第20話 毛利と本願寺との天秤、測りかねましたか?

文字数 759文字

 村重は小猿を睨みつける。小猿は笑って言った。
「そのくらいお疑いになられた方がよろしいでしょう」
 この老練な忍びの考えていることが村重には謀りかねた。されどいま頼るべくは忠実な家臣より謀(はかりごと)で信長を倒せる透波乱波(すっぱらっぱ)である。伊賀者であろうと甲賀者であろうと、孝高以上の智謀で相手を出し抜ける。
 村重は哄笑した。
「そちを信じよう。騙されるならばそれは儂の力量じゃ」
 小猿の片方の口端が僅かに上がる。
「して、使者をどう扱えばよい? 会えば刃を抜くのであろう?」
「会うと見せかけ小寺殿だけ饗応の場に誘い、牢に入れなされ。従者はその場で処せばよろしい」
「生け捕りせよと?」
「左様。ただし士卒の預かりではなく、郭下に罪人を入れる土牢がござりましょう。そこに手足縛ったまま放り込まれるがよろしい」
「大小佩(は)く武士(もののふ)にその扱いは無礼千万であろう」
 小猿は冷笑する。
「入牢すれば丸腰でござる。大小など関係ありませぬ」
「されど、武士の情けというものもある」
 下賤な忍びにはわからぬ、村重は小猿を見下しそう思った。しかし、小猿も情けに引き摺られる反乱の将を見下して言った。
「されば、何故(なにゆえ)殿は謀反を起こしたのでござるか?」
 問われて村重は胸の内で回顧する。その想いを目の前の老忍に悟られまいと。しかし、小猿にとって情けを隠しきれぬ武将の心読みはいとも簡単であった。
「毛利、本願寺との天秤、測りかねましたか?」
「な、何故(なにゆえ)それを?」
「お顔に出ておられまする」
 狼狽を見せる村重。この老忍には胸の内を隠しきれない。
「毛利と内通する本願寺光佐(ほんがんじこうさ)(顕如(けんにょ):浄土真宗大谷派第11代門主)からの文に書かれてございましたな。毛利に庇護された将軍が殿の知行を約束すると」

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