第10話 力比べでは力士に敵わん

文字数 625文字

 木猿が鼻先を摘んで父に伝達する。それは不可能を示す合図だった。父から授けられた信長暗殺計画とは褌に隠してある手裏剣を信長の眉間向けて放つといった奇襲であった。ただの手裏剣ではない。刃には毒キノコの胞子とマムシから抽出した毒エキスを混合して作った猛毒の粉末を塗布してある。よって傷が浅くとも命中さえすれば体内に毒を送り込み相手を死に至らしめることができる。
 だが信長たちのいる特設舞台は当時としては珍しい分厚いビードロが鉄枠に嵌め込まれた観賞用の頑丈な扉で四方を塞がれており、簡単には矢や手裏剣を通さないようになっていた。さらに舞台の周りには護衛の衛士が見張っている。
(あれでは投げられん)
 父小猿が合図を返す。
(信忠か信雄の方はどうじゃ?)
(そっちも駄目じゃ)
(ならば下は?)
 舞台下から短剣型のクナイで尻を突けるのではないかと小猿は思ったのだが、木猿は首を振る。
(板が厚すぎて尻まで届かん)
 そもそも木猿は褌にクナイまで仕込んでいない。
(仕留めるのは無理か・・・)
(いや父上、全部勝てば謁見できるやもしれん。その時に・・・)
 相撲大会の優勝力士には信長から褒美が与えられると聞いている。優勝すればその機会が或いは訪れるかもしれぬが、無謀ではあった。
(無理じゃろ、お主は速く動けても力比べでは力士には敵わん)
 木猿の体格は筋肉質であっても目方が足りない。相撲を本業にしている力士とは組み合ったら勝ち目がない。
 その時である。
「お前、何をしている!」

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