第21話 小寺殿の奸謀が完全潰えるまででござる

文字数 758文字

 青ざめる村重。本願寺光佐からの起請文は息子の村次以外誰にも見せていない。そこには信長を倒せば、京を追われた室町将軍足利義昭が村重に新たな知行国を約束すると、確かに書かれていた。
 試されている。信長の厚い信任をうけている自分を、将軍に代わって天下人となった信長から引き離すこの誘いは明らかに試されている。
 しかし、村重はこの失脚した将軍と毛利に賭けてみることにした。己が動けば、きっと信長を倒せる。信長を倒せば、いま以上の地位が約束されている。それが村重謀反の誠の理由だった。
 村重は小猿に白旗をあげる。
「恐れ入った。しかし、お主らは如何にしてそこまで知り尽くせる?」
 小猿は不敵な笑みを浮かべた。
「それが伊賀忍者でござる」
 光秀から有能な忍びを預けると言われた意味がいまようやくわかった。この諜報能力は差し詰め一騎当千に値する。毛利に与したうえ、さらに伊賀者を味方につけておけば必ず信長に勝てる。村重はそう思った。
「相分かった。そちの申すとおり孝高を土牢に封じ込めよう」
 さきほどまで見下していたこの忍びを、いまは自分の補弼の如く遇している。そして、村重は恐る恐る尋ねた。
「して、いつまで放り込んでおけばよい?」
 村重はこの時点まで人質と考えていた。人質ならば交換の条件として織田軍の侵攻を止める材料くらいにはなると。せいぜい十日、長くてひと月。だが、村重はまだ伊賀者を理解していなかった。
「殿が旧知を旧知と思えぬほど、小寺殿の奸謀が潰えるまででござる。お分かりでございますな?」
 小馬鹿にしたような言い方に村重は苛ついた。
「はっきり申せ!」
 小猿は表情を変えず言った。
「籠城すれば翌年までは持ち堪えられましょうや。それまで飼っておきなされ。たとえ不具になろうと」
 伊賀忍者の残忍さを、村重は改めて知る思いだった。
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