第40話 第一次天正伊賀の乱、はじまる

文字数 1,030文字

 伊賀国ではいよいよ織田軍との戦が始まろうとしていた。
 ただし相手は織田本軍ではない。信長の次男北畠信雄である。伊勢国を北畠家から奪い取った勢い駆って、信雄は伊賀を信長に相談せず単独で攻め落とそうと謀っていた。
 そして信雄は動いた。
 天正7年(1579年)9月。北畠信雄軍総勢8000の兵が伊賀攻めを開始した。伊賀を裏切って自分の元に投降してきた伊賀の有力土豪下山甲斐から、伊賀衆は士気が下がり統率が取れていない、攻めるなら今との報をもらったからだ。そこで信雄は下山甲斐から指南された要衝地丸山城を攻撃拠点とすることを家臣の滝川雄利や甲賀忍者岩根三郎らと決めた。この城は伊賀の枅川(ひじきがわ)に築城中のままずっと放置されてあった。
「おお、やりおったか」
 この知らせを聞いた百地丹波は手を打って喜んだ。すべては衣茅の計画どおり進んだからである。
「いざ出陣! 丸山城もろとも敵を焼き殺すのじゃ!」
「おう!」
 迎え撃つ伊賀の衆が鬨の声を上げた。伊賀の士気はまったく落ちてなどいなかったのである。

 荒木村重が信長に城を包囲されていた半年も前のことであった。
 はじめに献策したのは小猿であった。村重に仕えていながら小猿は冷静に戦況を分析し伊賀の安泰を考えていた。
「村重はもってあと一年でござろう。されば、この間に東国の武田、上杉、伊達。土佐の長宗我部。薩摩の島津などと手を結ぶが賢明かと」
 小猿は丹波ら上忍三家にそう説いていた。動きの鈍い毛利や石山本願寺を相手にするのではなく、地方の有力守護大名と連携すべきであると。
 しかし、丹波は言った。
「我らの誘いに左様な大大名が動くか?」
 小猿は表情を変えず言った。
「わかりませぬ。されど、仕掛けてみる価値はあるかと」
 各国の守護大名が合従して織田軍を割譲してくれれば、伊賀国の危機が去る。それが小猿の意図するところであった。
 ただ、この策は失敗する。各国に使者を送ったが相手は大大名。室町将軍ですら相手にされないご時世、伊賀一国の要請に誰が相手をしようか。さらに悪いことに、この策が信雄の旗下甲賀忍者岩根三郎に嗅ぎつけられ使者は帰路捕らえられ拷問にかけられた末、殺害された。
 こうなると伊賀一国で織田軍を相手にしなければならないが、せめて信長が来る前に早く信雄だけでも片付けてしまいたいと伊賀衆に焦りが出始めた。
 すると、衣茅がこんな提案を丹波に持ちかけた。
「丸山城を攻撃拠点にさせるよう唆(そそのか)してはいかがでしょう」
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