エピローグ
文字数 1,203文字
祭壇で一仕事終えた二人は、洞窟を戻って、ヤシノキの森を通り、リオのところまで戻った。
またリオの御する馬車に乗って村まで帰り、そこで一泊した。翌日からは乗り合い馬車で帰路につき、出発してからちょうど十日目にまた首都キリブへと帰ってきたのだった。
クレスは夏神殿で一泊し、旅の疲れをとったあとに、主島へレイが送って行った。
創造主祭がおわり、大連休が明けた。
夏島でも通常通りに政務が再開され、ルミレラ蒼神官は朝の報告にレイの執務室を訪れた。執務机に座るレイに彼女は挨拶をする。
「おはようございます、レイファルナス様。クレスさんとの旅はいかがでしたか?」
「おはよう、ルミレラ蒼神官。とても楽しい旅だったよ」
涼し気に言ったレイの言葉に、ルミレラ蒼神官は眼を大きく開いた。
「……いま、初めて……私の名前をよんでくださいましたね……」
「ああ……そうだね」
レイは指を組んでルミレラ蒼神官の顔をみた。
彼女は突然のことにぽかんとしている。
それはそうだろう。長いあいだレイはルミレラの名前を呼ばなかったのだから。
「どうしたんですか? 突然……」
「ある人に名前を呼ばないのは失礼だと……言われて。それは人との関わりの基本だと」
「クレスさんですか……?」
図星をさされてレイは押し黙った。
そんなに自分は分かりやすいだろうか、と恥ずかしくなる。
少し頬が染まったレイに、ルミレラ蒼神官はにこりと微笑んだ。
「名前を呼んでくださって、ありがとうございます」
「いや……。今まで悪かったね」
「今更ですね」
レイの決まりわるい顔を見て、ルミレラ蒼神官はさらに笑みが深くなった。
レイは指を組みなおすと、そういえば、と思い出したことを一言付け足すことにした。
それを、ルミレラ蒼神官に悪戯っぽく言う。
「そういえば、今回は私に護衛はついていなかったね」
レイの言葉に今度はルミレラ蒼神官が驚き、決まり悪げに目をそらした。
「な、なんのことでしょうか?」
ルミレラ蒼神官の言葉を無視して、レイは続ける。
「今後も秘密の護衛はいらないから。無駄にお金を使う必要はないよ」
「あ……はあ……」
ルミレラ蒼神官は涼し気なレイの顔を見て、今度は自分が赤くなって押し黙ったのだった。
ルミレラ蒼神官が朝の報告を終えて、レイの執務室から出ていくと、レイは夏神殿三階にある自身の執務室の窓から、首都キリブを見渡す。
眼下のキリブは、民家の屋根が朝の光を受けて反射し、海は朝日に青く輝いていた。
炊飯の煙があがり、人々が港で忙しく働いているのが見える。
空は濃い青で、夏島独特の入道雲が海から立ち昇っている。
夕方には、もしかして夕立も降るかもしれない。
レイは人のいとなみを感じた。
黄色い蝶がひらひらと窓の外を飛んでいった。
「あの蝶も誰かの生まれ変わりで、私に逢いに来たのかな……」
レイは夏島の昔話を思い出して、独り言をつぶやいた。
おわり
またリオの御する馬車に乗って村まで帰り、そこで一泊した。翌日からは乗り合い馬車で帰路につき、出発してからちょうど十日目にまた首都キリブへと帰ってきたのだった。
クレスは夏神殿で一泊し、旅の疲れをとったあとに、主島へレイが送って行った。
創造主祭がおわり、大連休が明けた。
夏島でも通常通りに政務が再開され、ルミレラ蒼神官は朝の報告にレイの執務室を訪れた。執務机に座るレイに彼女は挨拶をする。
「おはようございます、レイファルナス様。クレスさんとの旅はいかがでしたか?」
「おはよう、ルミレラ蒼神官。とても楽しい旅だったよ」
涼し気に言ったレイの言葉に、ルミレラ蒼神官は眼を大きく開いた。
「……いま、初めて……私の名前をよんでくださいましたね……」
「ああ……そうだね」
レイは指を組んでルミレラ蒼神官の顔をみた。
彼女は突然のことにぽかんとしている。
それはそうだろう。長いあいだレイはルミレラの名前を呼ばなかったのだから。
「どうしたんですか? 突然……」
「ある人に名前を呼ばないのは失礼だと……言われて。それは人との関わりの基本だと」
「クレスさんですか……?」
図星をさされてレイは押し黙った。
そんなに自分は分かりやすいだろうか、と恥ずかしくなる。
少し頬が染まったレイに、ルミレラ蒼神官はにこりと微笑んだ。
「名前を呼んでくださって、ありがとうございます」
「いや……。今まで悪かったね」
「今更ですね」
レイの決まりわるい顔を見て、ルミレラ蒼神官はさらに笑みが深くなった。
レイは指を組みなおすと、そういえば、と思い出したことを一言付け足すことにした。
それを、ルミレラ蒼神官に悪戯っぽく言う。
「そういえば、今回は私に護衛はついていなかったね」
レイの言葉に今度はルミレラ蒼神官が驚き、決まり悪げに目をそらした。
「な、なんのことでしょうか?」
ルミレラ蒼神官の言葉を無視して、レイは続ける。
「今後も秘密の護衛はいらないから。無駄にお金を使う必要はないよ」
「あ……はあ……」
ルミレラ蒼神官は涼し気なレイの顔を見て、今度は自分が赤くなって押し黙ったのだった。
ルミレラ蒼神官が朝の報告を終えて、レイの執務室から出ていくと、レイは夏神殿三階にある自身の執務室の窓から、首都キリブを見渡す。
眼下のキリブは、民家の屋根が朝の光を受けて反射し、海は朝日に青く輝いていた。
炊飯の煙があがり、人々が港で忙しく働いているのが見える。
空は濃い青で、夏島独特の入道雲が海から立ち昇っている。
夕方には、もしかして夕立も降るかもしれない。
レイは人のいとなみを感じた。
黄色い蝶がひらひらと窓の外を飛んでいった。
「あの蝶も誰かの生まれ変わりで、私に逢いに来たのかな……」
レイは夏島の昔話を思い出して、独り言をつぶやいた。
おわり