第17話 夏島の貴石
文字数 2,458文字
夏神殿でまた一夜泊まり、次の日にはレイと秋島へと出発することになった。
秋島に行くには、また馬車で夏島の果てまで行き、飛行船に乗らなくてはいけない。
しかし、レイは出発前に見せたいものがあると、クレスを夏神殿の聖殿へと連れて行った。
夏神殿の聖殿、それは夏主であるレイのための聖殿であり、一般の人間がレイに謁見するための部屋だ。
中に入ったクレスは、神聖な雰囲気に少し気圧された。
青をふんだんに使ったステンドグラスが周りに張り巡らされて、天窓から光が差し込んでいる。
正面に豪華な椅子があり、ここに正装したレイが座ったら、やはり神々しいだろうなとクレスは思った。
正面側の神殿の庭の方にバルコニーが設けられていて、その反対に小さな扉があった。
「ここに入るよ」
レイは小さな扉のほうへ向かった。
「ああ」
「この扉は私しか開けられない。中には夏島の貴石が安置されている」
「夏島の貴石……!」
それは、レイが不在のときに夏島を覆う結界をつくる、神秘の貴石のことだった。
この世界は、季主の力が宿った貴石に護られている。
レイが夏島にいるときは、レイ自身が夏島を覆う結界をつくっているが、夏島に不在の場合にはその貴石がレイの代わりとなる。
今、レイはクレスについて秋島に向かおうとしている。
自分の力を貴石に込めて行かないと、夏島の結界が切れるし、秋島で力の混乱が起こる。
それを防ぐためにレイは自分の貴石に力を込めにきたのだ。
「そんな大事なものをみせてくれるのか……!」
「どっちみち、この部屋は私しか開けられない。盗まれる心配もないし、中を見るだけだから。貴石を見る人間は初めてだけれどね」
小部屋の中へ入ると、中央の台座にこぶし大の青い石がおいてあった。
ブルーサファイア―― 夏島の貴石。
「これから私の力をこの貴石に込めようと思う。少し眩しいかもしれない」
「ああ、……見てていいのか、俺」
「うん」
そう言うが、レイは両手を広げて目をつむった。
青い光が足元から広がり、幾何学模様を描いて小部屋の壁を走り登る。
丸い天井にも幾何学模様をえがいて青い光が浮き上がると、光は中央に集まり、一筋の糸のようになって中央に安置してあるブルーサファイアに吸い込まれていった。
その途端、ブルーサファイアは青く光り出し、すっと宙に浮いた。
淡く発光しながら宙に浮く青い貴石を見て、レイはふっと肩の力を抜く。
「これで夏島の結界は大丈夫」
クレスに振り返り、にこりと笑顔を見せる。
クレスは目の前の神秘的な出来事にただ感嘆の溜息をついていた。
「すっげー。これが夏島を護ってるのか……」
青く輝く貴石とレイを見比べ、レイはやはり人間ではないのだな、とクレスは妙に実感した。
「一仕事おわったし、今度こそ秋島に行こうか、クレス」
「……あ、ああ」
クレスとレイは貴石の部屋をあとにして、神殿の外へと足をむけた。
次にレイは夏神殿の敷地内にある小さな祠のような場所へと向かった。
そこには、木々の間に祠があり、その中に大きな扉が置いてあった。大神殿にある林の中の祠と同じつくりで、周りに人気 はなかった。
クレスもレイも着替えて、またベストとズボン、ブーツという、旅装束になっている。
コハクも準備万端だ。ルミレラ蒼神官も見送りに来ている。
「ここはね、季主の道というんだ」
「季主の道?」
「そう。ここから私の力で、秋島までの道を開く。この先の洞窟を抜ければ、着いた先は秋島だ」
そういうが、レイはさっと扉を撫でた。
ノブを回してその扉を開くと、周りが青い宝石のような石でできた洞窟になっている。
「行こう」
「……ああ」
クレスも半信半疑でレイのあとをついていく。
