第46話 有利になるような地形を選んでいた

文字数 771文字


 天正7年(1579年)9月。信雄は10800の兵を率いて伊賀に攻め入った。伊賀長野峠から北畠信雄軍8000。鬼瘤峠(おにこぶとうげ)から柘植保重(つげ やすしげ)軍1500。青山峠から滝川雄利軍1300が侵攻した。
 対する伊賀衆は、百地丹波を総大将に、伊賀十二人衆を頭に国中の土豪を参集させ、そこに参謀役として小猿、小太郎、衣茅らが加わり奇襲でもって迎え撃った。兵の数わずか2000。相手の5分の1に足りぬその数でも百地丹波には勝算があった。それが滝川雄利の恐れた伊賀忍者の巧みな戦術である。
「予定どおり三方の峠からやってきております」
 小猿が丹波に告げる。
「うむ。抜かりはないな」
「は、すでに初手仕掛け終えておりまする」
 小猿が言った仕掛けとは何か?
「手頃な小径に」
 それは兵が峠を越えたところで隘路が崖に崩落するよう仕掛けられていたのである。
「どれほど?」
「それぞれの口に一つずつ」
 各峠口から侵攻を続ける信雄軍の進路に沿って崖に面した細長い道を選び、地盤をくり抜いてそこに板を被せ、数十人も乗れば道が崩れるようにしておいたのである。
「初手でいくら取れると見積もる?」
 丹波は相手の兵力の損傷を尋ねている。
「数百あたりかと」
「少なくはないか?」
 小猿が微笑む。
「目的は足止めと兵の密集でござる。山あいで兵を留めれば暫し逃げ場がござらん。如何ようにでも討ちとれましょう」
 伊賀忍者は木に跨った状態からでも的を外さず手裏剣を放てるし、弓矢も射られる。対して織田軍は平地での戦を想定し武芸を積んでいるため、槍や刀剣を使えぬと抗しようがない。火縄も装備しているが木の上に潜む相手を撃つ稽古は想定していない。伊賀忍者は火縄も地形に応じて撃てる。
 小猿たちは初手で自分たちに有利になるような地形を選んでいた。
 そして、この奇襲は大きな成果を挙げた。
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