第19話 儂をも謀っておるのではないのか?

文字数 506文字

 夜更け。村重は寝所に小猿を呼んだ。急ぎ内密にて申しあげたきことありと軍議の後、月下、影が慕うが如く耳元で囁かれたからである。
 一旦は枕元に安置した大刀を、村重は緊張した面持ちで引き寄せた。
「何ごとぞ?」
 信長の軍勢が夜襲でもかけてくるのかと思った。
 すると小猿は身を屈めた姿勢のまま村重に近寄り、燭台の火を吹き消した後、こう告げた。
「小寺孝高殿がこちらへ向かっておりまする」
 村重は虚を突かれたように表情を緩める。
「何のことかと思えば、急ぎとはそのようなことか」
「殿に翻意を促しに」
「わかっておるわい」
「お会いにならぬほうがよいかと」
「旧知の仲じゃ、話だけは聞こうと思うとる」
「その旧知に奸謀がござりまする」
「奸謀? 何のことはない、適当にあしらうつもりじゃ」
 小猿は声を潜めて言った。
「殿のお命狙っておりまする」
「孝高が? まさか」
「そのまさかを利用する男でござりまする。信じぬ方がよろしかろうと」
「儂よりあやつのこと知らぬくせに何故(なにゆえ)そこまで言い切れる?」
「伊賀忍者の極意は心読みでござります。親しかろうが親しくなかろうが、敵方であろうが味方であろうが」
「ならば儂をも謀っておるのではないのか?」

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