見送りに来ていたルミレラ蒼神官が、心配そうにレイのあとを見ていた。
「いってらっしゃいませ、レイファルナス様」
「今回はちょっと長くなるかもしれないけど、それまで夏島をよろしくね、蒼神官」
「うけたまわりました」
ルミレラ蒼神官が両手を組んで頷くと、レイは彼女に手を振り、季主の道の奥へと進む。
そのあとをクレスも進んでいった。クレスのあとをコハクもテトテトと歩いていく。
「そういえば、レイはこんなに夏島を空けてていいのか? 夏主なのに」
「前回も仕事で主島に行ったのだし、今回もある意味仕事だから」
「前回って、この前? 主島に何しに行ってたんだ?」
「中央冷暖房装置の力の補充に。ちなみに冬島にも行ってきたばかりだ。夏島を出発して秋島、冬島、主島と回って夏島に帰ってきたんだ。季主の道を使わなかったのは旅が趣味だから」
旅が趣味……そういえばレイは楽師まがいのことをしていた、とも言っていたとクレスは思い出した。
「旅は面白いよ。笛を吹いてお金を稼いでいたこともあったし」
「……夏主が……?」
不思議そうに問うと、レイは笑った。
「叔父さんの食堂で仕事をしていた、将来の大神官には言われたくないな」
そう言いながら進んでいくと、まわりの青い透明な石は、いつの間にか緑の透明な宝石のような石に変わっていて、緑柱石が立ち並ぶ洞窟に様変わりしていた。
光源は、その石から発せられている。さっきまでサファイアのような青い光だった洞窟内は、エメラルドのような緑の光で覆われていた。
「もうすぐ着くよ」
「え、もう?」
時間にして一刻あたりか。
しばらく歩いていると、緑色の扉が見えた。
それをレイが押すと。
クレス達は秋神殿前方の林の中の祠へと出た。
乾いた風が、クレスの頬を撫でた。
祠を出ると林の奥には大きな茶色の壁の神殿が視える。太陽の光に照らされて、正面玄関を飾る列柱の陰影がはっきりと見えた。
秋神殿だ。
クレスたちはあっという間に、秋島、秋神殿へと到着した。
秋島に行くには、また馬車で夏島の果てまで行き、飛行船に乗らなくてはいけない。
しかし、レイは出発前に見せたいものがあると、クレスを夏神殿の聖殿へと連れて行った。
夏神殿の聖殿、それは夏主であるレイのための聖殿であり、一般の人間がレイに謁見するための部屋だ。
中に入ったクレスは、神聖な雰囲気に少し気圧された。
青をふんだんに使ったステンドグラスが周りに張り巡らされて、天窓から光が差し込んでいる。
正面に豪華な椅子があり、ここに正装したレイが座ったら、やはり神々しいだろうなとクレスは思った。
正面側の神殿の庭の方にバルコニーが設けられていて、その反対に小さな扉があった。
「ここに入るよ」
レイは小さな扉のほうへ向かった。
「ああ」
「この扉は私しか開けられない。中には夏島の貴石が安置されている」
「夏島の貴石……!」
それは、レイが不在のときに夏島を覆う結界をつくる、神秘の貴石のことだった。
この世界は、季主の力が宿った貴石に護られている。
レイが夏島にいるときは、レイ自身が夏島を覆う結界をつくっているが、夏島に不在の場合にはその貴石がレイの代わりとなる。
今、レイはクレスについて秋島に向かおうとしている。
自分の力を貴石に込めて行かないと、夏島の結界が切れるし、秋島で力の混乱が起こる。
それを防ぐためにレイは自分の貴石に力を込めにきたのだ。
「そんな大事なものをみせてくれるのか……!」
「どっちみち、この部屋は私しか開けられない。盗まれる心配もないし、中を見るだけだから。貴石を見る人間は初めてだけれどね」
小部屋の中へ入ると、中央の台座にこぶし大の青い石がおいてあった。
ブルーサファイア―― 夏島の貴石。
「これから私の力をこの貴石に込めようと思う。少し眩しいかもしれない」
