第29話 ご決断を!
文字数 522文字
いつまで待っても物資は北上してこない。
「いかがすればよい?」
小猿は呟いた。
「捨てるしかありませぬな、この城を」
このままでは皆飢え死にする。
村重が首を振る。
「無理じゃ。ここには我らの妻子までおる。おいてはゆけぬ」
「では連れていきなされ」
「それも無理じゃ。この包囲の中、どうして連れ出せようか」
「では籠城を続けなされ」
「んんっ・・・」
「殿、もはやこの城では戦えませぬぞ」
小猿の影に隠れていた衣茅に村重は問うた。影のように潜んでいるが常に冷静に情勢を見ている。そのことを村重は知っていた。
「衣茅、お主ならどうする?」
問われて衣茅は僅かに頭を出した。
「畏れながら、信長を倒すことが本望であるなら足手まといなど捨て、尼崎に参ります。いますべきは毛利と本願寺との共闘。殿様の武勲ではござりませぬ」
妻子を足手まといとまで言ってのけた衣茅に、小太郎はよくぞ申したと陰ながら思った。
まだ葛藤する村重に、忍びなれど衣茅の勇気に小猿が大喝する。
「ご決断を!」
村重の表情から血の気が引いていく。
「お主らが正しい」
そして言った。
「これより近習だけを連れて城を出る。小猿、小太郎、衣茅、先導せよ」
「承知仕りました」
三人の忍びの姿は次の瞬間消えていた。
「いかがすればよい?」
小猿は呟いた。
「捨てるしかありませぬな、この城を」
このままでは皆飢え死にする。
村重が首を振る。
「無理じゃ。ここには我らの妻子までおる。おいてはゆけぬ」
「では連れていきなされ」
「それも無理じゃ。この包囲の中、どうして連れ出せようか」
「では籠城を続けなされ」
「んんっ・・・」
「殿、もはやこの城では戦えませぬぞ」
小猿の影に隠れていた衣茅に村重は問うた。影のように潜んでいるが常に冷静に情勢を見ている。そのことを村重は知っていた。
「衣茅、お主ならどうする?」
問われて衣茅は僅かに頭を出した。
「畏れながら、信長を倒すことが本望であるなら足手まといなど捨て、尼崎に参ります。いますべきは毛利と本願寺との共闘。殿様の武勲ではござりませぬ」
妻子を足手まといとまで言ってのけた衣茅に、小太郎はよくぞ申したと陰ながら思った。
まだ葛藤する村重に、忍びなれど衣茅の勇気に小猿が大喝する。
「ご決断を!」
村重の表情から血の気が引いていく。
「お主らが正しい」
そして言った。
「これより近習だけを連れて城を出る。小猿、小太郎、衣茅、先導せよ」
「承知仕りました」
三人の忍びの姿は次の瞬間消えていた。