第27話 甲賀者は情勢見てどちらにも与する輩にて

文字数 514文字

「それは影武者でござる」
「影武者? 清秀と右近のか?」
「左様で」
「近習は気づかんのか?」
「さて、気づいておるやもしれませぬな」
「軍がそれで動くか?」
「既に信長の軍でござる」
 寒気立った。ならば自分も甲賀に滅せられるというのか。察してか小猿が言った。
「ご安心召され。殿には我らがおりまする」
 頼もしい。頼もしいが、何故甲賀が信長に加担したのか。確か甲賀は信長と対立していたはず。
「信長が直接雇っておるのか?」
 三河の大名徳川家康が甲賀忍者を数多抱えているとは聞いたことがあるが、信長が抱えているとは聞いたことがない。
 すると衣茅が再び小猿の背後から囁いた。
「滝川一益でござります」
「滝川?」
 丹羽長秀と並ぶ信長の宿老であるが、出自が定かならざる。
 衣茅は言った。
「滝川こそは甲賀忍者であり、甲賀の御屋形であります」
「あやつも卑しき者であったか」
 その言い方に衣茅は嫌悪を抱いたが、代わり小猿が言った。
「ご存念通り、卑しき甲賀は長く信長と敵対しておりましたが、主家六角義賢、義治父子が信長に滅ぼされたのちは、滝川一益を頼って織田の軍門に下りましてござる」
「なんと、厄介よのう」
「厄介でござる。甲賀者は情勢見てどちらにも与する輩にて」
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