「ああ、……見てていいのか、俺」
「うん」
そう言うが、レイは両手を広げて目をつむった。
青い光が足元から広がり、幾何学模様を描いて小部屋の壁を走り登る。
丸い天井にも幾何学模様をえがいて青い光が浮き上がると、光は中央に集まり、一筋の糸のようになって中央に安置してあるブルーサファイアに吸い込まれていった。
その途端、ブルーサファイアは青く光り出し、すっと宙に浮いた。
淡く発光しながら宙に浮く青い貴石を見て、レイはふっと肩の力を抜く。
「これで夏島の結界は大丈夫」
クレスに振り返り、にこりと笑顔を見せる。
クレスは目の前の神秘的な出来事にただ感嘆の溜息をついていた。
「すっげー。これが夏島を護ってるのか……」
青く輝く貴石とレイを見比べ、レイはやはり人間ではないのだな、とクレスは妙に実感した。
「一仕事おわったし、今度こそ秋島に行こうか、クレス」
「……あ、ああ」
クレスとレイは貴石の部屋をあとにして、神殿の外へと足をむけた。
次にレイは夏神殿の敷地内にある小さな祠のような場所へと向かった。
そこには、木々の間に祠があり、その中に大きな扉が置いてあった。大神殿にある林の中の祠と同じつくりで、周りに
クレスもレイも着替えて、またベストとズボン、ブーツという、旅装束になっている。
コハクも準備万端だ。ルミレラ蒼神官も見送りに来ている。
「ここはね、季主の道というんだ」
「季主の道?」
「そう。ここから私の力で、秋島までの道を開く。この先の洞窟を抜ければ、着いた先は秋島だ」
そういうが、レイはさっと扉を撫でた。
ノブを回してその扉を開くと、周りが青い宝石のような石でできた洞窟になっている。
「行こう」
「……ああ」
クレスも半信半疑でレイのあとをついていく。
見送りに来ていたルミレラ蒼神官が、心配そうにレイのあとを見ていた。
「いってらっしゃいませ、レイファルナス様」
「今回はちょっと長くなるかもしれないけど、それまで夏島をよろしくね、蒼神官」
「うけたまわりました」
ルミレラ蒼神官が両手を組んで頷くと、レイは彼女に手を振り、季主の道の奥へと進む。
そのあとをクレスも進んでいった。クレスのあとをコハクもテトテトと歩いていく。
「そういえば、レイはこんなに夏島を空けてていいのか? 夏主なのに」
「前回も仕事で主島に行ったのだし、今回もある意味仕事だから」
「前回って、この前? 主島に何しに行ってたんだ?」
「中央冷暖房装置の力の補充に。ちなみに冬島にも行ってきたばかりだ。夏島を出発して秋島、冬島、主島と回って夏島に帰ってきたんだ。季主の道を使わなかったのは旅が趣味だから」
旅が趣味……そういえばレイは楽師まがいのことをしていた、とも言っていたとクレスは思い出した。
「旅は面白いよ。笛を吹いてお金を稼いでいたこともあったし」
「……夏主が……?」
不思議そうに問うと、レイは笑った。
「叔父さんの食堂で仕事をしていた、将来の大神官には言われたくないな」
そう言いながら進んでいくと、まわりの青い透明な石は、いつの間にか緑の透明な宝石のような石に変わっていて、緑柱石が立ち並ぶ洞窟に様変わりしていた。
光源は、その石から発せられている。さっきまでサファイアのような青い光だった洞窟内は、エメラルドのような緑の光で覆われていた。
「もうすぐ着くよ」
「え、もう?」
時間にして一刻あたりか。
しばらく歩いていると、緑色の扉が見えた。
それをレイが押すと。
クレス達は秋神殿前方の林の中の祠へと出た。
乾いた風が、クレスの頬を撫でた。
祠を出ると林の奥には大きな茶色の壁の神殿が視える。太陽の光に照らされて、正面玄関を飾る列柱の陰影がはっきりと見えた。
秋神殿だ。
クレスたちはあっという間に、秋島、秋神殿へと到着した。