第41話 下山甲斐の裏切り?

文字数 792文字


 衣茅はわかっていた。以前丹波らが信長の影武者に敢えて自分と小太郎を引っ掛けさせて信雄と甲賀の術中に嵌ったように見せかけたのは、粗忽者の信雄を戦に引っ張り出そうとしたからである。
「丸山城だと?」
 丸山城はかつての伊勢国司北畠具教が伊賀国への攻め口として天正3年(1575年)に築城し始めたが、途中で作業が中断されたままとなっていた。
「はい」
 衣茅はこの中断されていた城の築城を信雄にさせると言う。
「誰にそのようなことを唆す?」
「内通者に」
「内通者?」
 頷き衣茅は言った。
「寝返ったように見せかけ、我が国に手引きさせるのです」
「お主の考えていることがようわからん」
 衣茅はそこから鈴虫の声に切り替えた。国許であれ内通者はどこにいるかわからない。
「裏の、裏をかくのでござります。我が方の事情をよく知る伊賀者に裏切らせ、信雄に伊賀の攻め方を指南させるのでござります。その一つが丸山城。我らは相手の攻め手をすべて知り尽くし奇襲で叩き潰します」
 丹波はお得意の猫の声でこう返した。
「内通者とは間者のことか?」
 鈴虫が言う。
「間者ではありませぬ」
「違う?」
 鈴虫と猫の奇妙なやりとりは続く。
「策を知りつつ演じる間者ならば拷問にかけられれば当方の策が露見しかねませぬ。されど策を知らせず裏切るよう暗示にかければ、当方の思うがままの筋書きに乗せられるかと」
「左様な難しきことを、いかがして?」
「幻術を使えば容易きことです」
「小猿か」
 伊賀忍術十一名人の下柘植小猿はひとを催眠にかけることができる。
「なるほど」
 猫は尋ねる。
「していったい誰に幻術を?」
 鈴虫は言った。
「有力者なれば相手はその報を信じやすかりましょう」
「有力者?」
 鈴虫は頭にあったある人物を告げた。
「甲斐様がよろしいかと」
 日奈知城主、下山平兵衛。又の名を下山甲斐と言った。小猿の幻術により下山甲斐は伊賀の策中にあって伊賀を裏切った。
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