考えた。
そして、レイの手を引いて話をしながら、食堂へと歩きだした。
おわり